お風呂のカイブツ【ショートショート】
僕の家のお風呂にはカイブツがいる。
3年前、僕が小学生になったとき、ゆうたももう小学生だからってお母さんが、お風呂の順番をその日だけ一番最後にしてくれた。
「最後の人はお風呂のせんを抜いてくださいね」
そうやってお母さんに言われて、なんだか仕事を任された気で嬉しかった。
いつもよりちょっと遅い時間だからお風呂がちょっと怖かったし、髪の毛を洗うときなんて後ろを何回も確認しちゃった。
僕は怖くなりすぎないように今日学校であったことを、だれもいないお風呂場で報告したりした。
お風呂からでるときに忘れないように、お風呂のせんを抜いたら
ゴオオオオオ
って音がどこかから聞こえた。きっとお風呂のカイブツが僕のお話に返事してくれたんだって思ってうれしくなった。
そのことをお母さんにもお父さんにも話したら、いいタイケンだったねってほめてくれた。
次の日からお願いして、毎週水曜日お父さんが早く帰る日は僕が一番最後にお風呂に入ることになった。
となりの組の先生が熱で学校を休んだときも、給食にプリンがでた日も、カイブツに報告した。最後はいっつもゴオオオオオって言うんだ。
でもね、3年生になって初めての水曜日、友達にそのことを話したら
「アニメの見すぎだろ」とか
女の子には
「みんなの前でそんなの話すの、はずかしいことだよ」
って言われちゃった。
僕だってほんとは分かってた気がする。あの音はカイブツじゃないんだって。
でも僕がいないって思っちゃったらカイブツが可哀想な気がして、そんなふうに思えなかった。
その日も帰ってお風呂の時間にカイブツに報告した。もう3年生になったこと、新しい組にもお友達ができたこと…はずかしいことだって言われたことは報告できなかった。
お風呂からあがってせんを抜くと、いつものように
ゴオオオオオって音がしたんだけど
でもお風呂からお湯が抜けていく音だって、きっとそうなんだって分かってきちゃうのが悲しかった。
そうするとどこかから
「もうさよならしていいんだよ」
声が聞こえてきた。お母さんでもお父さんでもない。お父さんよりも低くてでも大人の声。
怖くなってふり向いたけど誰もいない。
さよならして寂しくなかったみたい。怖かったけどなんだかほっとした。ありがとうをしてお風呂からでた。
やっぱり僕の家のお風呂にカイブツはいる。でもそれからお話はしてないんだ。
いてもいなくてもいいのかなとか最近は思ってるし。
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