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雑感記録(226)

【推し文庫への愛を語る】


昨日、僕は神保町での過ごし方的なものの記録を残した。

そこでも少し触れたのだが、僕には「推し文庫」なるものがある。これは本好きの方なら分かって頂けるのかなとも思う。というのも、自分自身が読みたい作品のラインアップなどによって文庫に偏りが生じる。例えば新潮文庫であれば夏目漱石や三島由紀夫の作品があらかた揃っている。そういえば安部公房の生誕100年らしいのだが、安部公房の作品も割と読める。ところが岩波文庫で読もうと思ったら読めない。夏目漱石は読めるが、三島由紀夫の作品はあまり見ない。新潮文庫で見るのが殆どである。つまりは、出版社の独占状態ということがある訳だ。

そうすると自分が読みたい作家の作品を取り扱っている文庫に傾倒することは必然である訳だ。これは小説のみならず、僕の好きな哲学の分野でも同様のことが言える。だが事情は少し異なる。例えば岩波文庫で『資本論』を読もうとする。ところが岩波文庫の『資本論』は翻訳がかなり難解である。恐らくだが今も昔の翻訳のままだった気がする。僕は大学時代に1度岩波文庫の『資本論』をチャレンジしたが難しすぎて挫折した。ただ『資本論』は様々な出版社から出ているので他の文庫などにあたることが出来る。僕はそういう紆余曲折を経て大月書店版の『資本論』を読んだ、読んでいる訳である。

『マルクス全集』でも良かったのだろうが、これは僕の欲望というか、本好きの性かもしれない。全集ともなると全てを集めたくなってしまうのだ。全集の形態で購入すると「他の作品も集めて揃えたい」と思ってしまうのである。まだそれ単体の状態の方が気軽にというと些か変な表現にはなってしまうのだけれども精神的に楽であるのだ。それに単純に物理的な側面もある。全集だとサイズが大きくなってしまうので外で読むことが難しい。電車などの移動中、特に通勤時などは読みにくいものなのである。

さて、前置きはここら辺にして、個人的推し文庫を紹介しよう。

先日の記録でも触れたが、僕の「推し文庫」は4つある。

1.講談社文芸文庫
2.ちくま学芸文庫
3.河出文庫
4.岩波文庫

これら4つの文庫である。これはあくまで個人的な感想になる訳なので、まあ参考程度にしてもらえればそれでいい。そしてもう1つだけ注意をしておくと、基本的には古本がベースになるので新刊で購入することが難しい場合がある。そこは注意が必要になる。それでは1つずつ見ていくことにしようか。


1.講談社文芸文庫

大学時代から本当にお世話になっている。本当に頭が上がらない思いである。まず講談社文芸文庫の何が素晴らしいのか。もう褒める言葉しか出てこないのだが、まずデザインがシンプルなのに荘厳な感じが凄く良い。古本屋に行って実際に陳列されている棚を見てもらうと非常によく分かるのだが、他の陳列棚に比べて非常にスタイリッシュな印象を受ける。色味もどぎつくないので眼に優しい。

デザインも物凄く良いのだが、何よりも作品のラインアップが素晴らしい。近代文学を学んでいる僕からすると非常に有難い。例えば過去に何回も何回も名前を出して非常に恐縮なのだが、柄谷行人の主要な作品が読めるのは有難い。個人的に『日本近代文学の起源』は何度読み返したか分からない。『畏怖する人間』も『反文学論』なども。それに小説でも色々と読めるのは有難い。特に古井由吉の短編集が読めるのは個人的に大きいところではある。

しかも、講談社文芸文庫は僕の好みドンピシャで新刊が出たりする。例えば鷺沢萠『帰れぬ人びと』や田村隆一『腐敗性物質』がそれである。鷺沢萠は今では新刊で購入することなど不可能に等しい。それに大概、新潮文庫から出ていることが多い。それが講談社文芸文庫から出るというのは非常に嬉しいものである。好きな文庫から好きな作品が出るのは単純に嬉しいものである。

ただ1つだけ贅沢を言わせて貰えれば、海外文学が非常に少ない。これは講談社文芸文庫のお考えもあるだろうから、あまり声を大にして言えないし、恩恵を受けている人間なので文句は決して言えない。だが、海外文学が…うーん…惜しい!と感じる。個人的にロブ=グリエが読めるのは本当に有難いのだが、もう少しラインアップがあればなと思う。例えば…そうだな…ロブ=グリエを出すならやっぱりヌーヴォー・ロマン辺りかな。

まあ、これは一読者のただの我儘でしかない訳だが実現されると嬉しいなとも思う訳だ。僕は勝手に期待している。これからもぜひ良い作品と呼ばれる名著を発刊して欲しいと切に願う。


2.ちくま学芸文庫

これもまた非常にお世話になっている文庫である。特に哲学系の分野に於いて非常にお世話になっている。これこそ本当に頭が上がらない。恐らくだが文庫の中で1番保有しているのはちくま学芸文庫だと思う。何よりこのちくま学芸文庫の『ニーチェ全集』は擦り切れるほど読んでいる。特に『善悪の彼岸/道徳の系譜』は読み過ぎてカバーがボロボロになって捨ててしまった。

ちくま学芸文庫に関しては哲学の分野に於いて非常に痒いところまで手が届いているので本当に素晴らしい。ホッブスの『リヴァイアサン』が出た時はどれ程までに歓喜したことか!何というか哲学的に古典とされている作品をこうして読みやすい形で提供してくれるのは本当に頭が上がらない…。

それに日本思想と海外思想という区別をするのは良くない訳だが、そこのバランスが非常にうまいなと思う訳だ。僕自身がかなり本に関して偏りのある人間なのでこうして出されている本で調整が取られているのは嬉しい。満遍なく網羅的に学べるということは現代の知にとっても非常に重要なことだと思われる。最近ではそういうことを考えるようになった。

哲学を色々とやっていると現代思想は過去の哲学の読み直し、読み替えというような印象を受ける訳だ。過去の思想を現代版にアレンジするような形になっているのだ。つまりだ、過去の思想を学ぶことは非常に重要になる。しかしだ。過去の思想を学ぶのは中々難しい。それは物理的に読めないということがある訳だ。既に絶版になっていたり、流通していないということもある。だが、ちくま学芸文庫にはそれが出来る。これ程までに素晴らしいことがあるのか!?

ちなみにだが、最近購入した個人的激熱ちくま学芸文庫は浅田彰の『ヘルメスの音楽』である。最近、中公文庫から『構造と力』が出て話題になった訳だが、浅田彰の作品を文庫で読める機会というのは実は中々ない。最近所沢古本祭りで『映画の世紀末』を購入した訳だが、こういう所でも『構造と力』以外の本はあまりお目にかかれない。況してや文庫ともなると尚更である。

僕は筑摩書房が好きなのかもしれないな。『中野重治全集』も筑摩書房から出ているし、『明治文学全集』も出ているし、何より吉岡実が社長やっていたってこともあるし…。個人的に勝手に愛着を持っている。

これからも期待したいところである。


3.河出文庫

これも単純に自分の読みたい作品がわりと多く出ているということだ。例えば尾崎翠『第七官界彷徨』とか。ケルアックの『路上』(河出文庫だと『オン・ザ・ロード』というタイトル)など。

不思議とタイミングが合うというのかな。これが読みたいっていう時に探してみると大概、河出文庫から出ている。例えば永山則夫『無知の涙』なんかがそれだ。そもそも永山則夫を知っているかにもよる訳だが、その作品が文庫で読めるのは中々貴重だなと思う訳だ。

しかし…河出文庫については書くことがこれぐらいしかないな…。本当に推しなのか…。


4.岩波文庫

これについては言わずもがなである。文庫界の重鎮である。重鎮であるからこそ様々な作品を輩出している。言ってしまえば、日本文庫界のレジェンドである。単行本は正直微妙なことこの上ない訳だが、文庫に関しては最強であるように思う。

しかも歴史が長い分、古本屋に行くとかなり安価で良い作品が手に入る。ただ1つ問題なのは海外文学の訳である。これはこの記録の最初にも触れたが、訳が時たま古いことがあり、読みにくいということが発生する。読みやすさを重視するならば海外作品を読む場合にはあまりお勧めしない。しかし、貴重な本を読めるという点に於いては圧倒的である。

例えばムージルの作品を読もうと思うと中々文庫では見当たらないが、なんと!岩波文庫から出ているではないか!しかも!古井由吉が訳したものだ!これはかなり激アツである。

作品の充実度で言えば、先に挙げた推し文庫よりも圧倒的である。それが安価で読めるということほど嬉しいことは無い。古典を読むという点ではこれほどまでに優れた文庫はない。岩波文庫の恩恵は計り知れない。個人的にね。大学に居た時も研究に使用するのに本を揃えるんだけれども、大体岩波文庫で全部揃うのである。

あと、選集が個人的には凄く良い。例えば『日本近代文短編小説選』などがそれだ。大学時代によくそれを利用した。担当教授が編者であったことも理由の1つである訳だが、それ以上に網羅的に主要な作品を抑えることが出来るのは有難い。僕はお陰で牧野信一『ゼーロン』に出会ったし、小栗風葉に出会えたのである。

しかも、嬉しいことに貴重な本が続々と新刊で出るのである。今日、なんと『嘉村礒多集』が出るではないか。中々読みたくても読めなくて、実は悶々としていたのだが文庫で出るとは!ありがたいことだ、本当に…。


まあ、ざっとこんな所である。

皆の推し文庫あったら教えて。

よしなに。

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