「そして愛だけが残った」ほぼ完成品

気の遠くなるような歳月が流れた。数えきれないくらいの冒険に出かけた。再起不能と思える状態になっても、クジラが助けてくれた。他にも色々な存在が助けてくれた。船は正直なところ、もうこのまま復活したくないと思うこともあった。けれども、無理矢理復活させられた。改造に次ぐ改造で、自分はいったい誰なんだろう?と思うこともあった。
どうってことない時にも、“健診”があった。日ごろから整備しておけば、大難を小難に、小難は無難に。健康第一、ご安航を。これらは、クジラのお気に入りの言葉だった。船は、永遠に生きるのだと言われていた。けれども、後戻りできない瞬間が訪れるまで、船はその本当の意味を理解できていなかった。

あるときクジラは、もう船を復活させることができなかった。船にはまだまだしたいことがたくさんあった。あんなに嫌だった復活が、とても有難いことに思えた。どんな形になっても文句は言うまいと思った。今まで散々クジラに文句を言ったことを後悔した。
クジラは機嫌を悪くして船に意地悪をしているわけではなかった。もう、できなかったのだ。その頃、現実の世界でも、とんでもないことが持ち上がっていたらしい。それはまた、別の機会に・・・。

そして、愛だけが残った。船自身は気付いていなかったが、船は、物質的な材料の他、愛情で造られていた(この船以外にも、世界中の有形あるいは無形の色々に、このことはあてはまる)。新造の時の船大工の気持ち、修理の時のクジラの気持ち、それから、船と出会った人や生き物そして生きていないと思われている何かが感動した時のエネルギー、船のことを大切に想う気持ち、他にも書ききれないたくさんの色々なものが、ひっそりとしかし着実に蓄積、凝縮されていった。空想の世界の分も、現実の世界の分も。それらは、つまるところ愛だった。
数々の冒険を乗り越えるうち、船は愛という材料で誰にも壊すことのできない自分自身を形成してきたのだった。それは、非物質的な領域のことだった。船はようやくそのことに気付き、戸惑った。船は今や、とてもあたたかい捉えどころのない何かになっていた。

愛こそは永遠だった。肉体を失った船には、新しい役目が与えられた。生きとし生けるもの、さらには生き物以外の成長を見守り、時には助けること。かつて船自身がしてもらったように・・・。この役目を通じ、船もまた成長を続けるのだった。



この作品は2023年のピカレスク様での個展をきっかけにうまれました。

個展は、3つの作品群で構成されるのですが、そのうちのひとつ、生き物たちの成長を見守る船の作品群の、船がどうしてこの仕事を始めたかというところを言葉にしました(この話は今回は絵としては出展しません。この作品群は成長する生き物たちがメインで、船はそれぞれの場面にそっと居る予定です)。

そして、この物語の最も重要な部分が、個展のタイトルにもなりました。

クジラとか、突然出て来て、初めてお読みくださった方は戸惑われたかもしれません。今回、後の物語を先に言葉にしてしまったので、こんなことになっています。クジラは、別の作品群の重要な登場人物です。まだそちらは物語にできていません。基本的な設定は決まったのですが・・・。おいおいご紹介します。今、これを書いてる場合じゃないでしょ絵を描きなさいと言うもうひとりの自分や、早く制作したいようと言うもうひとりの自分をなんとかしつつ、書いています。色々器用に出来ずもどかしいです。

(絵については、締切があるので間に合わせなくてはと思い、○○しなきゃと思いますが、基本的に描くのが好きなので○○したいという気持ちもあります。)

とはいうものの、今回ようやく、ひとつ、言葉の作品ができ嬉しいです。

試作品(制作背景付き)を別のマガジンにしまいましたが、

あらためて完成品のマガジンにも入れておきます(ゆくゆくはこちらに物語が貯まっていく予定です。うんと先になりそうですが)。


一旦、完成としましたが、今後、物語をさらにつくっていく過程で違和感が生じたら、一部変更する可能性もあります。しかし、大筋のところは変わりません。

船の物語は、言葉の他、絵もあります。というよりむしろ、絵がメインです(少なくとも、今のところは・・・)。個展に向け、鋭意制作中です。制作過程はこちらです(他のふたつの作品群の分も含まれます)。


絵の作品は、完成したらこちらのマガジンに入れていきます(作品群ごとにわかれています)。

撮影したり言葉たちをととのえたりといったことに時間がかかるので、タイムラグが生じますが、ゆっくり投稿します。なるべく会期前に全部投稿したいですが、間に合わないかもしれません・・・。

様々な形でお力添えいただき、大変感謝しております。

ありがとうございます。それでは、また。



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