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「聴く人」が増えたら、世界はもっと平和になる

2022年8月、私はnoteメンバーシップの機能を使って「聴くトレ部」の運営を始めました。

それから丸2年の運営を経て、先日7月末にメンバーシップを閉じました。

メンバーシップを閉じることにした理由は、私が9月に出産を控えているからです。そのような事情がなければ、きっと今も続けていただろうなと思います。

聴くトレ部は、聴く感性を磨きたい人が集まって、毎週土曜日朝6時半にZoomをつないでトレーニングをすることが主な内容でした。その時間から得られたものはたくさんあります。聴くことにとことん向き合えたことはもちろん、参加してくれた方との関係性が深まったことも、私にとっては運営してきてよかったなと思えることの一つです。

相手の話を聴くときの心得やテクニックは、講座や勉強会、セミナーで学ぶ機会はあるし、関連する本もたくさん出版されています。それらに触れることには価値があると思うし、インタビューライターの仕事をしている私も、実際にインタビューに関する講座やワークショップに参加したり、たくさんの本を読んできました。

けれど、それらは聴く力に関する知識を得ることがメインであることが多く、講座を受けた“だけ”、本を読んだ”だけ”では、実際に自分の聴き方はほとんど変化しないものだという実感もありました。「いい聴き方を知っていること」と、「実際に相手が話しやすい聴き方ができること」は全く別なのです。

そんな思いがあり、継続的に実践しながら聴く感性を磨く場がほしい、と思うようになりました。ちょうどその頃、noteメンバーシップという機能があることを知り、早速「聴くトレ部」として、聴くことに関心がある人が集まって、それぞれが聴くを探究する場をつくりました。

朝6時半から行うトレーニングは、とてもシンプル。2ペアになって、10分ずつ交互に聴き手と話し手になります。その後は、それぞれの立場から感じたことや気付いたことをシェア。毎週この内容を繰り返していました。

正直、シンプルすぎて段々マンネリ化してきたり、飽きたりしてしまうのではないか…と思うこともありましたが、そんなことはありませんでした。いつも同じ流れであることは安心感にもつながるし、話し手が話す内容はいつも違うし、参加者のコンディションも日によって違う。なので、想像以上に毎回いろんな気づきや学びがありました。

聴き方には、その人の生き方やあり方、価値観が表れると思っています。なので、トレーニングをしたからといって、急に聴き方が上手くなることは恐らくありません。そうだとしても、「聴くってどういうことだろう?」「相手は話せているだろうか?」と問いを持ち続け、それに向き合い続けることで、聴く感性は磨かれていくものだと思っています。

2年間の聴くトレ部の運営を通して、今の私が大切にしたい「聴き方」をこの記事に書き残しておきたいと思います。インタビューを仕事にしている人に限らず、日常の中で「聴く」を大切にしたいと思っている人の参考になれば嬉しいです。


1. 自分の心と体を整える

「聴くこと」は、聴き始める前から始まっているように思います。聴き始める前の時点で自分の心がざわついていたり、体に疲れがあったりすると、どんなに相手の話を聴こうと思っても、なかなかそれができないものです。

聴くトレ部では、冒頭に3分間の瞑想時間を取っている時期がありました。ざわついた心を落ち着けて、今に集中するために。たったそれだけでも、自分をリセットして話を聴くベースが整います。

日常的なコミュニケーションの中で毎回これをやることはありませんが、私は仕事でインタビューをするときには事前にトイレの個室で深呼吸をしたり、少し早めに現地に行ってカフェで気持ちを落ち着けたりするようにしています。

2. 話し手が漕ぐ舟に、一緒に乗る

聴き手は、語り手が漕ぐ舟に乗ってるだけ。
だから、思わぬところに流されます。

社会学者である岸政彦さんは、聴くことをこんな風に表現しています。

聴き手が話の主導権を握るのではなく、相手が漕ぐ舟に乗るように、話の流れを委ねてみる。そんな風に聴いてみると、お互いが想像もしていなかったところに流れ着くことがあります。その、「どこに着くかわからない感じ」を味わってみる。それもまた聴くことの楽しさではないかと思います。

インタビュアーとして話を聴いていると、つい記事のことを考えて「次はあれを聴こう」「残り時間を考えると、これもそろそろ聴かないと」と、相手の話を聴きながら同時にあれこれと思考していることがあります。

もちろん、記事にすることを考えるとその視点も大切なのだけど、頭でっかちになると予定調和のインタビューになりかねません。それってちょっとつまらないなとも思うのです。

3. 話し手の「言葉」を聴かない

聴き手は相手が話す「言葉」に注目しがちだけど、相手が表現しているのは、言葉だけではありません。

表情や声のトーン、話すスピード、仕草に注目してみると、話し手の「言葉」は表現のほんの一部であることに気づきます。聴き手でいるときに、思い切って話の“内容”を理解しようとすることをやめてみると、違う世界が見えてきます。

「あ、今表情が明るくなったな」「話すスピードが急にゆっくりになったな」そんなことに気づくのです。ただその変化を、一緒に感じてみる。まさに相手が漕ぐ舟に乗るように。

場面によっては頭で聴くことが求められることはあるけれど、思い切って心や感覚で聴くことに意識してみるのも面白いものです。

4. 素直に聴き、素朴に聴く

聴くトレ部で毎回聴くことを探究していると、「こういう聴き方がいいかも」「これも大事かも」と、より相手が話しやすいような聴き方が段々と
言語化されていく感覚がありました。

それはそれで学びが深まっている証拠だと思うのだけど、それと同時に、学んだことを意識しすぎるあまり、話を聴きながらあれこれ思考してしまうこともあるなと思いました。そんな風に聴くことを考え続け、一周まわって行き着いたのが、「素直に聴くこと」そして、「素朴に聴くこと」でした。

これが、簡単なようだけど難しい。

聴き手の中にある価値観が、無意識のうちに相手に伝わってしまうことはある。それ自体は悪いことではないけれど、時にそれは、相手を不快にさせてしまう可能性もあります。

自分の中にある価値観は一旦横に置いておいて、ニュートラルな状態で聴く。それが、素直に聴く。素朴に聴く。ということなのだろうと思います。

5. 感じたことを、相手に報告する

じっくり聴いた後に、「こんな風に感じましたよ」と率直な感想を伝えてみると、相手は「え、そうなの?」と自分の意外な一面に気づいたり、「そうそう、それでね…!」とさらに自分の話をしたくなったりするかもしれません。

聴き方のテクニックとして、「頷くこと」「相槌を打つこと」「おうむ返しをすること」「質問すること」などが挙げられることがありますが、それに追加して「報告する」も入れてみると、聴き方の幅がグッと広がります。

でも、安易に報告することは避けた方がいいなとも思います。表面的な聴き方をして「こう感じました」と伝えると、「この人、あまりわかってないな」「ちゃんと聴いてないな」と思われてしまうかもしれません。

まずはじっくり聴くことがベースにあることを、忘れないようにしたいものです。

もし、「聴く人」がこの世界に増えたら…

世界は平和になる。これって言い過ぎでしょうか?

聴くトレ部で毎回Zoomをつないで「聴くこと」を体験する空間には、とても安心感があったなと思います。(運営者が自分で言うのもおかしいのですが…笑)

なぜそんな空間になったかと言うと、聴くトレ部に入ってくれたメンバー全員に「聴こう」という意思があったからではないかと思います。そこに、テクニックは必要ない。

もちろん、インタビュアーとして、カウンセラーとして、コンサルタントとして…それぞれの立場で必要な聴く技術はあるけれど、日常生活のコミュニケーションにおいては、相手の話を「聴こう」という意思だけで十分なのではないかと感じます。

人は、「話したい」「聴いてほしい」「わかってほしい」「共感してほしい」と思う生き物です。聴くトレ部で相手の話を聴く時間は毎回たった10分ですが、話し手の立場になってみると、「じっくり聴いてもらえた感じ」「たくさん話した感じ」を味わうことができます。それだけで、話し手の心は満たされるのです。

つい、相手が発する表面的な言葉だけに触れて、「それは違うと思う」「こうした方がいいよ」「私の場合はこうだよ」などと自分の意見やエピソードを返してしまいがちだけど、そうしたい気持ちを一旦横に置いておいて、10分だけでも、まずは相手の話を聴いてみる

そうすると、自分が思ってもいなかったような話し手の一面が見えてくるかもしれません。相手の価値観の奥にあるものやさまざまな一面を見ると、「この人とは合わないな」「この人は苦手だな」という感情は、簡単には湧いてこないものです。

「聴く」面白さを感じるようになると、相手との関係性が良くなるだけではなく、自分の世界も広がります。

まずは、今あなたの頭にふと浮かんだその人の話を、じっくりと聴いてみてください。そんな小さなアクションが、もしかしたら平和へとつながる一歩になるかもしれません。


最後までお読みいただきありがとうございます(*´-`) また覗きに来てください。