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【助けて】映画『生きててごめんなさい』は、「共依存カップル」視点で生きづらい世の中を抉る物語(主演:黒羽麻璃央、穂志もえか)

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あるカップルが抱える「息苦しさ」を深く描き出すことで、誰もが抱え得る「生きづらさ」を抉る映画『生きててごめんなさい』

これはとても良い映画でした。映画全体に「居たたまれなさ」とでもいうべきものが充満していて、変な表現だけど、映画を観ているだけで「自傷行為をしている」ような感覚になります。どことなく「背徳的な快楽を得ている」みたいな感じがあって、なんとも言えない味わいを醸し出す作品だと思いました。

また、映画の中盤ぐらいでふと、「ストーリー的に『もうちょい先』まであるといいな」と感じました。映画でも小説でも、「そこで終わるんか」と思ってしまうような作品はあって、その良し悪しについてはそれぞれの感じ方次第ですが、本作の場合、「『もうちょい先』まで描かれてほしい」と感じたのです。そしてちゃんと、その「もうちょい先」のストーリーまであったので、物語的にもとても良かったなと思います。

園田修一という非常にややこしい人物

物語は、出版社の編集部で働きながら小説家を目指す園田修一と、社会性がちょっと欠けているため何をやってもうまく行かずバイトも何度もクビになってしまう清川莉奈の2人が、ひょんなことから同棲を始めるところから始まります。同性を始めてからも、修一の方は出版社で働きつつ作家を目指していることに変わりはありません。ただ莉奈の方、出社する修一を見送ってからは何をするでもなくダラダラ過ごしており、そんな対称的な2人が主人公の物語です。
 
その設定がなんとなく、又吉直樹原作の映画『劇場』に似ているような感じがしました。
 
大きく違うのは、「創作する人」と「支える人」の関係性でしょう。映画『劇場』では、男の方が「創作する人」、女性の方が「支える人」という役割分担でしたが、本作『生きててごめんなさい』では、「創作する人」「支える人」がともに園田修一なのです。そしてこの点にこそ、本作のややこしさがあると言えます。
 
描かれる関係性は、既存の言葉に当てはめるなら「共依存」になるだろうと思います。私は知識としてなんとなく知っているだけで、実際の「共依存関係」について詳しいわけではありませんが、しかし映画を観て「リアルな共依存関係だなぁ」と感じました。
 
しかし普通に考えて、この2人が「共依存関係」になるとは想像しにくいでしょう。映画『劇場』の場合は、「創作する人」と「支える人」が別なので、両者がお互いの何かを必要とし合って「共依存関係」になるのは理解できます。ただ本作の場合、園田修一が清川莉奈に依存するイメージが出来ないはずです。さて、この辺りのことについては少し後で触れるとして、まずは「園田修一」についてもう少し詳しく触れておきたいと思います。
 
園田修一は、傍目には「羨ましい存在」に見えるかもしれません。決して大手ではないものの出版社の編集部で働いていて、さらに「小説家になる」という夢を口にするだけではなくちゃんと追いかけているからです。彼が書いている小説そのものが作中で取り上げられることはないので、それがどの程度のレベルなのかはもちろん分かりません。ただ、その良し悪しを印象づけるシーンはあります。高校時代の文芸部の先輩で、今は大手出版社で有名小説家の担当編集をしている相澤今日子から、

あなたは絶対に「書く側」の人になるんだと思ってた。

高校時代、私はあなたのファンだったよ。

と言われるのです。彼女がどの程度の本気度でそう口にしているのかは分からないのですが、そう言われた修一が「自分には可能性がある」と感じるのは当然と言えるでしょう。

園田修一は客観的にはこのような人物に見えるのですが、一方で、それが何なのかはっきり描写されないものの、随所で「何か劣等感を抱いているのだろう」と思わせるような雰囲気もあります。そしてそのことが、彼らの「共依存関係」を成立させているのだろうと感じました。

園田修一は、劣等感ゆえに清川莉奈を必要とする

映画の話とは全然関係ないのですが、少し前に私自身が経験したあるエピソードについて書こうと思います。

私は、誰もが名前を知っているだろう割と有名な大学を中退していて、その後フリーターから始まりフラフラと適当に仕事をしながら今日まで生きてきた人間です。それで少し前に、大学時代の同じサークルの同期、そして1つ上の先輩合わせて10人程で飲む機会があり、その中に、恐らく大学時代以来一度も会っていないはずの先輩がいました。

その先輩は、誰もが名前を知っているだろう有名な企業で働いていて、結婚して子どももいるという、普通に聞けば「幸せで順調そのものの人生」に感じられるはずの人です。一方私は、どちらかと言えば肉体労働に分類されるだろう仕事をしていて、結婚しているわけでもありません。私自身はそれで満足しているのですが、一般的には「負け組」みたいな人生と言っていいでしょう。

これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます

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