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二次会デミグラスソース#毎週ショートショートnote【409字】
パパが会社の人とお酒を飲みにいくと、台所からいつもよりいい匂いがする。
「ママ、今日もアレ、作ってるの?」
「そうよ。こうやって玉ねぎを炒めるときつね色になるの。そこにソースをくわえると…」
「茶色ソースだ」
「雄太もパパも赤ソースより茶色ソース派だもんね」
「ううん、そうだね」
ふかふかの黄色い卵の上にかかるソースが赤か茶色か。卵の中には赤いご飯が入っているのだから、上にも赤いソース
ビール傘 #毎週ショートショートnote 【409字】
会社の飲み会ってなんでこうも気が乗らないのだろう。
今日は無礼講だ、なんて言いながら実際のところ公開説教が横行されるのだ。パワハラという概念が浸透した昨今でも、公開説教はチクチク言葉に形を変えて生き残り続けている。
嫌なことばかりが頭に浮かんでくるから、会場までの足取りは驚くほど重かった。いや、もはや痛かったな。
しかし、上司からの言葉を全てシャットアウトしてくれる魔法の飲み物が今目の前にあ
サラダバス #毎週ショートショートnote【410字】
「み、右手に見えますのが東京タワーでございまして…」
駄目だ、どうしても吃ってしまう。
一人での初ガイドだから、先輩のアドバイス通りに乗客全員をじゃがいもだと思って見渡すけど。
"ちょっとこの車内寒すぎないかしら"
"ねえ、おなかすいた!"
ちっとも落ち着けない。
目線を感じると汗が噴き出すのが分かる。
"もう耐えられない、エアコンの温度をどうにかしてもらえるように言ってくるわ"
い
カミングアウトコンビニ #毎週ショートショートnote 【410字】
国道を走る車の車内は静かだった。
話したいことがあると幼馴染の藤井に呼び出された加藤は、何も聞かずに運転を続ける。
「ちょっとそこのコンビニ停めるわ」
「うい」
三分もせず戻ってきた加藤の手にはレモン味の炭酸飲料が入ったペットボトルが二人分握られていた。
「ほいこれ」
「サンキュー」
藤井は受け取るなり一気に半分ほど飲み干し、加藤に目線を合わす。
「俺、結婚するわ」
「そうだろう
涙鉛筆 #毎週ショートショートnote 【409字】
晴れた日の公園で「の」と「ね」はよく滑り台をして遊んでいる。
「僕みたいに丸っこいと、滑って転がったまま雪だるまになっちゃうかもしれないなあ」
「雪もないのに雪だるまになんてなるわけないじゃない。うふふ。」
遊んでいる「の」を愛おしいような目で「ね」は眺めている。
何のことはない、いつもの光景である。
2人が遊んでいると、ふと公園の隅に「う」が佇んでいるのを見つけた。
「ね」と「の」が
ミラーリング・ラブ #夏ピリカ応募
二月二五日
閏年とは何年に一度やってくるのだろうか。確か四年に一度だったか。四年に一度と言えばオリンピックだ。
非日常故に人はその日が来るのを楽しみにする。今日はまさしく非日常だった。出会ってしまったのだ、僕の運命の女性に。三十二歳になって初めての感覚だ。オリンピック八回分の衝撃が今日の出会いに詰まっている。
果たして彼女にどうやってアプローチしようか。頭を整理するためにも、こうして日記を書き
ショートショート王様 #毎週ショートショートnote 【410字】
今年も開かれたゲットたけのこグランプリ。通称GTG。
審査員5人が、参加者10人の採ったたけのこを審査し、一人の王を決める大会。
審査基準が個人の判断に依存するこの大会で確実に王様となるのは至難の業。
なので私は頭を使った。
SNS上でちょっとしたインフルエンサーになっている私ならではの戦い方だ。
私はこの数ヶ月、若い女性の間で短いたけのこがトレンドであるという旨の投稿を続けた。
その結
動かないボーナス #毎週ショートショートnote 【410字】
「パパなんで私がこんな目に遭うの、今まで楽しくやってきたのに」
なす術なく縛られている女を見て、男は手招きをした。
「君は僕だけの女神になる、動けないビーナスさ」
「気持ち悪い、こんなことしたら他のパパが黙ってないよ」
「連絡なんて取らせないから助けは来ないよ。君に沢山貢いできたから、今日は僕自身が君へのボーナスなんだ。僕は君の前から一歩も動かない」
その時ガチャっという音と共に初老の男
FFS 〜ファイトフォースイーツ〜 【ショートショート】
夕陽は綺麗であれば綺麗であるほど、どこか寂しさを醸し出す。そして夕方のスーパーには今日の晩御飯の調達に主婦達が集まっている。
私はそんな中一人、自分のためのおやつを選びにきた。金曜夜は唯一何を食べてもいい日と決めているのだ。
自分のためにお菓子を選んでいる最中というのは、人間の心がとても無防備な瞬間である。
「この人はお菓子を楽しみにしているのだ」
と周りの人間から透けて見えてしまう。
それ
消しゴム顔 #毎週ショートショートnote 【410文字】
お、社内の空気が悪くなった。
僕の会社での役割は、こういう時も笑顔でいること。この笑顔によって社員たちの鬱憤、どんよりとした空気を消し飛ばしてきた。
今日も一肌脱ぐとするか。
「小西さん、一人で抱え込みすぎですって、りーらっくす、りーらっくす」
ああ、あっちでも。
「ちょっとー遠藤ちゃん、大きい声ださないよ、ほら僕の顔見て、にこって」
楽じゃないなまったく。でも僕みたいな人が一人いると
お風呂のカイブツ【ショートショート】
僕の家のお風呂にはカイブツがいる。
3年前、僕が小学生になったとき、ゆうたももう小学生だからってお母さんが、お風呂の順番をその日だけ一番最後にしてくれた。
「最後の人はお風呂のせんを抜いてくださいね」
そうやってお母さんに言われて、なんだか仕事を任された気で嬉しかった。
いつもよりちょっと遅い時間だからお風呂がちょっと怖かったし、髪の毛を洗うときなんて後ろを何回も確認しちゃった。
僕は怖
君に贈るランキング② #毎週ショートショートnote【408字】
「ああ、地球の夏は暑いし、気持ち悪い虫がたくさんでこりごりだ。気晴らしに何でもいいから奴らのものを奪ってやりたいな」
悪魔が人知れず地球に住み着いてから、悪魔は人間と協力して生きることよりも、陥れることばかり考えていた。
「そうだ、黒魔術の便箋に奴らの大切なものを上から3つ書かせて、それを召喚して奪ってやろう」
悪魔は学校の先生に変身した。手始めにおてんばそうな女子小学生に狙いをつけ、便箋を
【空白小説応募作品】猫日記
↓以下改行バージョン
我輩は猫であるが故、今まで数々の失態を犯してきた。同居人がゲームをしている最中にも思わず鳴いてしまうし、この前なんかは必死になってネズミを追いかけているところをミカに見られてしまった。
「野生の血だね、こわいかも」
などと言っていた。あれは自分自身深く反省をしている。まだはたちにもなってないミカにあれを見せてしまうこと、それ自体が自分の至らなさの正体であったのだ。