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試練が人生を豊かにする(喜多川泰『「福」に憑かれた男』を読んで)

書店の店主に取り憑いた「福の神」の語りを通して、人生を豊かにする生き方のヒントを教えてくれる小説。

面白いのは、福の神が与えてくれるのは「幸せ」そのものではなく、「試練の数々」だということである。

「何してくれとんねん!」と思いきや、実はその試練の数々によって、人間は変わることができるというのである。

著者は言う。

「人生は不思議なもので、これ以上ないほどの危機的状況こそが、後から考えてみれば、自分の人生にとって、なくてはならない貴重な経験になるということを、誰もが経験から知っています」

僕も全くその通りだと思う。

人生のどん底の真っ暗闇で、はいつくばりながら拾ったものが、その人を一生支え続けてくれるのだと僕は信じている。

大きな試練であればあるほど、その人を大きく変える可能性がある。そのぶん辛いし苦しいけど、それを乗り切れば、新しい景色が見えてくるかもしれない。

少なくとも、同じような苦しみを経験している人に、「いやあ、実は俺もこんなことがあって……。でもまあ何とかなりまっせ。何なら力になりまっせ(笑)」と励ましてあげられるようにはなるだろう。

たいしたことないように思われるかもしれないけど、実際これは、ほとんど人命救助ではないだろうか。僕はこれを「菩薩力」と呼びたい。

チャンスはピンチの顔をしてやってくるし、不幸が幸福を運んで来ることもある。人間万事塞翁が馬。禍福はあざなえる縄のごとし。

でも人間は弱い生き物なので、途中で挫けそうになることもある。これ以上一歩も前に進みたくない、もう全てを終わらせたい、と思うこともある。

そんな時に、生きる力、前に進む勇気を与えてくれるのも、やっぱり人間なのである。かくして福の神の仕事とは、そのような出会いのプロデュース業なのであった。

さて、そんな福の神に憑かれたい人は、次の三つを常に心掛けなければならない。

「人知れず他の人のためになるいいことをする」
「他人の成功を心から祝福する」
「どんな人に対しても愛をもって接する」

これは「幸せの条件」ではなく、「福の神に憑かれる条件」である。逆に言えば、こういう人ほど、さまざまな試練にぶち当たるということもできる。

いやはや、世界は複雑である。


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