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小説を書きたい#2

前置き
前回、書きたいことを書きたいように書いた。
それなりに満足している気もする。

ただ、言いたいことを言うための話の「主語」が大きすぎる気がする。
風だとか、命だとか、永遠だとか。

もっとしょうもない事でもいいのではないだろうか。
そもそも自分から何か崇高な物が生み出せるとは思っていない。

だからもっと、何か身近でもっと何か、日常によりそうような。
そんなストーリーが書いてみたい。

そう言えば、いくつか小説になりそうなフレーズというのを溜めていた気がする。

メモによるとこんな感じだ。

・おしゃれなババアがチャリを押す(サスペンス)
・アボカドを一瞬で熟させる魔法(短・中編)
・Hello, Hallow, How low.(こんにちは神聖なる低みよ ショートショート)
・浮体式原発船と僕の旅(中編)
・掘っても掘ってもネガティブの黒い水(これは今、思いついた)

たぶん、他にもっとあった気もするが、見つからないので取り急ぎ。
この中で、書けそうなものは・・・これかな


「アボカドを一瞬で食べ頃にする魔法」

人は自分の脳を10%しか使っていない。
だから脳の残りの90%を引き出した時、まだ見ぬすごい力が発揮される。

というのが真っ赤な嘘だった事を、最近の科学が証明したらしい。

そもそも、脳の10%しか使っていないというのも、元々、人は必ずしも常に脳全体(100%)を使っている訳でない。という1つの学説から派生した、間違った表現なんだそうだ。

実際には人は皆、自分の持っている脳を100%を使って生きていて、それ以上でも、それ以下でもないらしい。

つまり人間に、「まだすごい見ぬ力」みたいなものは無いって事。

この話を読んだ時、たくさんの人がガッカリした。なぜなら、自分はまだ本気出して無いと思っていたかったから。うまくいかない事があっても、これは自分の脳の10%の結果であって、もし残りの90%を使えたら、結果は違っていたんだ。って思っていたかったから。要するに言い訳に出来なくなったって事。

かくいう私もその1人。

仕事もミスが多くて同期から大きく遅れている。最近、彼氏とのプライベートもなんかうまくいかなくて不穏な雰囲気が漂っている。趣味のテニスも全然やる時間が無いし、久しぶりにやったと思えば体力の衰えも相まってどんどん下手になってきた。だから逆にストレスが溜まる始末。あぁなんか、もうできればずっと寝ていたい。

でも、それは私の脳の90%が眠っているからであって、私のせいじゃないんだ。そうこれは本当の私じゃない。そんな風に思っていたけど、もうこの言い訳は使えなくなっちゃった。

その夜、私はコンビニで冷凍のスパゲッティと、売れ残って安くなっていた海外製のビールを1缶買って、家につくなり着替えもせずに動画を見ながら晩酌をしていた。

最近見ている動画は、いい年のおじさんたちがキャピキャピとはしゃいでいるだけの、中身なんか何にも無いような、見てて笑えても為にならないやつだ。でも実際には案件も結構やっているみたいだし、ビジネスとしても順調そうに見える。だから、そう思っているのは私だけなのかも。

面白さや笑いの量は、回によってチグハグではあるけれど、この日私が見た動画は割と当たりだった。ハハハと笑いながら、必要以上に濃い味なのに、全然トマトの味はしないスパゲッティを食べる。最近、面倒くさくてあんまりよく噛んでもいない気がする。これ絶対に身体に良くないんだろうな。

海外製のビールを開けて、口に残った塩辛い味を押し流す。
うーんまぁ、飲めなくはないかな。ちょっとアルコール臭がするけど。

動画が終わった後も、チビチビとビールを飲みながら、出来るだけ頭を使わないような動画を探しては見たり、見なかったりした。そうこうしている内に、気になってたゲームの実況動画を見つけた。

お目当ての動画を見つけられたので嬉しくなった私は、「良し!」と言い、缶に残ったビールを一気に飲み干した後、「一旦、一旦だから」と誰にっているのかもわからない謎の言い訳をしながら、そのままベッドに横になってその動画を見る事にした。

期待しただけあって、そのゲームは始まりから私好みの演出があって、とても面白そうだった。いいねいいね。

だが次第と実況者のしゃべり方やゲームの進め方、キャラメイクへの変なこだわりに時間をかけるところなんかが気になってしまい、集中力が切れてきたばかりか、だんだんと眠くなってしまった。あの海外のビールのせいかしら。

やって来ては消える睡眠のブラックアウトと、不慣れな実況者の声。目の前でグワングワンとまわる世界。もう見ていられなかった。ま、今見なくてもアーカイブで見ればいいか。

スマホを顔目掛けて落としてケガをする前に、また「一旦、一旦だから」と言いながらちょっとだけ寝る事にした。顔も洗ってないし、歯も磨いてないけど、一旦だしね。

グワングワンと回る世界はやがて、暗闇の中に吸い込まれて行く。そして変な夢を見る事になった。

その高原とも言うべき「原っぱ」には、背の低い草が全面を覆っており、入り組んだ山と山の間にある斜めの平野と言えばわかるだろうか。そこには、ヤギだかヒツジだかが、あちこちに2、3匹ずつ草を食みながら散らばっている。

なんで!?っていうか、寒っ!ここがどこかと言うよりも先に、この言葉が口から飛び出て来た。先ほど、高原と言ったのは遠くに見える山の頂には雪が積もっているのと、立っている場所の傾斜がかなりあるからである。つまりここも標高が高いところだとわかる。そういう場所は、寒いのだ。

十中八九、夢だろう。そう思ってはいても、足の裏に感じる草と湿った冷たい土の感触も、どうやら動物のフンらしき匂いも、身体に当たってくる風の温度も、めちゃくちゃにリアルだった。夢だとしても、なんだってそんなところに私はスーツ姿でいるんだろうか。

すると後ろから声を掛けられた。

”選ばれし者よ、こちらを向きなさい”

それは”声”だったのだろうか。
音として聞こえていたのかわからないがとにかく、そう言われた気がして私は振り向いた。

そこにはやせ細ったお爺さんが、濃い朱色の袈裟というのだろうか、を着て、木でできた杖を持ったまま立っていた。お坊さんだろうか?頭は丸めてあるというか、もう毛が無いので、なんとも言えなかったが、きっとお坊さんだろう。いつか旅行に行こうと思って読んだ、地球の歩き方でもチベットかどこかのお坊さんってこんな服装だったハズ。

”選ばれし者よ、良く来ましたね、待っていましたよ”

お爺さんの口は動いていなかったし、表情も全く変わらなかった。だから、私にはすぐわかった。これはきっと念話ってやつ。アニメで見た。心に直接ってやつ。

それにしても、今「待っていましたよ」って仰った?私が来ることをしっていたのかしら。それに「選ばれし者」ってのも、私の事?

”そうです、選ばれし者よ。我はあなたが来るのをずっと待っていました”

お爺さんはノータイムで答えてくる。っていうかこれじゃあ、さっき見てたゲームみたい。って事は、ここから冒険をはじめられるの?

”これはあなたの言うゲームではありませんし、あなたはもう人生と言う冒険をしている途中であると言えるでしょう"

人生と言う冒険かぁ・・・なんかあんまり好きじゃないな。と思わず言いそうになったが、お爺さんにはそれも筒抜けだった。

”そうでしょう。あなたはあまり生きる事が上手では無いようだ。だから我は、あなたのような不器用な人にこそ、その眠っている力を揺り起こす事によって、人の役に立つような生き方をしてほしいと思っているのです”

つまり、私が上手く生きれるようにしてくれるって事?それは是非そうしていただけるなら、そうして欲しいけど。でも、何か怪しい気もする。

もはや思うだけで、お爺さんの返答が来る。

”この力はあなたの中に元からあった物なのです。我は単なるキッカケにしかすぎません。それに、この力があれば、あなたはこれまで以上に人の役に立つことが出来るのです。誰かに認められたい。必要とされたい。愛されたい。そう思っていたのではないですか”

う・・・確かにそう思っていた。それに、元々私の中にある力なんだったら、それが目覚めた方が良いような気がしてきた。でも、それは一体どんな力だっていうのかしら。

”力と言っても、千差万別。人それぞれの個性があるように、あなたにはあなたにしかない力があるのです。これからあなたの目覚めを行います。次に現実世界で目が覚めた時、あなたの力も目覚めています。でも、それは自分でいろいろと試して見出してもらうしかないのです”

という事は、なんの力かわからないけど、目覚めさせてやるから自分で見つけろ。って事?もし、もし見つからなかったら?

”大丈夫です、安心なさい。必ず見つかります。それはあなた自身なのだから。必ずあなたのすぐそばに、その力はあるのです”

ちょっと不満だけど、今よりも良くなるなら・・・わかりました、やってください。

”では、いいですね。次にあなたが目覚める時、すでにあなたは力と共にあります。どうか、良き目覚めを・・・。”

そういって、お爺さんが杖で私の頭をコツっと叩くと、次の瞬間、私はスーツ姿のままベッドの上で目を覚ました。酷い気分だった。頭がガンガンする。どうやら二日酔いのようだ。たった一本のビールでここまで悪酔いするなんて。やっぱりビールは国産がいいらしい。

時計を見る。もう起きて仕事に行かないと。顔も体も洗ってない。シャワーを速攻で浴びて、着替えてなんとか取り繕うしかない。最悪の目覚めだ。

その日の私には午前中の記憶があまりない。いろいろとあったような気がするが、午後もやる事に追われてしまい、目覚めたハズの力を探す事が出来なかった。どうやら仕事に関するような力ではないらしい。

気がつけば、夜。二日酔いはかなり治ったけど、今夜はちゃんとお風呂に浸かりたい。人として。お風呂に入らなくてもいい力だったら楽なのに。

昨日は、冷凍食品で済ましたから、今日は体がしんどいけど無視して、何か自炊しようと決めた。駅から家までの帰り道には、24時間やっている大手のスーパーマーケットがある。

どうせなら体に良い事がしたい。それにはデトックスだ。溜まった老廃物を体の中からも追い出そう。そしてちゃんと風呂にも入る。良し、それには野菜が良い。今日はどんな野菜があるかな。

24時間営業しているスーパーの生鮮野菜コーナーは、いわば野菜たちの不夜城だ。煌々と照らされた野菜たちが、たった今、畑から参りました。みたいな顔で並んでいる。

そういえばちょっと前、実家から大量のトマトが送られてきていた。地元の名産品という事もあり、毎日毎日いつでもトマトを食べてきた。私としてはもういいですと言いたいところだけど、親には子供に何かしてあげたいという気持ちがあるんだろうから、黙って受け取っておいたのだ。

じゃあ、今日はカプレーゼとワインでしゃれこみますか。今朝、二日酔いで起きたのに、ワインを飲もうとする私は、きっと本当は何の反省もしようとしていないんだろうな。

上手いカプレーゼには、上手いアボカドが必要だ。実家から来たトマトが美味しいのは分かっているし、チーズは既製品を買うので安定しておいしい。ただ、アボカドだけは市場全体を通して不安定だ。熟れたり、熟れなかったりしているからである。

どれどれ・・・あ・・・これはダメかも。

小さいし、ヘタもとれちゃっている。それに、ところどころ青いままだ。皺が寄っているのもある。という事は、新しい物と古い物が混ざっているという事だ。良くない。

私の夕飯の計画はガラガラと音を立てて崩れ始めた。

あーあ、残念。唯一、このアボカドは形も大きさもハリもいいのに、まだ青くてカチカチだから、とても食べられたもんじゃない。

買っておいて、3、4日たてばもしかしたら食べられるかもしれないけど、あいにく私は、今日食べたい。うーん、どうにかならないかなぁ。

そういってその青いアボカドを持った瞬間。
私の目の前に一瞬、あのお爺さんと草原が見えた気がした。
山々の頂、通り抜ける風。それが、たった一瞬。

私が手に持ったアボカドは、食べ頃の感じになっていた。
黒くなった表皮、豊かな弾力、つやつやとしたハリ。
これぞ誰しもが探し求めていたというような、アボカドだった。

こ、これが私の目覚めし、力・・・!

私は、思わず叫んでいた。


ジジイ、やり直せ!!!


グチャリと握りつぶされたアボカドが、鮮やかな緑色の果肉を上下二つに分けてボタボタリと床に落ちた。

おわり

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