Supernormal 逆境に生きる子たち
Supernormal(スーパーノーマル)とは、親の離婚や虐待、いじめ、家族の病気など、さまざまな困難の中で育ちながら、逆境をばねに活躍する人々のことを言います。
困難を跳ね返す力はレジリエンスと呼ばれますが、スーパーノーマルは、マイナスをプラスに変えていく力を持つ人のことを指しています。
おそらく、私の投稿に関心を持ってくださっている方の中には、このスーパーノーマルに当てはまる方もいらっしゃるのではないかと私は思っています。
スーパーノーマルは、幼少期のつらい経験などでトラウマ体験をしているにも関わらず、学校や地域、家庭内においてさまざまな役割を担い、成果をあげます。そして自分が、スーパーノーマルだとは気づいていません。自分は普通ではなく、どこか弱いと、そう感じている人さえいます。
スーパーノーマルは、過酷な環境の中で自分を助ける資源を活用し、自分の力を使い、あらゆる方法でその環境から抜け出します。進学、就職、引っ越しなどの方法で実家から離れて、自分の世界を切り開いていく人もいます。
一時的に自暴自棄になる時期があることもありますし、精神的な疾患を患っていることもありますが、それはスーパーノーマルではない、という証明にはなりません。
スーパーノーマルは、自分の内面に問題を抱えながらも、強く生き、自分の世界を歩み、困難に立ち向かっているのです。
幼少期に逆境を経験した大人に対する研究は、アメリカで多くなされているようです。
片方の親、近所の親切な大人、教師、幼稚園の先生、親戚、など。スーパーノーマルは、そういった善良な大人の助けを得ながら生き延びることもあります。また、機能不全家庭の中で身に付いた能力(人の機嫌をいち早く察知する、礼儀正しいなど)が、新しい人間関係を作る時に役に立っている場合もあります。しかしそれには「本当の自分についてはわかってもらえていない」という気持ちが伴うこともあります。
「身体はトラウマを記録する」のヴェッセル・ヴァン・デア・コーク氏も述べていますが、トラウマの治療をするためには、過去のつらい出来事を認めることと、「どう生き延びたか」を知ることがとても大切です。
機能不全家庭で身に付いたことの中には、もちろん今つらい影響として残っているものもあるかもしれない。それと同時に、それらが自分にもたらした「ポジティブな側面」があることもまた事実なのかもしれません。それは、機能不全家庭で育ったことを肯定することとは違っていて、自分が経験してきたもの、その中で得てきたものを多角的に見る、解釈する、ということなのだと思います。
この本では、機能不全家庭で育った多くの方の事例が紹介されています。そしてその中でもたびたび登場するのが、自分が親になることへの不安。虐待の連鎖についてです。
これについては、アメリカの研究の中で、暴力やそのほかの虐待(精神的・性的虐待など)の連鎖には一貫性がないことがわかっているそうです。うつ病やアルコール依存症といった、遺伝による影響があるものでさえ、遺伝の影響は要因の半分に過ぎない、ということです。連鎖の可能性があるとすれば、それは連鎖の「リスク」があるということで、リスクは意識的・意図的に回避する選択ができるものでもあります。
子どもに、同じことをしてしまわないか。子どもが、自分と同じになってしまわないか。そう不安に思う方は多いと思います。事実、この本で紹介されているのはすべてアメリカの事例ですが、この日本で、機能不全家庭で育った多くの方が感じている悩みや不安と通じるところがありました。社会システムや歴史による文化、価値観は違えど、機能不全家庭という分野での課題がこんなにも似ているのだなと感じました。
事例では「いつか子どもをもてばわかるから!」と母親に言われた方の話もありました。それがなにより不安だった、と。私自身、子どもを育てる中で不安は大きく、母親との関係を断った日に「あんたも同じなんだから」と言われた言葉が重く重くのしかかっていたこともあります。
本書で紹介されているものに、こんな言葉があります。「最大の復讐は、危害を加えたもののようにならないことだ」
今となっては「復讐」なんて言葉も、そぐわない心境にはなっているのですが、この言葉には思わず線を引きました。
虐待、両親の不仲、人格否定、差別、いじめなど。
さまざまな困難を乗り越えてくることは容易ではありません。しかし、スーパーノーマルの多くは、自身の力を過小評価し、自分が「普通」ではないことを恥じています。人には話せず、理解されない。そんな思いを抱えながら「本当の自分をわかってくれる人はいない」と孤独感を感じることもあります。
良い子でいること、成績上位をキープすること、先生に気に入られること。今思えば、私にとってそれらはすべて、生き延びるための手段でした。
それによって、つらかったこともたくさんあって、本当はもっと子どもらしく生きたかったと願わないわけではありません。しかし、それによって得た私の特性があって、経験がありました。それらは今確かに、私のことを助けてくれています。
この本は、スーパーノーマルが抱える不安や苦悩に言及しながらも、科学的な根拠をもって、その力強さについても語っています。
(ちなみに、先日Instagramでお話した、トラウマから見る生きづらさのメカニズムで紹介した扁桃体や前頭葉なども、この本には登場しています。愛着理論を提唱したボウルヴィの話やスーパーマンとスパイダーマンの話なども登場します。)
「ネガティブをポジティブに変える」「自分らしく生きる」
偶然にも本書がテーマにしていることは、Growingとして目指しているところでもありました。
つらい過去を消すことはできなくとも、前を向いて生きていくことはできる。当事者にとっては大きな希望や励ましを与え、力になる一冊になることと思います。また、専門分野の方が読んでも、非常に興味深く学び多い一冊になると思います。
ボリューミーでしたが、かなり良書でした。
ありがとうございました。