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ショートショート 『梟の砦』

今日という日が、どんなものであっても、食べ物を与えるため生き抜いて帰宅しなければならない。

出来るならば、正直に生きたいものだ。しかしそれは自分の心の中でだけ叶う儚いもののようである。
あたりは、目線という矢が飛んで暗闇にも糸が張り巡らされ、毎日が緊迫している。

何かの、ふとした自分の無防備さがきっかけで目の前を急に暗幕が閉じることがある。そんな時私は言葉の大海に飛び込んで浸水してしまうんだ。私のこの、目の前のコンクリートの密室を暗示させる重たい色のゆきかいは、蛹のように満ちて終幕に開花する小部屋ではない。永遠に開かない部屋への入り口は灰色たゆたう幸せそうな古びたさらしの手触り布の扉。

私に自分を守る衣服がない時、とても骨がきしみ、胃の中で梟が鳴く。
言葉は探せど湖面にうつろに漂うただれた枯葉となって形の全容が見えない。傷が痛んでそれが外へ向かえない時。その太い針はすべて内側に向かってカナリアの住まう胸部を突き刺して心臓が痙攣をする。

その言葉は本当だろうか。その言葉は。ありのままを見ることを恐れて自らを包む心地の良い衣服を着る。その行為は他者を守ることができても、私は文鳥が衰弱するように悲しい。

梟が鳴く

私は墨汁に群青を足した清々しい夜空に、まっすぐに今すぐに落ちたいと思った。ただただ悲しかった。命をかけていないのなら、いますぐ消してくださって構わないと声が聞こえる。私を落としてください。そう願うばかりに糸が操ってくる。

少し、月が移動して落ち着きを取り戻し始める途中に その人々の背後の見えない影がいた。ああなんだ、守られているんだ。と、冷静に俯瞰して見えた気がした。なので、これら一連の革命は変化しないものなのだった。それを知ラズ、私は罪を負ったために根に毒を垂らされて枯れてゆく。あなたの庭に入れないように、私を枯らさないでと羽ばたきあがいても私はとても素敵な言葉を贈る。その時、魂は不在で、梟が魔笛のように鳴く

私は落ちたいと思い続け、黒く重い空にあんぐり口を開けてわんわん泣いてみっともない姿を冷たいアスファルトに叩きつけて、頭をグワングワン叩きつけ血がにじむところでやっと、ふわりと浮かび、ああ、見ていたものは空ではなかったと軌道を修正した。その光の影は眩しく浮かぶ無言の桑の実色の冬空だった。

人はたった一人。こんなことはやめにしましょう。その一言が言えたなら、と私はそっと願うのです。

しあわせがありますように。

どこかで興味で買った、小さな本当の聖書を広げて好きなところを占いのように読み、雨が降ることを願う。

しあわせがありますように。言葉の大海から少し顔を出して息継ぎをした。なんのための詩編かもわからずに読んだその聖書の一行は、筏となって私を岸へ戻していった。なんだすべて偽りを私は潜って取りに行っていたのかと、きっと夜行性の鳴くはずのないサギたちが、クァクァ ケッツァル クァアル と、ひと鳴きをして教えてくれたんだ。そう、すべては自分の中の海の生態系の言葉の産卵から考えなければならない。

私は戻る。梟の鳴く夜の砦へ。面をつけた人の前だから大丈夫。誰にも見えないからね。明日も食べ物を持って帰るから待っていてね。

梟のいる私の胃は、すべてさらけ出せるが終わりのない、本当の終わりの砦。


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