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マカ・ママレードの2024年に見た映画

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マカ・ママレードが、2024年に見た映画の感想文です。
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#ネタバレ

観客を楽しませることに全力~『侍タイムスリッパー』感想(ネタバレあり)〜

観客を楽しませることに全力~『侍タイムスリッパー』感想(ネタバレあり)〜

(以下、『侍タイムスリッパー』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)

作り手たちの時代劇への愛が見ているこちらにも伝わってくる、エンターテインメント作品でした。

「低予算で時代劇を作る」という難易度の高い挑戦を、物語上の設定やスタッフの工夫で上手く乗り切っていたと感じました。
例えば、昔に比べて高画質な映像を撮ることができる現代では、時代劇のセットや衣装など

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いつもの三谷幸喜と新しい三谷幸喜~『スオミの話をしよう』感想(ネタバレあり)〜

いつもの三谷幸喜と新しい三谷幸喜~『スオミの話をしよう』感想(ネタバレあり)〜

(以下、映画『スオミの話をしよう』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。また『オケピ!』と『刑事コロンボ』の「死者の身代金」の内容にも一部触れているので、そちらもご注意ください)

内容は、適宜、加筆・修正します。

『スオミの話をしよう』は三谷幸喜の5年ぶりの監督映画ということですが、見終わってみると、今までの三谷幸喜らしい作風が全体に見えつつも、新しい三谷幸喜

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「映画館」でこそ味わえる臨場感~『ツイスターズ』感想(ネタバレあり)〜

「映画館」でこそ味わえる臨場感~『ツイスターズ』感想(ネタバレあり)〜

(以下、『ツイスターズ』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)

まず、「女性が主人公」ということに対して、非常に誠実な作品だと感じました。劇中でタイラーが記者に向かって「彼女(ケイト)の記事を書け。」と言うところが象徴するように、ケイトが映画の主人公であることが徹底されており、男性の登場人物たちがそれを一切邪魔しません。主要キャラクターの一人であるタイラーは、

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男性の連帯を描く~『デッドプール&ウルヴァリン』感想(ネタバレあり)〜

男性の連帯を描く~『デッドプール&ウルヴァリン』感想(ネタバレあり)〜

(以下、『デッドプール&ウルヴァリン』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)

『デッドプール&ウルヴァリン』、ドルビーシネマで鑑賞しました。

デッドプールが踊りながらローガンの死体を駆使して(?)TVAの職員を血祭りにあげるオープニングクレジットや、とある豪華出演者の死に様など、『デッドプール』シリーズでおなじみの「残酷ギャグ」が冴えわたっており、最初から最

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それぞれの「笑顔」の裏側~『ロイヤルホテル』感想(ネタバレあり)〜

それぞれの「笑顔」の裏側~『ロイヤルホテル』感想(ネタバレあり)〜

(以下、『ロイヤルホテル』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)

映画を見て、強く印象に残ったのは、「女性の笑顔」と「男性の笑顔」の違いです。
劇中でハンナは「もっと笑顔を見せろ!」とパブの店長や客に言われます。また、言葉で言わなくても、店の常連ドリーなどはあからさまに不機嫌で暴力的な態度を見せることで、強制的に愛想よく振舞うようハンナを抑圧します。
一方、パ

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そこに答えがなくても〜『劇場アニメ「ルックバック」』感想(ネタバレあり)〜

そこに答えがなくても〜『劇場アニメ「ルックバック」』感想(ネタバレあり)〜

(以下、『劇場アニメ「ルックバック」』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)

上映時間が58分と聞いていたので、「見やすくていいな。」と思いながら映画館に足を運んだのですが、良い意味でとても長く感じました。主人公二人と一緒に年月を過ごして年をとったような感覚を覚えました。
僕はコミティアなどで漫画の同人誌を出品していますが、自分が「井の中の蛙」だと知った時の焦

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フラっと映画館に寄って鑑賞するのにちょうどいいロマコメ〜『恋するプリテンダー』感想(ネタバレあり)〜

フラっと映画館に寄って鑑賞するのにちょうどいいロマコメ〜『恋するプリテンダー』感想(ネタバレあり)〜

(以下、映画『恋するプリテンダー』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)

学校や仕事帰りにフラっと映画館に寄って鑑賞するのにちょうどいいロマコメ映画という印象です。

まず、オープニングの2人の出会いのシーンで、ベタだけど思わず笑ってしまうユーモア、2人の関係性についてつく嘘(カフェの店員に自分達が夫婦だと偽る)、などを手際よく描いて映画全体のトーンやストーリ

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たっぷりした間の編集〜『悪は存在しない』感想(ネタバレあり)〜

たっぷりした間の編集〜『悪は存在しない』感想(ネタバレあり)〜

(以下、映画『悪は存在しない』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)

石橋英子のライブ用サイレント映像と共に生まれたというユニークな成り立ちが、この映画の自由でありながら確固とした世界観を持つ様にしっかりと反映されていたように感じました。

映画が始まってからしばらく、ものすごくゆったりとしたテンポ感に少し戸惑いましたが、この、まるで水挽町(みずびきちょう)で

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一筋縄ではいかない風刺劇〜『アメリカン・フィクション』感想(ネタバレあり)〜

(以下、映画『アメリカン・フィクション』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)

一筋縄ではいかない様々なレイヤーが重なった複雑な味わいのある風刺劇で、とても楽しめました。

何気ないセリフやカットの一つ一つに複数の意味やユーモアがこめられており、特に文学賞の会議において、「今こそ黒人の声に耳を傾けなきゃ」と言いながら、その場にいる黒人の意見を無視した決定を下す

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素晴らしい脚色~映画『夜明けのすべて』感想(ネタバレあり)~

素晴らしい脚色~映画『夜明けのすべて』感想(ネタバレあり)~

(以下、映画『夜明けのすべて』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)

瀬尾まいこさんの原作を読んだ上で、映画を見に行ったのですが、脚色が本当に見事だったと思いました。

まず大きな変更点として、主人公たちが務める会社が原作の「栗田金属」から、プラネタリウムを扱う「栗田科学」に変わっています。このことにより、本作のテーマになっている「夜」について、プラネタリウム

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きれいなシンメトリー親子〜『僕らの世界が交わるまで』感想(ネタバレあり)〜

きれいなシンメトリー親子〜『僕らの世界が交わるまで』感想(ネタバレあり)〜

(以下、映画『僕らの世界が交わるまで』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)

価値観が合わずすれ違ってばかりいるが、実は似た者同士の母子を、きれいなシンメトリーの構造で描いていたのが印象的でした。
例えば冒頭から、配信中の息子の部屋のドアを開ける母、母がシャワーを浴びている浴室のドアを開ける息子、と対(つい)になる構図で主人公二人を描いています。その後も、家族

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