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思考力を鍛える新書【第50回】なぜ新書がベストなのか?

本連載<哲学者が選ぶ「思考力を鍛える」新書!>の最終回を飾るのは、『新書がベスト――10冊で思考が、100冊で生き方が変わる』である。本書をご覧になれば、なぜ「生き残りたければ、新書を読むべき」なのか、なぜ「新書以外は買わなくていい」のか、そもそも「新書」の魅力とは何か、明らかになってくるだろう。

著者の小飼弾氏は、1969年生まれ。中学卒業後15歳で大学検定に合格、17歳でカリフォルニア大学バークレー校に入学し中退。「株式会社オン・ザ・エッヂ」(その後の「株式会社ライブドア」)取締役を経て「Perl」の「Ver 5.8」など多彩なプログラミング言語の開発に携わった。2004年には書評ブログ「404 Blog Not Found」を開設し、その影響力から「アルファブロガー」としても知られる。『空気を読むな、本を読め』(イースト・プレス)や『本を遊ぶ』(朝日文庫)など著書も多い。

さて、本書は「これからの世の中で生き残りたければ、新書を読め。本書で私が言いたいことは、たったこれだけのことに過ぎません」という文章で始まる。そして「新書」とは、判型が横103ミリ×縦182ミリの「新書サイズ」のソフトカバーであり、出版社ごとに「レーベル」が確立されている書籍と定義される。

「書き下ろしのノンフィクションを安価に提供する」という新書の概念を確立したのは、1938年創刊の「岩波新書」である。その創刊の辞には「道義の精神に則らない日本の行動を憂慮し、批判的精神と良心的行動の欠如を戒めつつ、現代人の現代的教養を刊行の目的とする」とある。新書の目的は何よりも「教養」なのである。

1938年といえば、日中戦争の長期化に備えて「国家総動員法」が施行され、11月9日には、ナチス・ドイツが公然とユダヤ人を殺害する「水晶の夜」事件が勃発している。岩波新書は、この事件の10日後の11月20日に誕生した。

終戦後、1946年に「飛鳥新書」(角川書店)、1948年に「河出新書」(河出書房)、1950年に「カッパ・ブックス」(光文社)、1951年に「東大新書」(東京大学出版会)などが次々と創刊された。「第1次新書ブーム」と呼ばれた1955年頃には、100種類を超えるほどのレーベルがあったというが、現在、その大多数は残っていない。

1962年に「中公新書」、1964年に「講談社現代新書」が創刊されて、「第2次新書ブーム」が始まった。1968年創刊の「講談社ブルーバックス」は、ノーベル賞受賞者や一流の科学者による自然科学の解説書を今も供給し続けている。

「第3次新書ブーム」は、1994年の「ちくま新書」、1996年の「PHP新書」、1998年の「文春新書」、1999年の「集英社新書」と「平凡社新書」、2001年の「光文社新書」と続くレーベルの創刊で始まった。それ以来、現在に至るまで、新書の新刊は、毎月150~200冊が発行されるという盛況になっている。

本書には、新書を最大限に生かすために、(1)タイトルから本の出来を測る、(2)ダメ本も味わう、(3)疑うことを楽しむ、(4)洗脳されずに自己啓発本を読む、(5)話題の本とは距離をおく、(6)ジュニア向け新書はこんなに楽しい、(7)複数の新書を同時に読む、(8)本で得た知識を活用する、(9)「超」整理法で本を整理する、(10)ウェブを使って本を読む、という10の方法が挙げられている。

小飼氏が「読書レベルゼロ」の初心者に勧めるのは、興味を持った新書10冊を「大人買い」して読み通すことである。図書館で借りてはダメで、「身銭を切って痛い思いをし、手元に置く」ことが重要だという。これが100冊を超えて300冊になれば、独自の「脳内マップ」が形成されて、「生き方」までもが変わるという!

新書だけに読書をしぼってもまったく問題はありません。それは、新書が最も中身を問われる形態だからです。紙の書籍はネットのコンテンツと異なり、どうしてもある程度のボリュームとクオリティを見込めるものでないと出せません。紙という高価な媒体を使って利益を出すには、大量に印刷できることが前提になるからです。新書に収められないということは、もう刷る必要のない情報だと言い切ってもいいでしょう。(p. 28)

なぜ現代人の「教養」のために新書の「脳内マップ」が必要不可欠なのか、新書と電子ブックの未来を考察するためにも、『新書がベスト』は必読である!

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