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レントよりゆったりと〔随想録〕

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2019年11月の記事一覧

一線を越えてしまった日

一線を越えてしまった日

つらい。
通っている絵画教室のSNSがあげていた写真を見て、僕は涙を滲ませた。
それは教室中の雰囲気を撮影したものだった。
プライバシーに十分配慮され、生徒たちの顔には全てボカシが入っていた。
しかしある部分にはまったく配慮がなかった。
それは……(悔しそうに俯く)
それは……(拳を握りしめる)
僕の後頭部だ。
薄い、薄いぞ! 以前よりだいぶ薄い!!
うすうす気付いていた。この「うすうす」は副詞で

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占いに行くの巻

占いに行くの巻

屋外型ショッピングモールを歩きながら
「そろそろかな」と思った。

小さな野外ステージの横を過ぎる。風が吹き込んできて、身を切るような寒さにダウンジャケットの内に首を引っ込めた。宝くじ売り場を過ぎて右に曲がり、植木に挟まれた小道を歩くと、赤い屋根をかぶる小さな小屋にたどり着く。その小屋は木々によって巧みに隠されていた。派手な外観をしているのに、スーパーマーケットに続く表通りからも、裏手の駐車場から

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火曜日のアナーキストを野に放つ

火曜日のアナーキストを野に放つ

今日のテーマは火曜日の自分。今日は間違いなく木曜日だ。サブテーマは「詩とは?」



今週の火曜日、僕は憤っていた。ある職場で不当な対応を受け続けていて、しかるべき場所に訴えていたにもかかわらず全く改善しなかったからだ。
その日、僕は怒りを雇用主に向けて爆発させた。すると彼女は
「改善のために体制を見直しますね」
と笑った。
ほう、やはりそこで笑うか。オレには分かっているぞ。これは体制の問題では

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絶対に怒らないでください

絶対に怒らないでください

あるビルの出口から意気揚々と出てみた。
足取りは自然と軽かった。だからいつも以上に胸を張り、腕を振ってみたんだ。

それまで居たのは「歯医者」だった。
え? 歯医者から意気揚々と出てくるなんて馬鹿じゃないの?
バカにすんなよ、これは偉大な偉大な達成だったんだぜ?

この世で一番キライなものは歯医者だし、自分の1番のコンプレックスは口腔内環境だ(ちなみに自分の体で一番自信のあるところは足の裏。いらん

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深夜の立ち飲み屋、女は胡瓜をつまみながらハイボールを飲んでいた。
向かい合った木目の壁が、ときおり彼女に頷きかけているようだった。後ろの方では2人客や団体客の談笑が満ちていが、そこだけ音のない空間が佇んでいた。
20分ほどして彼女は店を出た。レジの店員にさりげない笑みを投げて。