シェア
唐仁原昌子
2023年8月27日 21:32
私には、好きなものがあった。 雨上がりのアスファルトの匂い。 通学路にある地蔵を眺めること。 授業中に教室から眺める運動場。 前の席で眠る友達をつつくこと。 どこかから聞こえる吹奏楽の音。 たくさん、あった。 キラキラした装飾の付いているバッグ。 長い髪の毛を丁寧にお手入れすること。 色とりどりのネイルカラーのチェック。 大きめのTシャツをだぼっと着ること。 友達を
2023年8月20日 23:47
「だからさ、ちょっと夏に関連する話をしようよ」 電話口で、けらけら笑いながらミチルは言う。「何、夏に関連する話って」「夏らしいことできてないから、夏の好きなとことか言い合おうよ」「…というと?」「蚊取り線香の匂いとか、夏っぽくない?」「まあ、夏の匂いだね」「かき氷の削る音は?」「夏っぽい音、だ」「うんうん」「蝉の抜け殻の、握ったら崩れそうな感じは?」 思いついたことを適当
2023年8月13日 22:11
あるとき、お姉ちゃんと喧嘩をした。 大きな声で泣きたかったけれど、ママにうるさいと叱られるのは嫌だった。それに、どうせ口が達者なお姉ちゃんの言い分が通って、私が「あんたはまだこどもなんだから!」と言われるのがいつものことなので、声を出して泣くことをできるだけ我慢した。 我慢はしたけれど、涙は勝手に出てくる…。 そういうとき、私はよくポラリスのまあるい後頭部に助けられた。 金色がか
2023年8月6日 22:36
その日は朝からいい天気だった。 いい天気すぎて、登校しただけで汗だくになるくらいだ。取り立てて何もない、いつもと何ら変わらない平凡な朝ではあった。「よお」「よお!昨日言ってたお笑い番組観た?」「観た観た。めちゃくちゃ笑いまくったせいで、おやじにうるさいってキレられたもん」「想像できるわー、お前声でかいもんなー!」「うるせえよ!」「あ、タクおはよー!」「おう、おはよ」「タクは観