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今日が水平線に落ちる頃

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散文、詩、ドローイングなど
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#小説

かたはね Ⅷ

かたはね Ⅷ

光の中 氷河脱出 

ここでは行動記録は取れなかったし、15歳ほどの水晶のような存在は間違いなく存在しながらも実態がつかめないまま言葉を話さずに意識だけで動いているようだった。
その意識に誘われて僕は光の穴へ落ちていった。

同時に僕は僕であることと重なっていった。私は私であり僕であった。
あるいは目の前に感じる光は僕の影かもしれなかった。

「ルル る る」
相変わらず穴へ落ちていく途中でも言葉

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かたはね Ⅶ

かたはね Ⅶ

逢うもの

彼は いや彼女は年頃15歳ほどであり水晶のような立ち姿で局所的に降る雨を従えて私の目に映っていた。
本当のことを言うと人物であるかもわからなかった。ただ懐かしい気持ちを覚えたのととても愛らしいことだけを思った。

彼は何も言わない。ゆるい逆光の中で私を見ていることだけだった。
私、彼女は何も話さない。しかし向かう目的地はお互い一緒なのだということはわかっていた。

透けるような存在であ

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かたはね Ⅵ

かたはね Ⅵ

やがて物語は閉てゆく不安のように

闇の中には静寂で、そこには物語があった。

私はすぐにそれを探したいと思った。

あの日蝶を埋めたことが未だ胸に焼き付いている。

夕闇が迫って私も私の影も夜という影に覆われて闇になる。このことは光でもある。焼きつく想いもまた影となって光をまとう

そうだ そうなのだ。あの日埋めたのは、実は自分だったのではないかと思った。どうしても蝶が死んだということを、もう一

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かたはね Ⅴ

かたはね Ⅴ

感じるもの

温室へ向かった私はそのドーム状の空間に教会を覚えた。中は蝶を放しておけるよう適温になっておりいたるところに植物や花の蜜が吸えるように花がたくさん咲いている。吸水できるようにと糖分が取れるようにゼリー入りの小皿が至る箇所に設置されている。オオゴマダラやイシガキチョウなど国内の蝶が舞う中私は呆然と立っていた。

黒アゲハは見当たらなかったが似た色ですごく大きな黒い蝶が優雅に舞っている。人

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 かたはね Ⅳ

かたはね Ⅳ

犯人を探せ

ここにリンゴがあった。 このリンゴは輪郭にすぎないが言語によって繰り返された信号を発してもいた。
そしてやはり自分もそのようにして存在しているのだなと、丸くツヤのあるリンゴを持ちながらある実験をやってみることにした。

実験とは、つまり蝶を埋めた犯人が自分であったかどうか、疑似体験的なことをしない限り私の中で始まらないのであった。それは蝶を掘り起こすことにある。あの公園の片隅の蝶の食

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かたはね Ⅲ

かたはね Ⅲ

追うもの

しっとりとした朝だった。

いつもと変わらず太陽が昇っている。奇跡的なことだというのにあまり感動はしない。枕元に自分の手の影を映して生きていることを確認する。何かが崩壊してしまった後のような空虚さがまた滲み湧いてくる。そして必ず公園に埋めた蝶のことを思い出すのだ。

あれは確かに蝶だったはずだ。育てて羽化不全として死んだ蝶だ。しかし本当に蝶だったのだろうかと時たま思う。まごう事なき、本

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かたはね II

視点転換

ここは富士の八合目あたりだろうか。鉄錆の映える柵が雲になるガスにまかれて垣間見えるその景色は個人的にとても好きだった。         湿気がまとわりつき幼虫が蛹を作る前の繭の糸をくくっている視界を想像できるからだ。滲んだ白とグレーが延々と広がるその景色は私を迎えてくれている気がした。遠近感もバグっている。多分ものすごく遠いところにある景色が近く感じ、時間は止まっているかすごくゆっくり

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かたはね  Ⅰ

かたはね  Ⅰ

この世界は平面であった。
かぎりなく、宇宙空間とその間に至るまでの全てがただの輪郭でできており、私はそこを滑走しているにすぎなかった。

この日私は大きな発見をした。
この輪郭はりんごと同じであることを。
りんごの外側、つまり輪郭をなぞって延々と繰り返し滑走しているだけにすぎなかった。

りんごの中身は闇である。

闇のまま育ち、もぎ取られて切られるか地面に落ちて中身が見えると私たちはりんごは白か

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ショートショート 『梟の砦』

ショートショート 『梟の砦』

今日という日が、どんなものであっても、食べ物を与えるため生き抜いて帰宅しなければならない。

出来るならば、正直に生きたいものだ。しかしそれは自分の心の中でだけ叶う儚いもののようである。
あたりは、目線という矢が飛んで暗闇にも糸が張り巡らされ、毎日が緊迫している。

何かの、ふとした自分の無防備さがきっかけで目の前を急に暗幕が閉じることがある。そんな時私は言葉の大海に飛び込んで浸水してしまうんだ。

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反転する世界に落ちているもの

反転する世界に落ちているもの

日常が飽和していってしまう。

全て何かに飲み込まれて何か大きな一つの混沌になる。

そのために私はキータイプをして散漫な文章を書き発信している。モールス信号を送るようにネットの世界に発信をしているんだ。

ここはもう磁気が意識を持って支配されている。こんなことを書いている自分でさえ意識が奪われて混沌の一部になっていってしまう。

ここ というのは、自分の座っている何の変哲もない部屋の、散らかった

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銀河、私たちは永遠の夏の子ども。

銀河、私たちは永遠の夏の子ども。

瞳の奥に赤い華の咲き乱れているそこは夏の終点。宙の露が、光る場所。

汗は顔や身体中をつたってざわめき世界中の道のような血管の凹凸を重力に従って落ちていく。熱い土に黒くシミを落として、そして目指す。私たちは全く誰もいない知らない場所を知っている。

このむせるような暑さの果て。真夜中、ペルセウス流星群には今年も搭乗できなかったけれど、強くこの道から進もう。たいそうな旅になるかもしれないと心配すると

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羽化の穴

公園へ行った。朝の暑くなってきた頃に。そこいらじゅうに大人の親指程度の 穴、穴。蝉のでてきた穴だ。夜にたくさんの秘密が生まれていることを思うと、羽化を感じるために夜の木々の間に耳を歩かせている自分がいる。

木の多い大きな池のある公園は、長い梅雨を終えて待っていたとばかりの蝉の大合唱の真っ只中だ、密に何種も鳴き始めている気がする。私には三種類くらいしかわからないんだけれど、ミンミンゼミ ツクツクボ

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