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証拠説明書の書き方~その4【雇用契約書】~

第32回のnoteでは、未払い残業代を請求するに当たって、証拠(書証)としての雇用契約書の役割をいくつか紹介しました。今回も雇用契約書の説明を続けたいと思います。

ここで大切なおさらいですが、残業代を導く計算式は「割増賃金(残業代)=基礎賃金×割増率×所定外労働時間」でした(第20回note参照)。割増率は労働基準法の1.25に従うとして、未払い残業代として決まった金額を請求するためには、基礎賃金所定外労働時間を立証する必要があるわけです。

雇用契約書が申立人の「労働者性」を立証することは第32回のnoteで既に述べました(労働者性については第26回note参照)。労働者でなければ残業代は発生しませんから、この「労働者性」の立証は最も重要なことです。くわえて重要なのは、雇用契約書は「基礎賃金はいくらか」「所定外労働時間は何時間か」「休日はいつか」を立証するということです。

まず、「基礎賃金はいくらか」に関連して、雇用契約書は基本給手当裁量労働制か否か固定残業代制か否かの4項目を裏付けてくれます。

第20回noteで解説した通り、給与の範囲は基本給と手当です。ただし、手当にも「給与の範囲に入る手当」と「給与の範囲に入らない手当」の二種類があります。家族手当・通勤手当・子女教育手当・住宅手当・臨時の賃金などは「給与の範囲に入らない手当」。一方で、管理者手当・係長手当・主任手当・リーダー手当などは「給与の範囲に入る手当」です。基本給と「給与の範囲に入る手当」の合計金額が「給与の基礎額」となります。基礎賃金(=1時間当たりの労働単価)の計算式は「基礎賃金=年間の給与の基礎額÷年間の所定労働時間」です。以下に述べるように、雇用契約書から所定労働時間も導くことができるので、すなわち雇用契約書は基礎賃金を立証するということになります。

裁量労働制か否か(第28回note)と固定残業代制か否か(第29回note)については、雇用契約書に明確に記載されているはずです(特に、裁量労働制は労使間の合意が法的に必須です)。

次に、「所定外労働時間は何時間か」に関連して、雇用契約書は始業時間、終業時間、所定就業時間、休憩時間、所定労働時間を裏付けてくれます。始業時間から終業時間までが所定就業時間。その所定就業時間から休憩時間を差し引いた時間が所定労働時間です。所定労働時間がわかれば、それは1日8時間ないし1週間40時間以内と労働基準法でさだめられていますが、(次回noteで説明予定の)タイムカードの打刻記録との照合を通して所定外労働時間が立証されることになります。

そして、雇用契約書(ないし就業規則)は「休日はいつか」を立証します。第19回noteで述べたように、労働基準法上の休日は週一日あるいは4週で四日以上与えなければならない「法定休日」です。もし土曜日など「法定休日」以外の休日が就業規則のうえで設定されている場合は「法定外休日」となります。この「法定外休日」は割増された賃金を支給する必要はありません。ただし、「法定外休日」であっても、1日8時間ないし1週間40時間を超える所定外労働時間については、当然、労働基準法第37条1項が適用され、割増賃金(残業代)が支給されなければなりません。これらのことを把握していれば、「休日」の仕事について、正確に賃金の請求をすることができるでしょう。

以上、今回のnoteでは、雇用契約書が「基礎賃金はいくらか」「所定外労働時間は何時間か」「休日はいつか」を立証することについて解説しました。当たり前と言えば当たり前ですが、証拠(書証)としての雇用契約書の重要性を再認識していただけたのではないでしょうか。次回は、証拠(書証)としてのタイムカードについて解説していきます。お楽しみに。

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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