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本人訴訟で勝訴できるという自信の根拠は?

はじめに、その1のまとめです。

元雇主との間で未払い残業代問題をかかえた私は、任意交渉での代理人として、15万円の着手金を払って弁護士を雇いました。しかし、結果として任意交渉は失敗、労働審判(第6回note参照)を申立てることに。労働審判でも同じ弁護士に代理人をお願いしたいと考えていたところ、労働審判は任意交渉とは別の審級ということで、その弁護士から15万円の追加着手金の支払いを求められることに。最初に払った着手金15万円のコスパはどうだったのかとモヤモヤ感を残しながら、お恥ずかしながら経済的余裕がなかった私は、その弁護士を労働審判の代理人に選任することを諦めざるを得ませんでした。

任意交渉で解決しなかったから労働審判を申立てると言っても、それは当然に弁護士が代理人として付くという前提。私だけでは何の経験も知識もなく、労働審判と言っても最初は何をどうすればよいのか全くわかりませんでした。では、なぜ本人訴訟で労働審判を申立てるに至ったのか(詳しくは、もしよければ著書をお読みください)。

私が本人訴訟で労働審判を選択した理由は二つ。一つは、ほぼ完成された労働審判手続申立書が存在したこと。もう一つは、証拠書類がおおむね揃っていて、この事件は私にとって勝ち筋であると思えたことです(本人訴訟を選択するパターンについての解説→第2回note参照)。一つひとつ説明していきましょう。

一つ目の労働審判手続申立書は、詳しくは過去のnote(第12回第14回第15回第16回第19回第20回第21回第23回第24回)を読んでいただきたいのですが、裁判や法律のしろうとが本人訴訟を進めるにあたっての最初かつ最大の関門と言ってよいと思います。民事訴訟で言えば「訴状」。とにかくこの書面を作成・提出しなければ何も始まりません。最も大切な書面です。

ほぼ完成済みの労働審判手続申立書が存在したのは、実は、労働審判に向けて準備をはじめていた弁護士から、提出していた証拠書類と一緒におおむね完成された労働審判手続申立書が郵送で返却されてきたからです(もともとは私が作成したのではないのです・・・)。弁護士は、途中で辞任するとか解任されるとか、あるいは相談を受けていて結果受任しない場合など、提出されていた書類や作成途中の書面は返却することにしているのかもしれません。これら返却物が私の本人訴訟の決断においてカギとなりました。

元代理人がほぼ完成させていた労働審判手続申立書に目を通してみて、大袈裟ですが、ちょっと新鮮なカルチャーショックを受けました。法律家が書く文章だけに、当然法律的・専門的な言葉がふんだんに詰まっていてガチガチの法律文書と想像していました。しかし、実際にはとても平易な文章で、事実と主張が論理的かつ理路整然としたストーリーとして組み立てられています。私のようなしろうとにも十分理解可能で、「ああ~、こういうのが弁護士の頭の良さなのか」といやに感心しつつ、こういった文章なら(頭を目いっぱい使う必要はあるだろうけど)自分の力でも作成できると考えました。要は、法律の知識や専門用語の問題ではないということ。このほぼ完成された労働審判手続申立書を見て、直観で「これは自分でできる!」と感じたのです。判例付きの六法全書や労働法の参考書なども購入しました。以後私が作成し裁判所に提出した書面(そして、このnoteシリーズで解説する書面)は、基本的には、元代理人弁護士が作成した書面をもとにしています。

次に、二つ目の理由の証拠書類。今丁度noteで証拠説明書の書き方の説明をしている最中ですが(第30回第31回第32回)、いくら和解を目的とする労働審判とは言え、それなりの証拠を準備してしっかりと事実を立証する必要があります。その点、私の手元には、最強の証拠3点セット、すなわち雇用契約書・タイムカード・給与支給明細書が準備できていました(正確には、タイムカードは一部のみ手元にあり、全部が準備できていたわけではありませんでした・・)。当時は「要件事実」など法律・裁判の実務や理論を知る由もありませんでしたが、常識的に、これらがあれば未払い残業代の存在を立証することができる、これは自分にとって勝ち筋事件であるという確信もありました。

しろうとの本人訴訟ということで、当然「しろうとの申立人 VS. 相手方の代理人弁護士」という対決構図になります。相手方の代理人弁護士が所属する法律事務所のインターネットサイトには、彼らの華麗な学歴・経歴や著書が堂々と記載されています。一見すると、確かにビビってしまいます。しかし、考えてみれば、どんなに超優秀なスーパー弁護士であっても、弁護士である限り法律を作れるわけでも変えれるわけでもありません。事実の立証こそが最も大切。それには法律や判例を熟知しているとかよりも、まずは証拠を押さえていることに勝るものはない。そのように考えた次第です。

以上の理由で、私は本人訴訟での労働審判を選択したわけです。

ちなみに結果を言うと、最初の労働審判手続申立書の「申立ての趣旨」欄に記載した請求額200万円強に対して(=賃金請求権など)、最終的に相手方(民事訴訟では被告)の元雇主から私の銀行口座に振り込まれた金額(和解金)は400万円。おおよそ倍額での解決。労働審判で3回の期日、民事訴訟に移行して5回の口頭弁論期日、さらには奇策として繰り出した、別の訴訟物(=損害賠償請求権)を以って追加(別訴で)かつ並行して申立てた労働審判で5回(なんと5回!)の期日が持たれました。合計で13回の期日。結局、任意交渉から最終かつ完全な解決までに2年弱の期間がかかりました。機会があればこのnoteでも経緯など紹介したいと思いますが、(しつこくて恐縮ですが)詳細をお知りになりたい方は著書を読んでいただけたらと思います。

次回のnoteから、証拠説明書の解説の続きに戻りたいと思います。引き続きよろしくお願い致します。

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。





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