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記事一覧

240209 今年最初に観た映画

240209 今年最初に観た映画

年始、思わぬ誘いを受けて三度目の劇場鑑賞に出かけた。一度目は公開二日目、仕事終わりのレイトショー。多くの人と同様に事前知識は全くない状態で観て、完全に虚をつかれた。鑑賞後、劇場スタッフの誘導にしたがって他の人と一緒に押し流されるようにエレベーターに乗って館外に排出され、晩ごはん食べ損ねたなとか、どうでもいいことを思い浮かべながら足早に家路につく間中、頭の中はずっとぐわんぐわん揺れていた。

二度目

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220701 〈映画〉普通の共感

220701 〈映画〉普通の共感

〈基本情報〉わたしは最悪。(2021年製作の映画)
Verdens verste menneske/The Worst Person in the World
上映日: 2022年7月1日/製作国:ノルウェー、フランス、スウェーデン、デンマーク/上映時間:121分

あらすじ
ユリヤは30歳という節目を迎えたが、人生はどうにも方向性が定まらない。いくつもの才能を無駄にしてきた。年上の恋人アクセルは

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211114 主義なるものの捉え方

211114 主義なるものの捉え方

『臨済・荘子』の後語に収められている一節。ここだけでも十分に読み応えがある。明治生まれの人の文章は美しい。というより、著者の言葉が美しいのか。淀みと揺らぎのない文章に触れると、心が洗われる。変な言い方だけど、子守唄のような癒やしと安らぎさえ感じる。頭の中でこんがらがっていたものが徐々に解けて、気持ちが落ち着いてゆく。

 (しかし)自己に忠実に、己れの問題に真剣に沈潜して行くということは、決して容

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210808 〈読書〉社会的因襲とどう向き合うか

210808 〈読書〉社会的因襲とどう向き合うか

最も賢い処世術は社会的因襲を軽蔑しながら、しかも社会的因襲と矛盾せぬ生活をすることである。
(芥川 竜之介『侏儒の言葉』より)

新聞記事でこの一節が紹介されたとき、筆者(鷲田清一さん)は以下のような言葉を添えていた。

 社会の歪(いびつ)、もしくは不全を、憂い顔で、しかも自身は安全地帯に身を置いたまま批判するというのは、“批評家”の偽善であり狡知(こうち)であると、作家は自戒の念を込めつつ揶揄

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210613 〈読書〉「幸福は人格」なのか

210613 〈読書〉「幸福は人格」なのか

 人格は地の子らの最高の幸福であるといふゲーテの言葉ほど、幸福についての完全な定義はない。幸福になるといふことは人格になるといふことである。
(中略)
 幸福は人格である。ひとが外套を脱ぎすてるやうにいつでも氣樂にほかの幸福は脱ぎすてることのできる者が最も幸福な人である。しかし眞の幸福は、彼はこれを捨て去らないし、捨て去ることもできない。彼の幸福は彼の生命と同じやうに彼自身と一つのものである。この

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210706 〈映画〉日常の延長線上にある小さなファンタジー

210706 〈映画〉日常の延長線上にある小さなファンタジー

先日、久しぶりに映画を観た。このところ集中して映画を観る気になれなくて、ずっと映画を遠ざけていた。振り返ってみると、心の余裕を失っていた気がする。もう少し上手に気分転換できるようになれたらいいなと思う。

〈基本情報〉15年後のラブソング
劇場公開日 2020年6月12日

解説
「アバウト・ア・ボーイ」「ハイ・フィデリティ」などで知られるイギリスの人気作家ニック・ホーンビィの同名小説を実写映画化

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210627 カミュを模した作者不明の文章

210627 カミュを模した作者不明の文章

“My dear,
In the midst of hate, I found there was, within me, an invincible love.
In the midst of tears, I found there was, within me, an invincible smile.
In the midst of chaos, I found there was, wi

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210626 体験に言葉を与えること

210626 体験に言葉を与えること

二年ほど前の日記から。

私にとってヘッセは、「堅牢なつくりの石橋をまず自らの手で破壊し去り、かき集めた破片で一から橋を組み直す。そうして再構築した石橋を、誇り高く颯爽と渡ってゆく」ような人。また別の側面から見れば、冷静と熱情が共存している人。相反するものを身の内に抱え込み葛藤し、矛盾に苦しみながらも一切のごまかしを許さない飽くなき探求の道を、一人ひたすら歩み続けることのできる人。これらの資質が、

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210205 〈読書〉政治的人間と宗教的人間

210205 〈読書〉政治的人間と宗教的人間

1.『淮南子』詮言訓より森三樹三郎(1994)『老子・荘子』(講談社学術文庫)講談社において、紀元前二世紀の漢代に書かれた道家系の書『淮南子』より、以下の一節が紹介されていた。

「私という人間が生まれるまでに、この天地は無限の時間を経過している。私が死んだ後も、また無限の時間が流れてゆくことであろう。してみれば私という人間は、無限の天地と無限の時間の流れに浮かぶ一点にすぎない。
 このわずかな数

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200724 〈ニュース〉「笑顔照らすドライブインシアター」2020年7月6日放送

BSニュース(恐らく全国各地のローカルニュースを紹介しているコーナー)で、ドライブインシアターに関する取材映像を見た。↓は動画(6分弱)のリンクと、動画が掲載されているNHK高知放送局のページ(動画の掲載は原則、放送日より2か月間と書いてある)。

取材に応じているのは、四国を中心に映画の移動上映を手掛けておられるという、シネマ四国代表の田邊高英さん。コロナ禍で通常の映画上映の中止・延期を余儀なく

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181129 読書―何を、どのように読むか

追記(200722)
削除記事の再掲(一部訂正済み)、十一本目。

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読書において、私はどんな本を手に取り、それらをどのように読むのか。この問いは常に漠然と私の頭に居座りながら、それでいて答えを用意することができずにいた問題だ。最近いくつかの本を通して、この問題に向き合う際のある程度の方向性を定めることができたので、ここにメモしておく。

0.読書の前提にあるもの

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181010 「観照」的読書について

追記(200721)
削除記事の再掲(一部訂正済み)、八つ目。

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1.「観照」とは先日、ある本を読んでいて「観照」という言葉が出てきた。そして、私が何か物事を理解しようとするときの眼差しは、まさにこの「観照」的なものではないかと、やけに腑に落ちるところがあった。

かん しょう くわんせう [0] 【観照】
( 名 ) スル
① 主観を交えず、対象のあるがままの姿を

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180802 〈映画〉ギレルモ・デル・トロ監督 受賞スピーチ(2018)

追記(200714)
削除記事の再掲(一部訂正済み)、三つ目。

この年のアカデミー賞授賞式は、自分にとって心の支えとなるものだった。ノミネートされている作品も俳優陣も式のパフォーマンスも、どれも素晴らしくて授賞式の映像を何度も見直した。『シェイプ・オブ・ウォーター』の多部門受賞はもちろん嬉しかったけど、個人的には作品賞(もしくは脚本賞)は『スリー・ビルボード』がとってくれたらいいな…と期待してい

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200710 相容れないコミュニティ観について

過去の読書メモを読み返して、これを書き留めておこうと思い立った。

数年前まで、現在ちょうど70歳前後の「文化人」と呼ばれる方々の著作物を、割と熱心に読んでいた。その方々の知識見識から学ぶところは絶えず文章の中に転がっていたし、たくさん勉強させてもらってきた。
それがある時期から距離を置くようになり、現在はほとんど流し読む程度になった。無論今でもあらゆる意味で到底足元にも及ばない人たちだし、たまに

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