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言ってはいけない 残酷過ぎる真実 │ 橘玲

「最初に断っておくが、これは不愉快な本だ」

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本書はこの一節から始まる。


本書は、

(1)努力と遺伝の関係

(2)美貌格差

(3)子育てと教育

の3本柱で構成されている。なかには過激な内容も含まれているが、ひとつとしていい加減なものはない。

「人間は平等だ」、「努力は報われる」、「見た目は関係ない」……このようなきれいごとが世の中にははびこっている。そして、それがきれいごとだと正直に言う人はほとんどいない。しかし著者は、「言ってはいけない」不愉快な真実こそ必要であり、語る価値があると考えている。


ひとつたしかなのは、著者が不愉快なことを、ただ投げやりに並べているわけではないということだ。
本書には「学び」がしっかりと用意されている。なぜ著者が「言ってはいけない」ことをあえて言うのか、その真意はあなたの目でたしかめていただきたい。


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🙆性格が遺伝することは多くの人が受けいれている事実だが、表現を少し変えるだけで、社会的に許されないものになってしまう。これは暗黙の社会的規範が存在するからだ。

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🙆容姿は人生を左右する。平均以上の容姿の女性と、平均以下の容姿の女性では、生涯賃金に3600万円の格差がある。なお、容姿に関して最も強い影響を受けるのは醜い男性である。

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🙆子供の人格、才能、能力において家庭での教育は無意味に近い。


✅言ってはいけない遺伝の話

親が長身であれば子供も長身だ。このことに関して疑問を感じる人は少ない。しかし近年の研究によれば、身体的な特徴のほかにも、じつに多くのことが遺伝の影響を受けているという。たとえば、性格は遺伝することで知られている。


ただ、この「性格は遺伝する」という事実は、視点を変えるだけで受け止め方がまったく変わってしまう。
「陽気な親の子どもの性格は明るい」、「陰鬱な親の子どもの性格は暗い」。
どちらも性格と遺伝の関係を述べているだけだが、その印象ははっきり異なるはずだ。
これは、私たちの社会に暗黙の規範が存在している証拠である。「子どもは明るく元気であるべきだ」という規範には、「暗い地味な子供には問題がある」ということが暗に含まれているのである。


私たちは、規範から外れることを「遺伝のせいにすべきではない」と思っている。
なぜなら、たとえ子どもの性格が暗かったとしても、努力や親が与える環境で克服することができると信じているからだ。
しかし、遺伝による影響を排除することは、どんなにがんばっても明るくなれない子どもの逃げ道を塞ぎ、心を深く傷つけることになりかねない。


✅負の知能は遺伝しないはありえない

暗黙の社会的規範が強く表われるもう一つの事例として、能力と遺伝の関係が挙げられる。能力も、体型や性格と同じように遺伝する。やはり音楽家の子どもは歌がうまいし、親が音痴だと子どもも歌が下手だ。とはいえ、このことに関してはさほど違和感なく受け入れられるだろう。


しかし、「大学教授の子どもは頭がいい」ということは許される一方で、「子どもの成績が悪いのは親が馬鹿だからだ」とは、表立って口にすべきではないことと考えられている。歌については個性のひとつと見なされても、将来や人格の評価につながる成績(知能)は、「努力で向上しなければならないこと」でなければならないからだ。


もし知能の良し悪しを遺伝と結びつけてしまったら、それこそ良い成績を得る努力を強制する学校教育が成り立たなくなる。したがって、「負の知能は遺伝しない」というイデオロギーが必要なのである。

ちなみに遺伝率を研究する行動遺伝学では、一般知能(IQ)の遺伝率は77%とされている。つまり、知能の7~8割は遺伝で説明がつくということだ。


✅精神病も遺伝する

体質(病気)においても遺伝することがわかっている。実際、がんや糖尿病の要因が遺伝の影響を強く受けると聞いたら、多くのひとが納得するだろう。


だが、病気には身体的な疾患のほか、「こころの病」と呼ばれる精神的な疾患もある。「精神病は遺伝する」と聞くと拒絶するひとも多いが、精神疾患が遺伝することは、これまでの研究によって何度も確認されている。


たとえば、精神病を患っているため、子どもをつくろうか迷っている夫婦がいるとしよう。夫婦がインターネット上で検索してみたところ、そこでは「精神病と遺伝の関係は証明されていない」、「精神病はたんにストレスが原因だ」という匿名の回答が書かれている。
安心した夫婦は、子どもをつくることを決意する――これは一見いい話のように思える。


しかし実際のところ、たとえば統合失調症の遺伝率は80%を超える。もちろん、その全員が統合失調症になるわけではない。しかし、身長、体重の遺伝率がそれぞれ66%と74%ということと比較すると、その数字の大きさがわかるはずだ。
親が長身であれば子供も長身である可能性は高い。そして、それよりずっと高い確率で、親が精神病なら子どもも精神病になるのである。


この事実に直面したとき、夫婦は出産をあきらめるかもしれないし、それでも出産に臨むかもしれない。
しかし、人生における大切な決断は、インターネットの匿名掲示板などではなく、正しい知識をもとにすべきだ。また、精神病と遺伝の関係が社会的に認知されていれば、たとえ子どもを授かったとしても、周りの援助を受けることができるかもしれない。


「精神病は遺伝する」という不都合な真実は拒絶すべきではない。予防や治療につなげ、そして社会の偏見をなくすために、私たちはこの科学的知見をしっかりと認識するべきである。


✅3600万円の美貌格差

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容姿が人生を左右するのは周知の事実である。
では、美貌はどれほどの経済効果をもたらすのだろうか。

これを調査したのが経済学者のダニエル・ハマーメッシュだ。調査の結果、平均より上の容姿の女性は、平凡な女性よりも8%収入が多く、逆に平均より下の女性は4%収入が少なかった。


経済学ではこれを、「8%のプレミアムを受け取り、4%のペナルティを支払う」と解釈する。
20代女性の平均年収を300万円として、これを具体的な金額で表すと、平均以上の容姿の女性は毎年24万円のプレミアムを受け取り、平均以下の容姿の女性は12万円のペナルティを支払っていることになる。


毎年の額面で考えると、たいしたことがないように感じるかもしれない。しかし、これを生涯で換算すれば様子が変わってくる。たとえば、大卒サラリーマンの生涯賃金は、退職金を含めて約3億円とされている。つまり、長い目で見れば平均以上の容姿の女性は2400万円得をし、平均以下の場合は1200万円損をすることになる。その格差はなんと3600万円だ。


また、美貌と幸福についての調査もある。
それによると、収入ほど極端な差はないにせよ、やはり整った顔立ちの女性の方が、より豊かで幸福な人生を手に入れているという。


✅美貌格差による最大の被害者

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しかし意外にも、美貌格差による最大の被害者は醜い男性である。美貌格差は、女性よりも男性の方が大きいのだ。

顔立ちの整った男性は、平凡な男性に比べて4%多く稼ぐ。これだけなら、女性よりも格差は少ないと言える。だが、容姿の劣る男性は平凡な男性より13%も収入が少ない。前述のペナルティという観点で女性と男性を比較した場合、その差は3倍以上だ。


この違いについて、ハマーメッシュは母集団の違いを指摘する。男性と女性では、労働市場に参入する割合が異なっているため(専業主婦になる人が一定数いる)、それがこの結果に結びついているのではないかという見立てである。


しかし、それだけで男性と女性の大きな格差を説明することはむずかしい。ここでは別の観点、すなわち「暴力性」という観点からこの問題を捉えてみよう。


男性の採用を検討する際、雇用主は外見で応募者の暴力性を判断している。一見差別のように思えるかもしれないが、これは理にかなった判断だ。
どんな社会でも、女性より男性の方が圧倒的に犯罪者数は多いのだから。特に犯罪率は、年齢が低くなればなるほど高くなる。雇用主が若い男性の暴力性を外見で判断し、排除するのは当然のことだといえる。


もちろん、人相の悪い若者がすべて犯罪者というわけではまったくない。しかし、「きわめて醜い」と判断された一部の若者は、犯罪を実行する可能性がとても高いということがわかっている。


この事実について、私たちは慎重に考えなければならない。しかし現在では、男性ホルモンの一種であるテストステロンが暴力性に深く関係しており、外見にも影響をあたえることがわかっている。
テストステロンの影響が強そうな顔を、私たちは無意識のうちに感じ取り、強く警戒しているのかもしれない。


✅子育てにおける不都合な事実

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1960年代以降、行動遺伝学社たちは、別々に育てられた一卵性双生児を徹底的に研究してきた。100%同じ遺伝子をもつ一卵性双生児と、50%の遺伝子を共有する二卵性双生児を比べることで、遺伝と環境の関係を調べたのだ。


調査の結果、身長や体重などに関することは、やはり一卵性双生児の類似度のほうが高かかった。類似性は1を完全一致、0を無関係とする相関係数で表される。たとえば体重の場合、一卵性双生児が0.8、二卵性双生児は0.4という相関係数を示していた。
これはそれぞれの遺伝子の共有比率と一致する。このことから、家族の体重の類似性は遺伝で完全に説明でき、家庭内の食事や生活習慣といった「共有環境」は影響していないことがわかる。


ただ、一卵性双生児でも0.8の類似性しかないことは、遺伝が100%ではないということである。一卵性双生児でも、別の環境で育てば、それに影響を受ける可能性がある。こうした環境のことを「非共有環境」という。
たとえば、異なる学校へ通えば、給食で食べるものも異なるはずだ。それが2人の体重が違う原因かもしれない。


今回取り上げた内容はほんの序章に過ぎない。
本書では、思わず目を背けたくなる「言ってはいけない」ことが包み隠さず綴られている。しかしくりかえすが、著者は「残酷な真実」こそ、世の中を良くするために必要だと考えている。


たとえば、依存症のひとつであるアルコール中毒は遺伝すると言われているが、そのことを親が子どもへあらかじめ伝えてあげれば、子どもはアルコールとの接触を避け、自分の身を守れるようになるかもしれない。
不愉快な真実の数々も、その真意を理解すれば真逆の捉え方ができる。読めば読むほど、言葉が胸に染み込んでくる一冊であると言えるだろう。

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