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FFS 〜ファイトフォースイーツ〜 【ショートショート】

夕陽は綺麗であれば綺麗であるほど、どこか寂しさを醸し出す。そして夕方のスーパーには今日の晩御飯の調達に主婦達が集まっている。

私はそんな中一人、自分のためのおやつを選びにきた。金曜夜は唯一何を食べてもいい日と決めているのだ。

自分のためにお菓子を選んでいる最中というのは、人間の心がとても無防備な瞬間である。
「この人はお菓子を楽しみにしているのだ」
と周りの人間から透けて見えてしまう。

それを悟られないように、私はいくつもの策を講ずる。まずは電話をしているフリをしながらお菓子コーナーに突入するとしよう。

「何言ってんの、そんなに買ってってさ、ほんとに食べるの、まあいいけど」

これは私が社会人になってから編み出した、お菓子コーナーの壁に対する突破方法である。
これさえマスターすれば、ともかく戦地へ赴くことは容易だ。あ、この女性は誰か他の人のためにお菓子を買っているんだと錯覚させることができる。

しかし、この作戦には穴がある。

お菓子選びに時間をかけすぎると
「彼氏とこの後お菓子を食べるっていう幸せな時間のために、なんだかんだ真剣に選んでるのかな」
と他人の余計な想像を掻き立ててしまうのだ。

これだから私くらいの年代の女は生きづらい。私が何をするにしても他人は、背景に男の影を妄想する。考えすぎだと人は言うかもしれないが、実際に私がそう感じるのだから仕方がない。

これを打開するための策も当然用意している。

「パパは今お風呂だよね、そういえば今日幼稚園はどうだった?先生の言うことちゃんと聞けた?」

そう、父親と留守番をしている子供にお菓子を買ってあげる優しい母親を演じるのだ。

他人に想像の余地を与えてはいけない。お菓子購入時に見せたい自分を抜けめなく見せることで、私とこの時間をデザインする。

現実の私はというと、社会人になってからなぜか彼氏すらまともにできない。自分で言うのもなんだが学生時代はモテる方だったし、今でもいい所までいくことはあるのに。 

しかしそんなことはどうでもいい、この戦地において好きなお菓子を買って、無事に帰宅することが今の私の使命だ。

さてチョコとポテトチップス、おまけに新発売のグミまで調達できた。後はお菓子コーナーを抜けて会計を済まし、店を出たら私の勝利だ。

待った。おかしい、違和感がする。なんだろう、完璧な戦いができたはずなのに。声が微かに聞こえる気がする。

いや、確かに聞こえる、男二人組の声だ。耳を澄ませてみなくちゃ。


「ほらな、やっぱ美香先輩は結婚してて子持ちだって、分かったろ?俺たちじゃ無理無理」

「あんなに美人だし、そりゃそうだよなあ」

「色んなとこで自分の子どもにお菓子買っていってあげてるって聞くぜ」


全く、だから男が寄り付かないのか。まあいい問題ない。今日の戦いも私の勝利だ。

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