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法律学について、嘘の知識を語り続ける方々。

ツイッターで法学関係についてのツイートを見ていると、間違いの知識をさも当然のごとく語っている方を多く見かけます。

特に、「他者に教えを垂れる系」の方が殆どのようです。

間違いの中でもいくつかパターンがあって、ごくごくシンプルな、「なんで確認しないんだ?!」との思いがこみ上げてくる「条文・判例を知らない系」の方がとんでもなく多いように見受けられます。

その中でも単純すぎるほど単純な、「そんな条文があることなんて知らなかったよ!」という方も多いですし、「条文は見つけたけど、どう読むのか分からなかったよ!」という方も多いようです。

今回は、そのような方々に登場してもらって、少し説明を加えてみました。

それでは、暫くの間、お付き合いください。

1.「公序良俗」という規定は存在しない?

これは結論だけを。

「公序良俗」は民法90条に規定されていますし、最後の手段というわけでもありません。

【公序良俗】
★民法90条

公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

2.殺人罪の法定刑を減軽したら、最下限は懲役2年6月?

このツイート主は、殺人罪の法定刑を減軽して最も軽くすると、最下限は「懲役2年6月になる」といっています。

殺人罪の法定刑は、「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」となっています。

そもそも刑を減軽するとは、有期刑ならば、その上限および下限について、それぞれ二分の一を減ずるということになります。

殺人罪でいえば、法定刑の下限は懲役5年ですので、そこから二分の一を減じて、懲役2年6月ということになります。

下のツイート主は、この「懲役2年6月」が最下限だといっていますが、本当にこれで終わりなのでしょうか?

このような場合、法律上の減軽事由があれば、その減軽を行った上で酌量減軽を行えば、殺人罪の下限は懲役1年3月になります。

法律上の減軽事由とは、刑法の各条項で定められている減軽事由による減軽で、具体的には「心神耗弱による刑の減軽(39条2項)」や「自首(42条1項)」などを指します。

そのような法律上の減軽を経た上で、更に「犯罪の情状に酌量すべきものがあるとき」は、その刑を減軽することができるとされているものが酌量減軽です(66条)。

法律上の減軽を一回、そして上記のような事情がある場合には、酌量減軽を一回、行うことができます。

そうすると、殺人罪では、法定刑の下限が「懲役5年」ですので、先ず法律上の減軽として、その二分の一を減じます(68条3号)。
すると、懲役2年6月になります。

更にそこから酌量減軽を行うと、懲役2年6月から二分の一を減じることになるので、懲役1年3月になります。

これが、殺人罪の法定刑について、法律上の減軽と酌量減軽を行った結果となります。
これを「処断刑」といいます。

【法律上の加減と酌量減軽】
★刑法67条

法律上刑を加重し、又は減軽する場合であっても、酌量減軽をすることができる。

3.鑑定留置に「外部の一般医療機関」は関係ない?

鑑定留置については、以下の条文を見て頂くことが一番だと思いますので、先ずは条文をご覧ください。

太字のところだけ見て頂ければ大丈夫ですので!

※※※※※※※※※※※※※※※
【鑑定留置】
★刑事訴訟法167条
 
 被告人の心神又は身体に関する鑑定をさせるについて必要があるときは、裁判所は、期間を定め、病院その他の相当な場所に被告人を留置することができる。
(以下略)

【鑑定留置の請求】
★刑事訴訟法224条

 前条第一項の規定により鑑定を嘱託する場合において第百六十七条第一項に規定する処分を必要とするときは、検察官、検察事務官又は司法警察員は、裁判官にその処分を請求しなければならない。

〈2項〉
 裁判官は、前項の請求を相当と認めるときは、第百六十七条の場合に準じてその処分をしなければならない。この場合には、第百六十七条の二の規定を準用する。
※※※※※※※※※※※※※※※

太線で強調した文言の通り、鑑定のために被疑者・被告人を、「病院その他の相当な場所に」留置することができると記載されています。

実際は、拘置所に留置することが多いと思われますが、先の条文の文言の通り、病院を留置場所として利用することもあります。

このツイート主は、
「『鑑定留置』に、外部の一般医療機関は、あり得ません」
と仰っていますが、実際は「外部の一般医療機関」に留置されることもありますし、鑑定を行う医師も、その医療機関の精神科医です。

鑑定場所は、その医療機関で行うこともあれば、留置されている拘置所に担当医師が訪れて行う場合もあります。
勿論、その両方を行う場合もあります。

4.尊属殺の規定は、「道徳的なものが法に反映されていたから違憲判決が出た」のか?

次は、尊属殺人罪についてのツイートです。
尊属殺人罪は、平成7年(1995年)に削除されています。

尊属殺人罪の規定は、それ以前の昭和48年4月4日に、最高裁判所の判決において、憲法14条に反するとして違憲と判断されました。

なぜこの規定が違憲と判断されたのか?ということについて、その理由を間違えている方のツイートがこれです。

端的にいえば、「尊属殺はそれ以外の者に対する殺人よりも、道徳的にみて重いものである」ということを最高裁は正面から認めています。

このツイート主がいうような、
「道徳的なものが法に反映されていたから違憲判決が出た」というわけではありません。

では何故憲法14条違反とされたかというと、「死刑または無期懲役刑のみという尊属殺の法定刑が、立法目的に対して不当に重すぎ、普通殺に比して著しく不合理なものと判断されたから」なのです。

ここで、少し長くなりますが、判決文を引いてみます。

「通常、卑属は父母、祖父母等の直系尊属により養育されて成人するのみならず、尊属は、社会的にも卑属の所為につき法律上、道義上の責任を負うのであつて、尊属に対する尊重報恩は、社会生活上の基本的道義というべく、このような自然的情愛ないし普遍的倫理の維持は、刑法上の保護に値するものといわなければならない。しかるに、自己または配偶者の直系尊属を殺害するがごとき行為はかかる結合の破壊であつて、それ自体人倫の大本に反し、かかる行為をあえてした者の背倫理性は特に重い非難に値するということができる。」

「このような点を考えれば、尊属の殺害は通常の殺人に比して一般に高度の社会的道義的非難を受けて然るべきであるとして、このことをその処罰に反映させても、あながち不合理であるとはいえない。そこで、被害者が尊属であることを犯情のひとつとして具体的事件の量刑上重視することは許されるものであるのみならず、さらに進んでこのことを類型化し、法律上、刑の加重要件とする規定を設けても、かかる差別的取扱いをもつてただちに合理的な根拠を欠くものと断ずることはできず、したがつてまた、憲法一四条一項に違反するということもできないものと解する。」

最高裁判所は、このように、尊属殺は普通殺に比して「道徳的に」重いものであるということを、正面から認めています。

そして、判決文はこう続きます。

「さて、右のとおり、普通殺のほかに尊属殺という特別の罪を設け、その刑を加重すること自体はただちに違憲であるとはいえないのであるが、しかしながら、刑罰加重の程度いかんによつては、かかる差別の合理性を否定すべき場合がないとはいえない。すなわち、加重の程度が極端であつて、前示のごとき立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失し、これを正当化しうべき根拠を見出しえないときは、その差別は著しく不合理なものといわなければならず、かかる規定は憲法一四条一項に違反して無効であるとしなければならない。

ということで、まとめますと、

「尊属殺の立法目的は正しいが、その法定刑が、普通殺に比して合理性を欠くほどに重すぎる」

という理由で、違憲とされたのです。

ということで、尊属殺の規定は、平成7年(1995年)に削除されています。


このような感じで、法学についてのツイートを見てみると、かなり怪しい、間違った知識を披露している方が多いことに気付きます。

今回登場してもらったツイート主さんたちの間違いは、「条文や判例を確認したら避けられる」類のものでした。

この段階で調べる手間を惜しんでは、残念の極みというしかありません。

どこかで見聞きした知識を、自分の中で間違えて記憶してしまっているのなら、「その知識を疑ってみて、調べてみる」ということは難しいのかもしれません。思い込みは誰にとっても怖いものですから。

自分に言い聞かせるのですが、自分の中で「当たり前」になっている知識こそ、常に確認していくという作業はサボらないでいようと思っています。

ということで、また書いてみます!





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