『お花とエッセイ』作品集 その10
以前住んでいた場所は、下町感の残る住宅街でした。
ちょうど今の季節、出勤しようと駅まで歩いていると、ある家の玄関先に「柿」が並べられていました。ブルーシートの上に10個ほど並べられた柿。その横には、「ご自由にお持ち帰りください」の貼り紙紙。見上げるとその家には立派な柿の木があって、まだたくさんの果実が実っています。
持って帰る人いるのかなーなんて思いながら、ほっこりした気持ちで通勤路を辿った記憶があります。
風も冷たくなってきたこの頃、窓から望む秋空を横目に、あたたかいミルクコーヒー片手にみなさんのエッセイを楽しんでいるともきちです。
作品集その10、ぜひ気になるところだけでもおたのしみくださいませ。
46.柘榴(ざくろ)が熟れて
6月、すてきな彼女と会っている彼。その彼に気付いてほしいと願い、我慢強く咲き続けた柘榴。
一時でもいいから見つめてほしい、一時でもいいから私のことだけを考えてほしい、そんなお花の気持ちを綴ってくださったsikuramenさん。
柘榴の花の花言葉は「成熟した美しさ」。はじめて彼が見つめてくれたのは、柘榴が果実をつけるようになった時でした。柘榴の実が裂けたとき彼はどんな反応をするんだろうと、いろんな思いを巡らせてしまいました。
47.インナーガーデン
今年の春に楽しんでいた、花の定期便。訳あってしばらくお休みしていたこのサービスを、久々に再開することにした たかこさん。お花を待っているその時間で、いろんな思考を巡らせます。
25年前、大学入学と同時にはじめたひとり暮らし。生活にも慣れてきた頃、はじめて自分のためにお花を買ったそう。
六畳一間のアパートの、勉強も食事も読書もそこでする小さなテーブル上に、コップにさしただけの花。お財布に余裕があるときだけ、思い出したように買う。
そして今、お花を頼んだのにはきちんとした理由があります。その想いを心で強く握りしめながらお花が届くのを待つ、力強く、そして前向きな決意が表れているような文章でした。
48.一門が通る道 <かすみ草>
庵さんが習っている華道。その先生の指導は、「かすみ草」の使い方に特徴があります。
かすみ草の花姿は、「薔薇や百合などの華やかな主花の足元を、隠したりふんわり大きく飾ったりするのに向いている」という庵さん。若い生徒さんはよく使うらしく、先生も特に何も言いません。
それが、ある程度上達してくると、先生は一切かすみ草を使わせてくれません。
薔薇や百合などの主花の足元を
緑の葉もので彩ることを覚えさせるのです
最初は苦戦するものの、徐々に「緑の葉物が違うとそれが個性になり、生け手の「好み」に繋がっていく」ことがわかってくるそう。
あえてかすみ草を使わないことで、大切なことに気付かせる。華道以外にも通じる大切な教えをご教示いただいた、興味深い記事でした。
49.祖母とお花
ずっと一人暮らしだったおばあさまと一緒に住むことになった、幼いころのニーモさん。家族に丁寧に挨拶をしたおばあさまの次の言葉は、「ここに花壇を作ってもいい?」でした。こうしておばあさまとお花との生活が始まります。
おばあさまの晩年は、認知症の影響でニーモさんのことも忘れてしまわれたそう。『どこのお嬢さんかわからないけど有難うね』と言われるのは、胸がしめつけられる思いがしました。
おばあさまが亡くなって20年、実家の庭は今はおかあさまが意志を継いで、花壇のお花を育てているそう。もともとお花が好きではなかったお母さま。その姿を天国から見ているおばあさまはきっと、うれしそうに笑っていらっしゃることでしょう。
亡くなった人を想う、あたたかいエッセイでした。
50.花の香りを嗅いでみて!
旦那さまとの初めてのデートで桜を見に行ったリコさん。桜の道をふたり歩いていると、おもむろに花に近づいていく旦那さま。そして花に顔を寄せ、香りを嗅ぎました。
一瞬、ぎょっとした。
驚くリコさん。そしてこう続けます。
その時はまだ、夫に対して「好き」という感情を持っていなかったので、正直少し引いた。
そして今、旦那さまは家でバラを育てているそう。植木鉢のバラの花に向かって、また香りを嗅いでは「リコさんもどう?」と誘います。
思い切って花に顔を近づけるリコさん。本物のバラは、みずみずしくて、優しくて、それでいて上品な香りがしました。4歳の息子さんは「きれいだねー」といって、当たり前のように花の香りを嗅ぎます。
「正直引いた」の初デートから、今やもうすっかり「花の香りを楽しむ家族」です。幸せな家族の日常に、思わず笑みがこぼれるようなエッセイでした。
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