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黄金をめぐる冒険㉕|小説に挑む#25

黄金を巡る冒険①↓(読んでいない人はこちらから)

小屋を出ると、外はやはり闇に覆われていた。
夜が深い。進む方向が全く分からなくなるほど、何も見えない闇だった。
僕はここに来た方向と逆に進めばいいのだと思い、何も見えないままその方向へと歩き出した。

辺りを見回して目を凝らしてみると、目先に白い棒のようなものが見えた。僕は火に集まる虫のように、無条件にその白い光へと進んだ。近づくと、それが案内板がであることに気付いた。
辺りは真っ暗で光なんて皆目見当たらないはずなのに、なぜかその白き存在だけは、僕の中ではっきりとした輪郭を持って真正面に立っていた。

そこには何も書かれていなかった。僕の正面にはただの白い棒があるだけだ。なぜ僕はこの白い棒切れを案内板だと認識したのだろう? 認識の差異が明暗に紛れて僕を混乱させているのだろうか。僕の頭の中で知らない小人がタップダンスを踊っている気がした。

僕は腑に落ちない違和感を抱え、その明暗を通り過ぎようとしたとき、ふと白ではない色味が僕の視界に紛れ込んだ。青色? いや、緑色がかった何か……
急いで首の筋肉を強張らせて頭を斜め左後ろに捻り、その違和感へと目を戻してみる。先ほどまで白だったそれが青色と緑色の混色に変化していた。

そしてはっきりと矢印が表示されており、その下には「八合目」と書かれた案内が浮かび上がっていた。案内板の全体は青色と緑色の混色で、矢印と文字は白色、という色分けになっており案内の役目をくっきりと施していた。

僕は不思議に思い、もう一度その案内板の方へと戻ってみた。すると、僕の右斜めにある案内板は、近付くにつれて青色の混色から純粋な緑色へと遷移していった。緑色の主張がはっきりしてきたところで僕は立ち止まり、もしかしたらと思いそのまま一歩後ろに下がってみた。するとどうだろうか、緑色に青色が混ざりだした。もう二歩下がってみる、次は大股で。さらに青色が混ざって、先に見た色と同じになった。
やはりと思い、また近付いていくと案内板はどんどん純粋な緑色に変色していき、終いには青が完全に追い出される。

なぜさっきまで何も見えなかったのだろう?
僕はまた不思議に思い、この案内板を初めて見つけたように真正面からそれを見てみた。すると不思議なことに、案内板は最初と同じ白い棒切れに戻った。
少し右にずれてみる。すると僅かだが緑色を帯び、薄っすらと案内板に変わった。僕の視線の入射角によって目に届く光の波長が異なる。なるほど、これは見る角度で棒切れかもしくは案内板かを変化させる、偏光板のようなものなのだ。

最初にこの案内板を見つけたとき、僕はこれを真正面から見ていた。だからそれはただの白い棒切れであったのだ。案内板としての役目は正面から見ると分からない、異なる角度が必要なのだ。異なる角度、ならばと思い、僕は数歩左にずれてみた。すると、緑色を帯びた案内板は次第に赤色へと遷移していった。案内板と僕の角度がある程度を超えると、それは完全な赤となった。

どんな材質で作ったらこんなことが可能なのだろうかと不思議に思った。赤、緑、青の光の三原色。それらの色が行きつく完全である白。波長は一体なにを僕に伝えるのだろう。

赤色に変わった案内板の矢印は、反対の青色の方向を指していた。赤とは逆の存在である青、確かに赤色へと進むのは少し気が引ける気がした。僕は矢印の方向指示に従って青色へと向かった。赤味を帯びた案内板は緑となり、一瞬の純白を挟んで、また緑色に移り変って、そして最後には限りなく青となった。

僕は矢印が指す方にしっかりと顔を向け、目を凝らし、僕が進むべき道の奥を認識した。その道はやはり闇の所有物であった。目の前は真っ暗で何も見えなかったが、案内板の教訓を活かして角度を変えて道を確認してみた。そうすると、僅かだが道を視認することができた。
道はとても曲がりくねっているように見えた。例の如く、険しい道のりなのだろうと思った。同時に、雑多な思考が頭でぺちゃくちゃと言葉を連ねていた。あるいはカチカチと音を立てて。

ぺちゃくちゃとカチカチ:
なぜご婦人は、こんなくらい時間に僕を進ませたいのだろう? 
周りが見えなきゃ危ないじゃないか。
こんなにくねくねしている道を迷わずに進めるものなのか?
いや、下手したら滑り落ちてしまう可能性だってある。
そんな不安心を抱えながら、僕はこの道を進まなければいけないのか?
こんな懐疑心を抱えて進まなければならないなんて……

あの赤色の奥に広がる道はどこへと繋がるのだろう?
僕はなぜ進まなければならないのだろう?
彼女は今も僕のそばに居てくれているだろうか?

***

僕は案内板の指示に従って歩を進めていた。

「諸君は”支配”をどう思っている? 私はあいつが嫌いなんだ。天敵と言ってもいい。とにかくあいつとは全くウマが合わなくてね」
”孤独”が僕に愚痴を言い始めた。いつから僕たちはそんな仲になったのだろう?
「私と諸君は共存関係なのだよ」

「そうですね、”支配”ですか。僕もあまりその響きが好きではないと思います」
「そうだろう!そうだろう!諸君はこちら側であるからな、やはりあいつが嫌いだろう!」
僕は嫌いとまでは言っていないが、”孤独”の中で僕の言葉は拡大解釈されているようだった。おそらくそれほどまでに”支配”とやらが嫌いに違いない。

「一つ私にあいつを懲らしめる提案があるんだが、意見を聞かせてくれないか?」
僕は首を横に振ったが、孤独は話を続けた。
「私は若者の間である運動を広めよう思っているのだ。それを孤独独立運動と名付けている。まだ検討段階なので仮称ではあるが、これ以上の名誉的呼称は浮かばないだろう」
孤独独立運動? なんてヘンテコな名前なんだ。

「失敬な!諸君の思考は筒抜けであることを努々忘れるではないぞ。親しき中にも礼儀はあるのだよ。まあひとまず聞き給え。この運動の下、まずは孤独独立独学会を結成する。そこで人間から”支配”思想を撤廃させていき、新たに孤独主義を宣言させる」
「孤独独立独学会? 独という言葉が多すぎないでしょうか?」
「貴重な意見だ。だが安心し給え。孤独主義では”独”という文字が神の啓示として絶対的な信仰を持つ言葉として認識させるつもりだ。人は”独”という文字を崇めるだろう。故に孤独独立独学会は教会としての神聖さを確立するだろう」
「洗脳じゃないですか…… まるであくどい商法みたいだ」

「それも貴重な意見として捉えておこう。だが諸君覚えておき給え。この世界では全てがビジネスなのだよ」


第二十五部(完)
二〇二四年六月

Mr.羊
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