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『エッセイのまち』の仲間で作る共同運営マガジン

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2021年2月の記事一覧

定価1,000円の未来

 人体の60%は水分らしいから、わたしの60%はアールグレイでできている。  そう言うと何となくおしゃれっぽく聞こえるかもしれないけれど、実態はおしゃれさのカケラもない。  アールグレイはベルガモットという植物の香りをつけた紅茶で、柑橘系の香りがする。我が家では、キッチンに置きっぱなしのやかんにアールグレイが入っていて、家族はお茶がわりにがぶがぶ飲んでいる。  ケトルなんてカッコいいやつじゃない。小鳥の笛だってついてない。ホームセンターで買った2.5リットルの普通のやかん。

消化できない記憶の私

記憶喪失になればいいのに。苦い記憶を思い出すたびに、それをどう取り扱えばいいのかわからずに持て余してしまう。 作家の尹雄大さんにインタビューしてもらいながら、谷中の街を歩くという体験をした。なぜ谷中を選んだかといえば、私の記憶とは何の関係もない街だからだ。晴れて暖かい秋の日で、根津神社では子どもたちが遊んでいた。いま働いていないこと、働きたいという気持ちが湧かないことなどをぽつぽつと話した。 それと、自分の記憶をどう扱ったらいいかわからないということ。20歳の頃から鬱の時

誕生日が迫ると思い出す父との電話。

そのとき、私は荒んでいました。 ことごとくうまくいかない仕事のことで、人と話すことさえ疎ましく思っていました。 携帯電話がうるさく着信を知らせます。 「出たくないな」 そう思って無視することを決め込みましたが、こもるようなバイブレーションの音は、一向に止む気配がありません。 しつこいなぁ、と面倒くさくもディスプレイをのぞいてみると「実家」と表示されていました。 「親父か」 母であれば「母・携帯」。「実家」は父以外は使わない、いわゆる固定電話。滅多に自分からかけて

5歳の娘が、運送会社さんにお手紙を渡したら、やさしさが返ってきた

うちの農園は、運送会社さんなしには成立し得ない。 干し芋の販路は6~7割が自社ECサイト。 しかも干し芋は、冬メインの販売だ。 冬・・・・! 冬・・・! そう、豪雪地の冬・・・! 降って降って降りまくる、冬なのだ・・・! 今年なんて生芋を大量に送った(めちゃ重い)。 そんな中、いつも集荷に来てくださる運送会社さん。 最悪なことに、我が家は2階が玄関だ。集荷時間はいつも梱包が終わる夕方(特に雪が多くなるし寒い時間帯)で、大雪の日も、土日も祝日も、いつもたくさんの

私がうれしいからたのしいんだ

何が食べたい?と聞かれた時に、にっこり笑って答えられる人は素敵だなと思う。残念ながら私にはそれができない。もし相手に食べたいものがあるのならそれを一緒に食べたいと思ってしまう。 わかっている。なんとも張り合いのない女だ。 チーズタッカルビが流行り始めた時、当時お付き合いしていた彼に食べてみたいと話したことがあった。ちょうど彼の誕生日間際でディナーの予約は私の役目。当然メニューはチーズタッカルビになるだろうと彼は思っていたらしい。でも私が選んだのはお肉がタワーのように積み重

妊娠したのでニセ寿司を握る

私事ですがこの度妊娠しました。 幸運なことに、異常に眠い程度でつらいつわりなどもなく日々元気に暮らしているのですが、ひとつだけ気になることがあります。 それは・・・ 食べちゃいけないモンが多すぎ~!!!!!!! 試しにExcelにまとめたところ、以下のような形になりました。 狂おしいほどに多い 特に、寿司は私の大好物。しかし妊娠中のヒトの体は通常より免疫力が弱く、リステリア菌といった菌から感染して食中毒を起こすリスクは妊娠していない状態の40倍と言われているそうで

才能を勘違いした15年前

私は幼い頃から勉強が嫌いだった。学ぶ事に後ろ向きで特に算数なんかは毛嫌いしていて数字を見るだけで頭がクラクラしてきてしすぐに教科書を閉じてしまうような子供だった。 人より覚えるのが遅く何をするにも不器用で 鈍臭かった。 そんなある日担任の先生に帰り際呼び出された。クラスには先生の指導に率直に従う素直な生徒と反抗心剥き出しのいわゆる問題児生徒など、様々なタイプが存在するだろう。 私は間違いなく後者であった。 そんなわけで今日はどんなお叱りかなと 少し緊張しながら職員室の扉を

ゆっくり歩き、いっぱい休め

大学生の時に所属していたゼミは、30人前後の学生の前でパワーポイントを駆使して3〜40分発表する、やたらとプレゼンテーションに力を入れているゼミだった。 そんなゼミで私は、必死に文献にむしゃぶりつき、無我夢中でパワポを作り、手のひらを緊張の汗でしどどに濡らしながら発表に臨んだものだった。 だけど。 これまでの人生で、最も緊張し、一番力を入れてプレゼンしたのは、実はゼミではない。 私が最も緊張し、一番力を入れてプレゼンをしたのは、彼氏の前だった。 事件勃発事の発端は、「生理

サードアイで見てる?

絵画や仏像、素敵な景色など心動かされるものに出合ったとき、人はどのように鑑賞しているか。チラッと見て、撮影が許可されているなら写真を撮って立ち去ってしまう人がほとんどである。 私は違う。立ち止まってじっと見つめる。人物画や仏像はなるべく目の合う位置で見つめあう。結構な時間そうしてると思う。だから展覧会は一人で行く。心ゆくまで見たい作品を見つめていたいから。 心惹かれているものを見つめている時の私は、何も考えていない。ボーとしている。構図や技法を分析したり、歴史的背景に思い

好きなんだ、モン

冬が来てしまいました。いや、もう立春すら過ぎてしまいました。 それは、僕が好きなモンの季節が終わったということでもあります。さびしい・・。(モン、はケーキのモンブランのことです。敬愛の情を込めて呼んでいます、決して入力が面倒くさいとかではありません) もちろん、年中食べられるモンもあるけれど、栗の季節は秋であり、特に和栗を使ったモンは季節限定であることが多いし、個人的にも季節限定であるべきだと考えています。 年末だったか年始だったか忘れてしまったけれど、深夜にzoomで

「あなたの書いているものはエッセイではありません」

3年前の春、ある経営者の出版講演会にスタッフとして参加していた。 講演会の準備は、朝早くから行われた。講演で使用するワークシートや、宣伝用のチラシを袋詰めして机に並べ、会場入り口に本やグッズが買える物販スペースを作る。 その経営者を慕う人々が有志でスタッフをやっていたから、SNSで見かけたことのある人も多かった。それなりに準備は大変だったけれど、大人の文化祭のようで楽しかった。 講演のあいだ、一部のスタッフは特にやることがないので、会場の後ろのほうで話を聞くことができた

ロールちゃん、という思い出

「ロールちゃん」。150円でクリームをたっっぷりいただける、ロールケーキ界の切り込み隊長。(と、勝手に呼んでいます) お題「#至福のスイーツ」を見て、「1番思い出に残っているスイーツってなんやろ〜」と記憶をたどっていると、京都での大学生活中に2人で食べた、このスイーツのことを思い出しました。 これは、10年前の、甘酸っぱい恋の話しです。 温かい珈琲とご一緒に、どうぞごゆっくりお楽しみください。 ロールちゃん、という”至高”品田舎育ち・7人家族のぼくにとって、ケーキは1人