【随想】文体について

三島由紀夫は文字が宝石のように硬い
理知的でカチカチである
人工物に対する美意識
谷崎潤一郎の場合
人間の自然美への執着
直情的な文章で大変流麗ではあるが艶かしくはない
美でいえば
よほど坂口安吾の方が妖しく艶かしい
夏目漱石は観念と道徳
一文は短く、一切の無駄がない
厳選された文字の連なりが格式高い
江戸川乱歩も研ぎ澄まされた
無駄のない文章
しかしおどろおどろしい、毒々しい内容をも
淡々と描くことでさらに薄気味悪さが増す
村上春樹はモダン、文字は軽やか
文字が存在から離れて
どこまでも飛翔していき遊戯的だ
宮沢賢治は
文字が絵と音になってファンタジーの
世界を生成する
誰にも似つかないゴッホのような存在
ジ・アウトサイダー
大江健三郎は
文体がアメーバであり現代アートであり
木の根っこである
文章中で思考がぐにょぐにょと生育し
論理など軽々と飛び越え
誰もたどり着けない新境地へ至る
安部公房は
三島由紀夫とは別の硬質な文体
文字それ自体のモノトーンの硬さ
人も物も感情も思考も
すべて文字によって平等に抽象化され
紙の上でキラキラと再結晶する
太宰治だけが謎である
太宰だけがカテゴライズされることを
頑なに拒否し
何者でもない一匹狼を標榜する

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