【続】「選ばれる理由」がわかることの本当の価値を知っておくこと。
前回、なにかを選ぶとき、あるいは選ばれるとき、その理由についてお話をしました。
でも、選ばれる理由がわかることの、その奥に実はもっと大きな価値があるなって気づきがあったので、それもお話したい。ホントのところ、こっちのほうがうんと大事なことかもしれない。
それが何かというと、前回、選ばれる理由の例としてあげたのが、能面の材料を選ぶ理由でした。
能面にはひのきを使いますが、理由は「軽くて、丈夫で、彫りやすいから」。
「彫りやすいから」は、我々作り手にとっての理由なんですけど。
なんで「軽くて、丈夫」でなきゃいけないかというと、能役者さんが舞台で使うからというのが理由。
重いと頸椎を痛めるし、何十年、何百年と使用するものだから、壊れにくいものであることが望ましい。
で、本当の大きな価値はココ!
「能役者さんが舞台で使うものだと知ること」なんです。
いや、実際にはわかっていましたよ、もちろん、知識として、漠然と。でも、能面を習いたての頃は、本当の意味ではちっともわかっていなかったなって。改めてひのきが選ばれる理由を理解して、ストンと腑に落ちたといいますか。
「あぁ、能面は舞台で能役者さんがつけて演じるためのものなんだ」って。
この気づきが何を与えてくれたのか。
完成したものの出来具合を手元でかざして見て「よし! よく出来てる!」と思えた。でも、それだけではまだ足りないんです。
舞台上では能面は見え方が異なります。
手元で見るのと違って、客席からでは舞台を遠目から見ます。舞台ではライトも当たります。わからないほどの正中線のゆがみも舞台上では増幅されてとても目立つというお話も以前しました。
なので、大事なのは、「能舞台の上でどのように見えるか」を考慮してつくるということ。
そして、それと同じくらい大事なことがさらにもうひとつ!
それは、「能役者さんにとって使いやすいか」ということの重要性。
顔につけるので、頬骨に当たるとか、鼻がぶつかるとか、つけ心地の塩梅が悪いと使いづらいのです。すっと顔になじむかどうか。
それから、能役者さんは目や鼻や口の穴から外を見ます。逆に言えば、能面をつけた時はそれしか視界がない。ですので、穴の微妙な角度の違いがいい面であるかどうかの出来を左右するのです。
もちろん、飾るとかコレクトするといった需要もありますが、それでも私達はどの作品も能舞台で使用されるものということを前提につくるのです。
能面の素材にひのきが選ばれる理由を理解したら、その先にある職人としての意識や具体的な配慮項目まで見えてきた。能面を始めてしばらくした頃、そんな気づきがありました。
ものづくりにわずさわる、伝統にたずさわる。そのこと自体もこの上ない経験ですが、こうした気づきがあるのも日々の楽しみであり、人生の醍醐味だなぁって。
理由がわかることの本当の価値、みなさんの生活でもそんな気づきはありませんか?
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