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新商品パッケージづくりで悩むデザイナーを救った【キャッチコピー】

たかしは、どんな依頼にも丁寧に耳を傾け、短い言葉で本質を伝えるコピーライターだ。彼は言葉をできる限り削ぎ落としていくことで、受け手に想像の余地を与えることを何よりも大切にしていた。「言葉が短くなればなるほど、伝わる力は深くなる」と信じている。

ある日、彼に新しい依頼が舞い込んだ。今回は、デザイナーの玲奈からの相談だ。玲奈は、ある雑貨ブランドの新商品のパッケージデザインを担当しているが、キャッチコピーを何度も考えたもののしっくりこないのだという。たかしに相談しようと声をかけてきたのだ。

「たかしさん、このデザインに合うキャッチコピーを考えたいんですけど、どうも言葉がしっくりこなくて…」

玲奈が見せたのは、洗練されたシンプルなデザインのキャンドルだった。小さなラベルには控えめなフォントでブランド名が印字され、余白が美しく配置されている。色合いも落ち着いていて、どんなインテリアにも自然に溶け込みそうだった。

たかしはそのデザインをじっと見つめた後、玲奈に尋ねた。「このキャンドルにはどんな思いが込められているんですか?」

「このキャンドルは、日々の生活にちょっとした癒しを届けたいっていうコンセプトなんです。大きな変化じゃなくて、小さな安らぎをそっと感じられるような…」

たかしは、玲奈の言葉を頭の中で反芻しながら、デザインを見つめ続けた。そして、玲奈がどれだけの思いを込めてこのデザインを仕上げたかを、じっくりと考えた。

「つまり、日常にほんの少しの癒しを届けたい。大げさな言葉よりも、ささやかなものがこの商品には似合うかもしれませんね」と、たかしは言った。

「そうなんです。大げさにはしたくないんですけど、でもただ『癒し』と書いても弱く感じてしまって…」玲奈はため息をつきながら答えた。

たかしは少し微笑み、再びキャンドルに目を向けた。「言葉が強すぎると、このデザインの柔らかさを壊してしまう。逆に、柔らかすぎると今度は印象に残らない。微妙なバランスが必要ですね」

玲奈はうなずき、たかしが言葉を探し出す様子を静かに見守っていた。たかしは、自分の手帳を取り出してページをめくりながら、ふと短いフレーズが頭に浮かんだ。そして手帳にボールペンでさらりと書き込んだ言葉を玲奈に見せた。

「『ひと息、灯して』」

玲奈はその言葉をじっと見つめた。短くてシンプルな言葉だったが、どこか深いものが感じられた。「ひと息、灯して」というフレーズには、日常の中でひとときの安らぎを求める気持ちが込められているようだった。キャンドルを灯すときに、肩の力がふっと抜け、心が静まる瞬間が思い浮かんだ。

「この言葉なら、確かに伝わりますね。派手じゃないけど、心に届く感じがします」と玲奈は感激した表情で言った。

たかしは静かに微笑み、「このキャンドルを手に取る人が、ちょっとした休息を感じてもらえるように、できるだけシンプルな言葉にしてみました。玲奈さんのデザインが伝えようとしているものと、ぴったり合っているといいんですが」と答えた。

玲奈はその言葉に深く頷き、「ありがとうございます、たかしさん。この一言だけで、私が伝えたかった思いが全部表現されている気がします」と感謝の意を述べた。

その後、「ひと息、灯して」というキャッチコピーはキャンドルのパッケージに加えられ、新しい商品の発売日には多くの反響を呼んだ。SNSにも「シンプルだけど心に響く」「キャンドルを灯すたびにこの言葉が思い浮かぶ」といった感想が寄せられ、玲奈のデザインとたかしの言葉が一つになり、人々の心に静かな癒しを届けたのだ。

たかしは自分の名前が表に出ることはなかったが、それでよかった。このキャンドルを手に取った人が、ひと息ついて心を落ち着けるひとときを持てるなら、それが何よりも嬉しかった。人の心にそっと寄り添う言葉の力を信じながら、たかしはまた新しい依頼に向かっていくのだった。

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