恋は高山病
チベット・インド旅行記
#22,ラサ③
【前回までのあらすじ】念願の地、チベットに辿り着いてからはや2週間。
旅の目的地は定まらぬまま、まえだゆうきの悩みの日々は続く。
「前田さんですね、届いてますよ!」
受付のチベッタン(チベット人)女性が茶色い封筒に入った荷物を持って来てくれた。
いそいそとサインを済まし、郵便局の外に出て慌てて封を開ける。
なんとまぁ、ここ世界の屋根チベットにだって、日本からの郵便物は届くようで、封筒の中には日本にいる友達からの手紙と、頼んでいたCD数枚。
(サケロックの新譜と、映画アマンドラのサントラが入ってた)
久しぶりに見る友達の字体と暖かいメッセージは、旅で疲れた心にじーんと染みる。
手紙を読んでいて思わず目頭が熱くなってしまった。
郵便局での用事を済ませてヤクホテルに戻ると、ちょうどホテルの駐車場から、乗り合いのランドクルーザーが出発しようとする現場に出くわした。
見送りの韓国人グループが涙ながらに手を振っている所を見ると、仲良しのメンバーが一足先に国境に向かうのだろう。
ラサからネパールの国境へは、バスなどの交通手段が無い為、ランドクルーザーをチャーターする必要がある。
しかし、1人で1台チャーターすると、べらぼうな値段になるので、何人かで割り勘して国境へと向かうのだ。
ホテルの掲示板にはいつも、
「◯月◯日、乗合募集。◯号室、◯◯まで」と、
まるでライブハウスに貼られている、バンドメンバー募集さながら、手書きのフライヤーが貼られていて、年がら年中乗組員を募っている。
そうそう、今日は同室のベテランバックパッカー、小林さんも出発の日だった。
別れの挨拶を済ませるために部屋へと向かう。
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ラサにいる間、小林さんとはちょくちょく飯を食べに行ったり、仲良くしてもらっていたが。
ある時、行きつけの中華料理屋で湯豆腐をつついていると、小林さんに真剣な顔で切り出された。
「なぁ、前田くん…。
のり子さん(同じホテルの日本人旅行者)って、俺の事、どう思っているかな…。」
突然の41才おじさんからの恋の悩み相談に、湯豆腐で口をやけどしそうになったけど、慌てて取り繕った。
のり子さんねぇ…、どうもこうも、何も、ねぇ…。
41才、フーゾク大好き小林さんと、34才、日本語教師のり子さんがカップルになっている姿は、贔屓目(ひいき目)にも想像出来なかったけど。
恋はいつだって素晴らしい事には変わりないだろうから、
「小林さん、頑張ってください!」とひとまずエールを送った。
その後、湯豆腐を睨みつけながら、しばらく思い詰めていた小林さん。
「旅立ちの前に、一緒に旅について来てくれないか、のり子さんに聞いてみる。」
と1人納得した様子で、ヤクホテルへと帰っていった。
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そして旅立ちの日、
小林さんはたった1人で、乗り合いランクルへと乗り込んでいった。
小林さんは何も言わなかった。
私も何も聞かなかった。
「じゃ、良い旅を。」
とだけ言い残して、小林さんはネパール国境へと向かい、私は小林さんの姿が消えて見えなくなるまで、手を振って見送った。
はたから見れば滑稽な、アラフォーおじさんの無様な失恋。
この世の全ての悲しみを背負ったかのような、その哀愁漂う後ろ姿。
でも、私にはそんな小林さんを笑う気にはなれなかった。
私にも、小林さんの気持ちや孤独は痛いほど分かる。
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あれは小林さんが出発する1週間ほど前。
いつも贔屓にしているスノーランドホテルのカフェで、絶品キャロットケーキを頬張っていると、可愛らしい日本人の女の子が声をかけて来た。
女の子の名前はユキちゃん。
旅先で買ったのか、エスニックなファッションが良く似合う、明るい20代のバックパッカーで、
ガイドブックを片手に、少し心細い様子でラサの街の様子を聞いてきた。
やはり、異国の地で日本人を見かけるとほっとするのだろう。
一緒になって旅の話で盛り上がっている内にだんだんと打ち解けてきて、
「ゆうき君ってどこのホテル泊まってるんですか〜?寂しいから私もそっちのホテルに移動しちゃおうかな〜」と、冗談まじりで聞いてきたユキちゃん。
そのつぶらな瞳と近しい距離にちょっとドキドキしながらも、あくまで平静を装って「いいよ、もし良かったらヤクホテルにおいでよ」とさりげなくプッシュした。
夕方、ヤクホテルに戻ると、ユキちゃんは本当にチェックインを済ませていて、私の胸は高山病になりそうなぐらい、ドッキーンと高鳴った。
その後、ヤクホテルの屋上で、旅の武勇伝を熱く語ったり。
韓国レストラン「アリラン」にスンドゥブチゲを食べに行ったり。
「吊橋効果」ならぬ「異国の地効果」を利用して、ユキちゃんにアプローチしてみた所までは良かったのだけれど。
数日後、バルコル通りでイケメン白人男性と腕を組んで歩いているユキちゃんとばったり遭遇してしまい。
以後、ユキちゃんも気を使って、私には話しかけなくなっていった。
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そんなラサの街は、今日も青空が目に染みる。
小林さんのいないラサの街、
ユキちゃんのいないラサの街。
全ては、旅先で気持ちが高揚しただけの恋の錯覚だったのか。
「吊橋効果」ならぬ「異国の地効果」にかかったのは私の方だったのか。
分からない。
そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
でも、
長く旅を続けていると、
何ヶ月も一人で移動していると、
どうしようもなく、本当にどうしようもなく寂しくなる時がある。
誰か一人でもいい、誰か、心の内を打ち明けられる人が欲しい。
誰も居なくなったヤクホテルの屋上で1人、
じっと、孤独から目を逸らせないでいた。
シガツェ編へつづく⇨
【チベット・インド旅行記】#21,ラサ編②はこちら!
【チベット・インド旅行記】#23,シガツェ編はこちら!
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