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夏の蒲郡で手を合わせる

低い地響きがした

顔をあげればちょうど

目の前を電車が

走っていくのが見えた

名鉄蒲郡線の高架脇に

ひっそりとそのお墓はあった

妻が手を合わせる横で

僕も手を合わせていた

静かな昼下がり

夏の風物詩たる蝉の声は聞こえない

通りから離れている為か

車の喧騒も聞こえない

時折忘れた頃に電車が走っていく

微かな潮の香りが風に混じっている

暑い日だった

青い空には不釣り合いな色合いの赤

赤い電車にはさまざまな人が

乗っているのだろう

僕の知らない人たち

彼らはどこにいくのかな

僕もまたどこに向かうのかな

目を瞑り手を合わせて祈るには

なんだかこの場所は静かすぎる

そっと目を開けて

隣に立つ妻を見ると

妻もまた僕を見ていた

言葉は発さなかった

合わせていた手を離して

お墓にお辞儀をする

お線香の煙がゆらゆらと

白い線を描き立ち上っていく

風が吹くとゆらゆらと揺れて匂いたち

やがて景色の中に消えていった

新しいお花を添えて

新しい水を注いだ花瓶に

挿せば世界は正しい形の様に

見える

僕らは自分たちの

正しい形を求めて

生きていく

新たな花の香りを

見つける為に

静かな昼下がり

僕らはまた来た道を

てくてくと歩いて戻り

車に乗り込むと

お墓を後にした

綺麗な花が

青空の下で

静かに揺れていた

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