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【読書】書き出しの一文で鷲掴みにされた一冊

雪は、舞い始めてから数分で根雪を約束しそうな降りに変わった。

桜木紫乃「砂上」

この出だし、素敵じゃないですか?

本を読み始めた時に、「あ、これはぜったいに面白い」と思うのってなぜだろう。

まだほとんど何も起きてないのに。
主人公の人柄もわからないのに。

それでもなお、読み手に面白いと確信させるような文章。
そういう文章を書きたいな…と、切に願わずにはいられない。

続く文章も素敵だ。

この先は、根雪が空に呼びかけるせいで毎日雪が降る。

桜木紫乃「砂上」

ただ雪が降っているというだけなのに、根雪が空に呼びかけるから、と因果関係を見出す感性が素敵だ。 

根雪は、いったい何のメタファーなんだろう…とワクワクしてしまう。


砂上と出会えたきっかけ

ブックホステル神保町で、出会った。
こちらの記事でも書いたけど、このホステルには選書してくれるサービスがある。

選書って、本当に良い。
自分じゃ選ばない本と出会える。
砂上も、選書サービスで出会って「これは!」と思ったうちの一冊だ。


「砂上」とても面白かった

フィクションを創る人のフィクション。
こういう劇中劇の構成が大好物だ。

砂上も、まさに劇中劇が魅力的な小説だ。
主人公である怜央は、「自身が産んだ娘を母が子供として育てている」という実話を小説に書こうとする。
小説を書きながら怜央は、自分の人生、そして母の人生に向き合っていく。
そして、行き詰まって停滞していた怜央の人生も、小説の完成とともに動き出していく。

明るい未来が拓けていくというよりも、怜央の中で覚悟が決まる、という感じに近い。
読後は不思議な爽快感があった。

人はなぜフィクションを書くのだろう

この物語では、フィクションを書く人に焦点が当てられる。
もちろん怜央の実話がベースなのだが、あくまで小説というフィクションに落とし込んで書くのだ。

怜央の小説の伴走者である、編集者の小川乙三という編集者は、こんなことを怜央に語る。

『本気で吐いた嘘は、案外化けるんです。
嘘ということにして書かないといけない現実がありますから。』

このセリフが妙に心に残った。

嘘ということにして書かないといけない現実。
そういう現実を背負っていて、書かずにはいられない人がこの世の中にはいる。
そういう人の書いたものに、私は否応なく惹かれてしまうんだな、と思った。
だから、私は読書がやめられないんだなぁ、と。

この小説を読んで降りてきた、「フィクションを書く人」というテーマで記事を一本書いてみました👇
よければ、ご覧ください。


砂上、とにかくおすすめです!
桜木紫乃さんの他の作品も読んでみたいなと思っているので、おすすめ作品がある方はぜひコメントで教えてください♪

《おわり》

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