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【前編】従業員エンゲージメントを測定する「eNPS ®」とは

近年、企業と従業員との間の信頼関係を図ろうと注目されている「従業員エンゲージメント」。従業員エンゲージメントとは、従業員の一人ひとりが企業の掲げる戦略・目標を適切に理解し、自発的に自分の力を発揮する貢献意欲を指します。

従業員エンゲージメントが向上すると、離職率の低下やサービスクオリティの向上し、業績の向上に寄与すると言われており、米国の建設機器大手キャタピラー社では、従業員エンゲージメントを高める施策によってエンゲージメントスコアを8%改善、売上は300%も伸長したという事例もあります。

今回は、この従業員エンゲージメントを測定する分析手法はその可視化について解説していきたいと思います。

1.従業員エンゲージメントを測定するeNPS🄬とは

従業員エンゲージメントを測定する方法の1つに「eNPS®(Employee Net Promoter Score)」という指標があります。
この指標は、ベイン・アンド・カンパニー社のF・ライクヘルド氏が提唱した、顧客ロイヤルティを可視化する「NPS®(Net Promoter Score)」を、アップル社が店舗で働く従業員のロイヤルティマネジメントに活用し始めたことから普及したものです。
ベイン・アンド・カンパニーのレポート(※1)においても、eNPS®が高い会社ほど離職率が低く、生産性も高いと解説しています。

eNPS®は、まず従業員に対してアンケートを取ります。自身が働く企業を、友人や知人にどの程度に薦めるかを0点~10点の11段階で尋ねます。その回答結果から、推奨者(10点・9点)、中立者(8点・7点)、批判者(6点~0点)と設定し、「推奨者の割合」から「批判者の割合」を引いた値がeNPS®となります。

eNPS®のイメージ

また、従業員エンゲージメントを語る際に、eNPS®の他にも採用されることが多い指標として「マズローの5段階欲求」があります。これは、人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されているとする心理学理論です。
eNPS®は、実はこのマズローの5段階欲求との間に有意な関係性があり、eNPS®が高い企業はマズローの5段階のすべてにおいて従業員からの評価が高く、eNPS®が低い企業はすべてで低い傾向が見られます。
つまり、「eNPS®が高いこと」は、従業員の就業環境に対する満足度や働き甲斐の高さを示しており、eNPS®が企業と従業員のエンゲージメントを高める指標となり得ると考えられます。

マズローの5段階欲求とeNPS🄬の関係性

2.eNPS®を活用する ~批判者・中立者・推奨者の定義~

企業エンゲージメントにおいてeNPS®を活用する場合、まず「批判者」「中立者」「推奨者」をどのように理解するかが論点になります。マクロミルでは、以下のように定義しています。

■マクロミルが推奨する定義
批判者 = 仕事の内容や待遇に「不満」を持っている状態

中立者 = 仕事の内容や待遇にある程度、「満足」している状態
推奨者 = 仕事の内容や待遇に満足し、「愛着」を持っている状態

つまり、仕事内容や待遇など就労環境に対する満足が前提にあり、そこから勤務先に対する愛着(=エンゲージメント)に至ると定義しています。
この「不満」➡「満足」➡「愛着」の区分として、NPS®の3区分「批判者」「中立者」「推奨者」が存在し、この3区分の関係を一括で表現したスコアが「eNPS®」です。
つまり、eNPS®は、勤務先に対する「不満」➡「満足」➡「愛着」の度合いがどこまで届いているかを表現している指標であると言えます。

eNPS®の構造イメージ

3.eNPS®を可視化する

eNPS®は従業員エンゲージメントを測定する指標として有効であることが分かりました。しかし、eNPS®を実際に導入し結果をみると、以下のような疑問や課題を良く耳にします。

■よくある疑問や課題
・自社のeNPS
®がマイナスになったが、どの程度問題?
・出てきたスコアは良い?悪い?どのように解釈すべき?
・eNPS
®を高めるための改善施策に、どのように繋げるげき?

このように、eNPS®の結果をどのように解釈すれば良いのか分からないといった悩みを持つ方がいらっしゃいます。
eNPS®は、アメリカに比べ、日本はその国民性から、スコアが低く出る傾向にあり、eNPS®がマイナスのスコアが出ることも珍しくありません。そのため、マイナスのeNPS®の結果をどのように活用すれば良いのか分からなくなってしまうケースが見受けられます。
そこで、eNPS®を理解しやすく結果を可視化する方法をご紹介します。マクロミルの独自手法である「NPS®マップ(特許出願中)」を転用した、「eNPS®マップ」です。
 
まず、先程提示したeNPS®の構造イメージに沿って結果を可視化するため、「満足者充足率(勤務先満足度の充足率)」と「推奨者充足率(勤務先愛着度の充足率)」の2つの指標を新たに設定します。
「満足者充足率(勤務先満足度の充足率)」はeNPS®設問回答者全体に占める「満足者」の割合、推奨者充足率(勤務先愛着度の充足率)」は満足者における「推奨者」の割合を指しています。

「満足者充足率(勤務先満足度の充足率)」と「推奨者充足率(勤務先愛着度の充足率)」

ここからは、設定した2つの指標を用いて、NPS®マップを作成します。
下図がNPS®マップの基本仕様です。縦軸に「満足者充足率」、横軸に「推奨者充足率」を入れます。このNPS®マップのどこにプロットされるかによって、従業員と企業とのエンゲージメントの度合いを読み解くことができます。

NPS®マップの基本仕様

【NPS®マップの基本仕様について】
縦・横軸ともに、最小値0%、最大値100%で設定。縦軸の100%から横軸の50%までにNPS®=0の閾値を表す曲線「NPS®ライン」を引きます。
NPS®がプラスになる場合必ずNPS®ラインの上側にプロットされます。
また、「パレートライン(推奨者の割合が2割を超えるライン)」と、「中立ライン(中立者の割合が2割を超えるライン)」を引きます。
推奨者(=9点以上)が回答者の2割を超えている企業は、必ず、パレートラインの上側にプロットされます。中立者(=7-8点)が回答者の2割を超えている企業は、必ず、中立ラインの上側にプロットされます。

※「パレートライン」の名称は、売り上げの8割は顧客全体のうちの優良顧客である2割から構成されていること提唱する、パレートの法則からとっています。

次に、マップ上のプロット箇所について見ていきましょう。
下記の図はNPS®ライン、パレートライン、中立ラインで分けられたゾーンを区分したものになります。eNPS®のスコアをマップ上にプロットし、何処のゾーンに属しているかを見ることにより、eNPS®の意味を理解しやすくなります。

eNPS®マップの6つのゾーニング

【eNPS®マップの6つのゾーニングについて】
1.高エンゲージメント
推奨者(9点以上)が全従業員の2割以上おり、eNPS®がプラスの企業がプロットされます。批判者よりも推奨者の構成比が高いため、企業全体のエンゲージメントも高いレベルで維持されています。特に右端の中立ラインの右側のゾーンは、推奨者の比率が、中立者(7-8点)、批判者(6点以下)よりも多い企業がプロットされ、非常に高いエンゲージメントと考えられます。
2.エンゲージメント
eNPS®はマイナスだが、推奨者が2割を超える企業がプロットされます。eNPS®はマイナスだが、従業員の2割以上は勤務先を9点以上の評価をしており、一定のエンゲージメントが確立されています。
3.リスクエンゲージメント
eNPS®はプラスだが、推奨者が2割を下回る企業がプロットされます。従業員のほとんどは勤務先を7-8点で評価。批判者が少ないため、eNPS®はプラスだが、推奨にまで至っていないため、一定のリスクを抱えるエンゲージメント状態です。
4.改善フェーズ2
eNPS®はマイナス。中立者が全体の2割を超えていますが推奨者が少ない企業がプロットされます。中立者が育成でき、批判者が全体の半数を下回った状態。半数以上が満足者(7点以上)になり、エンゲージメントが確立されつつある段階です。
5.改善フェーズ1
eNPS®はマイナス。中立者が全体の2割を超えるが、批判者が過半数の企業がプロットされます。批判者の絶対数が多いものの、中立者を一定数育成できた段階で、エンゲージメント確立の初期と考えられます。
6.低エンゲージメント
批判者の絶対数が多い企業がプロットされます。

ここまでeNPS®マップの概要についてご紹介しました。
次回は、このeNPS®マップを使って、どのようにeNPS®のスコアを読み解くことができるのか、実例を交えながら紹介します!

※1:論説『社員の会社に対するロイヤルティ向上は誰の仕事か?』,
著者:Jon Kaufman, Rob Markey, Sarah Dey Burton and Domenico Azzarello,

注:ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、ネット・プロモーター・スコア、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標又はサービスマークです。

この記事を書いた人

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(左から、平岩、竹内、川村、徳田)

マクロミル公式note 従業員リサーチナレッジ(マガジン)
https://note.com/macromill/m/m89438888a57c
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