雑感記録(225)
【神保町探訪覚書】
僕は毎日、神保町に居て昼休みは昼飯を食べずにただ古本屋を徘徊している生活を過ごしている。土日もそのうちの1日は遠出をする訳だが、最終的に東京駅を基準としており、そこから歩いて自宅まで向かうと神保町は必然的に通る。その際に再び寄るということを考えると週7日のうち6日は古本屋に居ることになる。
しかし、これを時間に換算しようとすると滞在時間は大してない。単純に昼休みは1時間な訳だ。その間にまず古本屋に向かう時間、会社に戻る時間を考慮すればのんびりともしていられない。体感として40分ぐらいだろうか。それが5日、外出時は結構回るので2時間ぐらい。そう考えると1週間に5時間ぐらい滞在していることになる。2024年は52週らしいから僕はざっと1年間に260時間古本屋に居るらしい。10日ぐらい。そう考えると少ないなとも思えてしまう。
だが、これ以上に古本祭りや各種イベントなども行っている訳だ。それこそ神保町古本祭りや所沢古本祭り、新橋古本祭り、八王子古本祭り…。そう考えると実際はもっと長いような気がしなくもない。まあ、こう書いても「だから何だ」と言うのがオチなんだが、やはり数字というものは恐ろしいものだなと改めて痛感される。そこに僕の濃密な時間は反映されることは永遠にないのだから。
恥ずかしいことに、僕は神保町の古本屋には人並みより若干詳しいが、グルメを殆ど知らない。神保町で勤務していながら、ランチをしないのだから仕方がないと言えば仕方がない訳だが、友人と訪れた時には本当に申し訳なく思う。「腹減ったな」「茶しばきに行こうぜ」と言われても良いお店というか知っているお店が限られる。「毎日居るのに何で知らねえんだ!」と未だ言われていないが、いつか言われるのが恐怖である。
それで、そういえば神保町の古本屋について具体的にあんまり書いたことないなと思って、自分の行動を見つめ直すという意味でも書いてみようかなと思いこうして画面にタイピングしている訳である。
実際今日も今日とて行ってきた訳だが、昨日メイルソープの写真集を買ってどこか満たされたので今日は本を購入するのではなく、ゆっくり見て回ることにした。僕は結構こういうのがある。前日に少し大きな本の買い物をすると翌日、翌々日と中々本を購入する気になれないでいる。例えばこの間『定本 木村伊兵衛』を購入した時もそうだった。メイルソープの写真集はそれより高価ではなかったものの、やはりお値段はした訳だ。
写真集や画集を購入する際には僕はいつも小宮山書店に行く。大抵の写真集や画集はあそこでほぼ揃う。しかし、どうやら最近はお休みが多いらしいのか、お店が締まっていることがある。今日はたまたま開いていたので入店したが、お客さんが僕だけだったので凄く気まづくてそそくさと見てすぐに出てしまった。中平卓馬の写真集があってそれを見たかったのだが、取りにくいところにあった。元々僕はコミュ障なので1人で居ると店員さんに声を掛けて「あれ見たいんです」と言うのは億劫というか、恐怖でしかない訳だ。「お仕事の邪魔したらどうしよう」とか色々と考えてしまう。結局僕は眺めていただけだった。
いつも僕は決まって澤口書店からスタートする。これは至って単純な理由からである。それは喫煙所が2階にあるからである。ただそれだけのことである。昼休みになったらまずはそこへ直行。他の古本屋には目もくれず一直線に。そうして2階でタバコを蒸かしながら物思いに耽る。大体この時間で先の予定とかそれこそnoteのネタとか、そういったものを棚卸ししている。タバコを蒸かすと精神的に落ち込みやすくなるらしい。まあ、これはどこかの記事で読んだが、科学的に証明もされているらしい。しかし、個人的にだがあまり元気がありすぎても良い思考が出来ない。だからタバコで人工的にそういう状況を作り出して思考するといった感じである。
ここでは2本蒸かす。蒸かし終えたら店内に戻る。いよいよスタートな訳だ。
喫煙ルームを出るとそこのコーナーは映画や建築、美術系の図録や画集が多く並んでいる。まずはそこを物色する。先日そこで僕はメイプルソープの写真集を買った訳だが、「今日はどんな作品があるのかな」と物色する。色々と見ていくのだが、海外のアーティストのものともなると英語表記なので探すのに苦労する。古本屋に通い詰めてもここだけはどうしても慣れない。横文字の題名やアーティスト名にちょっとした抵抗感をもってしまう。
横へ目をやると、今度は日本人アーティストの作品が沢山並ぶ訳だ。所謂有名どころから「そんな人いるの?」という所まで幅広く取り扱っている。そういえば、初めてここで『決闘写真論』買ったんだっけなと思い出される。本との出会いはいつも偶然である。小田和正じゃないけど『ラブストーリーは突然に』やってくる。本当に。冗談抜きで。これがあるから古本屋巡りを辞めることが出来ない。
それでグルグル見ていたんだけれども…どうもピンとくるものがない。木村伊兵衛の写真集もこの間購入したし、森山大道も主要な写真集は抑えているし、荒木経惟はそもそも写真があまり好きじゃないし…と様々に交錯していく。それにだ、これは言っちゃあお終いなんだが、僕は文学畑の人間であるから、どちらかと言うと写真家の言葉、文章が読みたい訳である。だから写真集も勿論好きだし欲しいのだが、どちらかと言うと「発言集」やら「評論」などの方が欲しい。
ただ、そもそも今日は別に「本を買うぞ~!」というモチベーションでは少なくともないので見て回ることが僕の中心に据えられていた訳だ。だから諦めがつくのも早い。「まあ、今日は無いんだな。よし。」と腰を上げ、階下に向かう。神保町は古本屋が密集している。お店自体がそこまで大きくはないので移動も一苦労である。僕は毎回ここが嫌だなと思うのだけれども、好きなことの為の少しの我慢は仕方がない。幸いにも昼休みで財布のみ持って行っているので、荷物もほぼないからすれ違うこともスムーズに出来る。
もし「本を買わない」と心に決めて「本を見るだけ」と心に決めているのならば、荷物は最低限で行くことをお勧めする。自分が動きやすいだけでなく、他の人への配慮にもなる。
お店を出て2件目へ行く。ちなみにここも澤口書店。ここの澤口書店はどちらかというと、文庫が多く、哲学や小説などがメインになる。僕はここに入り浸っている訳だ。やはり何と言っても文庫が沢山あるのは個人的には嬉しいところである。本が好きになってくると、所謂「推し出版社」なるものが出来る。これは冗談でも何でもなく。僕にも「推し出版社」「推し文庫」がある。
・講談社文芸文庫
・ちくま学芸文庫
・河出文庫
・岩波文庫
この4つは個人的激推し文庫である。講談社文芸文庫は一時期ツイッターにて「私の好きな講談社文芸文庫」みたいなハッシュタグでその界隈を賑わせていた。ちなみに当時の僕もそれに便乗して投稿した。その時は柄谷行人の『日本近代文学の起源』と古井由吉の『木犀の日 古井由吉自選短編集』を挙げた訳だが、それ以外にと言われたらあまり思い浮かばない…。
ちくま学芸文庫は哲学を主にやりたい人というか、結構ガチめな読書をしたい人には持ってこいの文庫である。僕はこの文庫でニーチェ全集を揃えた。あとは最近『リヴァイアサン』がここから出た。すぐに買った。いつも読みたいと思っていたのだが、中々見当たらなかったので最高である。何というか哲学系では個人的には文庫だとここが強い気がする。というか、頭が上がりませんね。僕は大ファン。それだけの話さ。
河出文庫は何というかあんまり「お!」ってなることが無いんだけれども、時たま自分が読みたかった作品が河出文庫から出ているということが結構な頻度である。それで毎回単行本とかで購入した後、古本屋で文庫になっているのを見つけて落胆するのね。それが多いのが個人的に河出文庫。ケルアックの『路上』(多分『オン・ザ・ロード』っていうタイトルで出てたかな?)とかもそれだった気がする。
岩波はもういうことなし。大概岩波には何でも揃っている。訳文は悪いけど「読める」という点では高評価。以上。
そんな訳でぐるぐる見て回った。やはり自分の好きな分野の本が所狭しと並んでいる光景は圧巻だし、何より愉しい。本を買う買わないにしろ、好きなものに囲まれているというそれだけで至福な一時である。さらりと見て回ってみたが、ピンとくるものはあまり無かったのでお店を後にし、更に別の古本屋へと僕は向かった。
時計を見て時間に限界が来そうで、しかも僕が次に行こうとしてる個人的激アツ古本屋まで距離があるのを考慮すると、恐らくここが最後になる。というかいつも最後はこの古本屋で締めている。水曜日、日曜日、祝日の定休日以外は行かないということなどありえない…と言うのは些か言い過ぎかもしれないが、そのぐらいに好きな古本屋のうちの1つである。
それは、日本特価書籍という古本屋だ。お店自体はかなり狭いのだが、ここに陳列されている商品は物凄く良い作品が多い。個人的にだが。ここの何が凄いかというと、外のワゴンに安価で質のいい作品が置いてあることだ。今日は『フロイト全集』の第6巻1冊だけだったけど、あれが1,100円ぐらいだったかな。チラ見しただけだからあんまり覚えていないけれども、「安い!」と思ったのは紛れもない事実だ。
これもまあ、参考にしてもらえれば良いのだけれども、大概外のワゴンに出ている古本のラインアップを見れば「ああ、ここの古本屋は僕には合いそう」ということがそれとなく分かる。これはあくまで僕の経験則だから、あてにしないで欲しいんだが、外のワゴンの段階で「微妙」な場合、お店に入っても割と微妙なことがある。僕が古本屋を見極めるには毎回外のワゴンを活用しているというだけの話さ。
それで、この古本屋に入って残りの時間をゆっくり過ごす。
ここの古本屋の何が良いのかと言うと、哲学コーナーが非常に充実しているのである。しかも丁寧にジャンル分けがされており、非常に見やすい。これは有難いことだ。個人的にデリダやジジェクが多い印象だ。日本の哲学はあまり多くはないが、何というか厳選されている感がある。また精神分析の分野についても主要な著書が多く並ぶ。生憎僕が読みたいフロイトがあまりなく、ユングばかりが置いてあるのは些か解せない訳だが、しかし品揃えは非常に良い。
また文学系、特に海外文学などではあまり他の古本屋では見ないような本が時たま置いてあったりするので面白い。一時期、狂ったようにホフマンスタールが置いてあったのには思わず笑ってしまったが、今はかなり落ち着いている。ただ、日本文学は正直微妙な感じがする。古典作品については殆どない。どちらかと言うと現代作家が多い印象だ。
それにしてもこの古本屋は本当に好きだ。何というか僕にとっての全体的なバランスが最強なのだ。これ程までに僕の精神的安らぎを感じる古本屋は……いやあるな。だが、それでもだ。ここの古本屋は良い。ガチの人から色んな人が愉しめる所だ。しかし注意して欲しいのだが、所謂サブカル系の人はあまり愉しめないかもしれない。読書ガチ勢ならば愉しめること間違いなしである。
これで僕の昼休みの古本の旅は終わる訳だが、振り返ってみると実際そんなに古本屋に行っていない。せいぜい行けても2,3件ぐらいしかない。まあ、仕方がないっちゃ仕方がない。本当なら他の古本屋も見て回りたいのだが、やはり時間が無いので厳選した所に行きたいと思うのは当然である。そう考えると、定休日以外の日は大抵この澤口書店と日本特価書籍にいつもいる。
時たま、小宮山書店に行ってみたり、八木書店に行ってみたり、玉英堂書店に行ってみたり、古書アットワンダーに行ってみたり、矢口書店に行ってみたり…。まあ、その時々の気分で行くお店は返るのだけれども、この澤口書店と日本特価書籍については行かないと気が済まないのである。
まあ、そんな感じで毎日神保町を徘徊している。
僕は元気でやってます。
よしなに。
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