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本人訴訟って特別?

今回は本人訴訟について書きたいと思います。

民事訴訟では、弁護士を代理人に選任しないまま、原告でも被告でも当事者みずからが第一審から最高裁まで裁判を受けることができます。これを本人訴訟といいます。日本の民事訴訟法は弁護士強制主義を採用していませんので、本人訴訟が可能なのです。

本人訴訟も弁護士を代理人に付けた訴訟もどちらも同じ訴訟です。本人訴訟だからと言って裁判所の対応が変わることはありません。ネットで、「裁判官は、弁護士が代理人として付く側の主張を採用する傾向にある」というコメントを見かけることがあります。しかし、私の実体験の限りでは、そのようなことを感じたことはありません。もしそのようなことが本当にあったのであれば、それは弁護士が付いていたか否かは関係なく、別の理由があったのではないかと思います。

本人訴訟と言うと、何か特別なように聞こえるかもしれません。しかし、実際にはそうでもありません。裁判所の司法統計によれば、平成29年度の「全地方裁判所の第一審通常訴訟既済事件数」の総数145971件に対して、原告・被告の双方が弁護士を付けたものは64682件となっています。つまり、全体の約55%に相当する81289件については、少なくとも、原告か被告のどちらか一方は弁護士を付けずに本人訴訟を選択していることになります。さらに、全体の約15%に相当する22851件については、原告・被告の双方とも弁護士を付けない本人訴訟となっています。

労働事件に限って言えば、総数3339件に対して、原告・被告の双方が弁護士を付けたものは2839件となっています。つまり、少なくとも原告か被告のどちらか一方は弁護士を付けていないのは、全体の約15%の500件に限られてきます。原告・被告の双方ともに弁護士を付けない本人訴訟ともなると、全体の約2.7%の90件にとどまります。労働事件は、法律や手続きの複雑さ、あるいは職場の人間関係の難しさなどの理由からか、他の種類の事件と比較して弁護士が代理人に付く傾向にあると言えるようです。

では、どのようなケースが本人訴訟となるのでしょうか。私は、おおむね次のようなパターンがあるのではないかと思っています。

パターン1は、当事者があえて本人訴訟を選択する場合です。これは、誰がやっても勝てる「勝ち筋」事件なので、弁護士に依頼する必要がないというケースです。パターン2は、本当は弁護士を付けたいけれど、弁護士が受任を断る場合です。報酬面でのメリットがないなら、または敗訴が確実の誰がやっても負ける「負け筋」事件なら、弁護士は受任しないでしょう。やっても無駄ということです。そしてパターン3は、本当は弁護士を付けたいけれど、弁護士に依頼すると仮に勝訴したとしても当事者の収支がゼロかマイナスになる場合です。これでは、何のために訴訟をやるのかわかりません。とすると、訴訟で弁護士を代理人に付けることができるのは、基本的には、「勝ち筋」事件であって、かつ弁護士に報酬を支払った後でも当事者に十分な経済的利益が残る場合とも考えられます。

次回は、本人訴訟のメリットと費用について書きたいと思います。

街中利公

本コラムは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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