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唐仁原昌子
2024年11月3日 21:10
南側の廊下の突き当たり、階段を四階まで登ったところで待ち合わせ。 いつもの私たちの、放課後ルーティン。 オシャレなカフェとは程遠いけれど、自販機で買ったミルクティーがあれば十分。 たまに持ち寄られるチョコレート菓子は、だいたい謝罪案件や、依頼案件のあるほうが持ってくるルールだ。 うるさい大人も、無駄に気を使うクラスメイトもいない。私たちだけの空間。 放課後ともなると、壁の上のほ
2024年10月27日 23:32
一日の終わり、いつものように商店街を群れて歩く。「んで結局、あの数学の課題はどうしたんだよ」「やるわけねえじゃん、チャイム鳴った瞬間に教室をダッシュで出て、全力で回避したわ」「やばそれ。明日また担任に追いかけ回されるだろ」「いやそれな。でも、俺もうマジで成績とかどうでもいいんだって」 そう言ってオッくんは、ポケットに手を突っ込んだまま笑う。 人によって多少の温度差がある受験生の夏
2024年4月28日 23:11
じわりと夜が滲むような、春の夕暮れで満たされた廊下を、ものも言わずに歩いていく。 そんなミオの背中を、私も同じく黙ったまま追いかける。決してミオのためではない。私は、たぶん私のために彼女を追いかけている。 部活の後、ミオは確かに泣いていた。 ロッカールームに忘れ物をしたことに気がついて戻ったとき、私はそれをみてしまった。 一年の頃から同じクラスで、同じグループで楽しくやってきたけれ
2024年3月10日 23:36
深夜二時、スマホの画面がぼうっと光る。 日曜日の夜中に、こんな時間まで起きているやつなんて、私には一人しか心当たりがない。 光った画面には、想像した通りカオリの名前が眩しく示されている。ベッドに寝転んだまま、スマホを手に取り通話ボタンをタップして応じてあげることにした。「…なにー?」「お、やっぱり起きてた」 夜の隅っこで、だらだら睡魔を待っていた私を知ってか知らずか、声の主は嬉し
2023年10月15日 23:50
自転車の、荷台に二人乗りで座ることが好きだ。 行き先を運転する人に任せて、ぐんとペダルを踏む感覚をその人の背中越しに感じる瞬間は、いつだって私をわくわくさせる。 前は、見えない。 正面を見ると、自転車を漕ぐ君の背中が視界いっぱいに広がっているだけ。その事実もまた、私をたまらない気持ちにさせる。 車ではいけない。あれは、乗っている人間の前方を遮るものが多すぎる。 バイクでもいけない