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檸檬読書日記 感覚を狂わす異質小説。 7月17日-7月23日

7月17日(月)

たむらしげる『象の思い出』を読む。これは絵本、なのだろうか。

『水晶山脈』の時も思っていたけど、独得な世界観だった。

象が私を乗せてゆっくり歩きはじめた。(略)
「暗くなってきた。そろそろ引き返さないか?」
不安を感じて私は言った。
「明日になったら戻るさ」
象がつまずくように、私を乗せたままズズズとひとかたまりの土くれになって崩れ落ちた。
「寿命だったんじゃよ」
(略)
翌朝、象使いの笛で目をさました。その笛の音に反応するように、地面が盛りあがり、一頭のりっぱな像が大地から呼びだされた。その象が私だった。

よくよく考えればとんでもないことになっているのに、そう感じさせない淡々とした文に、思わず素通りしてしまいそうになる。けれど読み終わってからじわじわと異質さが来る。
けれど読み進めていくと、その異質さが普通になっていく。異質なのが普通になっていく魔力があった。
不思議な短い話がいくつか収録されていて、読めば読むほどその世界観に虜になる本だった。

合間合間に絵もあり、その絵もまた素敵なのだ。『水晶山脈』は、鉱物写真と絵が合わさっているために目の保養になるような美しさがあるのに対して『象の思い出』は、ふわっとしたラフなタッチの絵が魅力的な作品。
どの絵も暗めなブルーベースで、淡々とした文章と相まって、心が静かになっていくようだった。



7月18日(火)

自転車の寿命が来ている。
ずっとギコギコと音がし「もう無理っす」と訴えてきているのをどうにか宥め乗り続けていたが、とうとう来てしまったかもしれない。割れてしまった。後ろの泥除け(というのか?)部分が…。
ひえー、出費が…。
自転車って確か2、3万するよなあ。わあでも3万するなら武者小路実篤全集(中古)と同じくらいではないか。そうなると自転車より全集がいいなあ。
よし、もう少し頑張ってみよう、いや頑張ってもらおうかな。(え)


デイジー・ジョンソン『九月と七月の姉妹』を読む。

凄い作品に出会ってしまった。
自分のしょうもない語彙力では到底表しようもなく、それがもどかしくてならない。

九月と七月の名を持った姉妹の話で、姉は妹を支配し妹はそれに従っている。その絆はとてつもなく強く、誰も入り込めないほどだった。そしてそれはある事件をきっかけに歪み始め…。

というもので、頭がくらくらするほど異常に満ちていた。

前回〈セトルハウス〉にいたときは、ほぼひっきりなしに“セプテンバーは言う”をやっていた。(略)セプテンバーは言う、でんぐり返しして。(略)日差しが弱くなるにつれて、やることは難しくなっていった。セプテンバーは言う、爪を切ってミルクに入れて。(略)セプテンバーは言う、服を全部ゴミ箱に入れて窓の前に立って。この針をあんたの指に突き刺して。

あたしが死んだら、ジュライも死ぬ?と彼女は言う。
そういうことを彼女が訊くのは初めてではない。“あたしがさらわれたら、ジュライが自分を身代わりに差し出す?”(略)“あたしが手や足をなくしたら、ジュライも自分のを切り落とす?”もちろんそれに対する答えはたった一つしかない。
うん、とわたしは言う。(略)
もしもあたしたちのどっちかが死ぬとして、どっちが死ぬか選べるとしたら、あたしのかわりに死ぬ?と彼女は言う。
(略)
うん、もちろんだよ。死ぬのはあたし。
約束する?
うん。する。

けれど、読み進めていくうちに、異常に満たされすぎるのか、違和感を感じる方がおかしいのではないかと思えてくる。
それほど、自分には非日常なことが彼女たちには日常的に進んでいく。

この姉妹、絆は強固だが、双子ではない。名前の通りに10ヶ月違いの姉妹で、けれど双子ほどは密接ではなく、1歳違いなほど遠くもない。その絶妙な距離感を物語では表していて、とても上手いなと思った。
本当に凄い。これに尽きる、最初から最後まで、ドキドキさせられる話だった。





7月19日(水)


素晴らしいアイスを見つけてしまった。
松崎冷菓「加賀棒茶アイスバー」

何が素晴らしいって、乳化剤が入っていないということ!そして香料も着色料も安定剤もなし。素晴らしい。
大概アイスは乳化剤が入っているから、暫くアイスを食べていなかった。けれどこれを見つけ、飛び上がるほど嬉しかった。
その上、ほうじ茶味。最高ですね。

アイスバーだから重くなくて、夏にピッタリ。けれど牛乳も入っているからジャリジャリすぎることもなく、ちょうどよい食感で食べやすい。
牛乳も低温殺菌されたものを使うというこだわりよう。素晴らしい。

香りも味もきちんとほうじ茶の味がして、香ばしく上品で、甘すぎないのも良き。
これで夏を乗り越えられそうだ。
ほうじ茶以外にも、抹茶、ジャージー牛乳、小豆、柚子味があったから、今度他のも試してみよう。



7月20日(木)

糸井重里『金の言いまつがい』を読み終わる。

相変わらず面白かった。前作の『言いまつがい』よりもグレードがアップしている気がした。結構くすりとしてしまい、にやけてしまうのを抑えるのが大変だった。

友人が、よく晴れた空を見上げて、
「空ひとつない青空……」
と感慨深げにつぶやきました。光を浴びた彼女の顔があまりに幸せそうだったので、黙って私も空を見上げました。

最後にこれを持ってくるのも良い。
終わるのが惜しいが、それでもまだ自分には『銀の言いまつがい』がある。にまにま。
楽しみだ。


東洋経済オンラインに載っていた、SUPER BEAVERのボーカル・渋谷龍太さんの記事を読んだ。


イーサン・クロス『Chatter(チャッター):「頭の中のひとりごと」をコントロールし、最良の行動を導くための26の方法』という本をもとに、自分を保つための思考の整理の仕方について前編と後編、2つに分かれて書かれていて、やはりこの人の思考好きだなと改めて思った。

渋谷さんは、自分が天才ではないと自覚した上で、悲観するのではなく天才でも強者でもない自分だからこそ出来ることがあると言う。
けれど弱者だけでなく強者の気持ちも理解することで、自分のいる立場を自覚し考えようとしている。
とにかくこの人は、常に考えようとしている。悪いことも良いことも、考えて見つけようとしている。
自分は考える人が凄く好きで、だからこそ、興味深くて面白かった。

エッセイ「吹けば飛ぶよな男だが」の話も良かった。

ただ僕は、嫌なことを嫌のまんま表現することは、格好悪いなと思っています。「これがムカついた」というように、表現を捌け口にすることはプラスにならないし、頭を使わないことでもある。なにより、事実に負けている気がして悔しくなってしまうんですよね。

ですから、それらのマイナスの感情について「どうすれば自分が勝てるのだろう」と考えるようにしています。例えば、打開策を提示したり、面白く笑える話にしたりする。

自分が失敗したことも、どうにかしてプラス思考で表現できれば、自分の中で折り合いがつけられますし、読者の方にも楽しく読んでいただけるのではないかなと思っています。


なんだか分かる気がする。
でもそれをするのは凄く難しく、言うよりも大変なことなんだと思う。それでもきちんと折り合いをつけて、やってのけてしまうところが本当に素敵だ。
早く本を買わねばと思わされた。いや、早く買いたいと。(買ったとて、直ぐ読めないのだけれど…)

渋谷さんといえば、思考も素敵だが姿勢も素敵で、音楽番組に出て歌い終わると、「お世話になりました」や「ありがとうございました」と言って、いつも深々と頭を下げている。その姿が、自分たちがその場にいる幸福と感謝がこもっているようで、いつもなんだかじんやりする。
歌もいつも全力で、一生懸命、あのロックな見た目で腰が低く、本当に素敵だ。いやー、もうベタ惚れです。
もっと知りたくなってしまった。こういう記事もっと出してくれないかなあ。


7月21日(金)

アニメ鬼滅の刃、気づけば終わっていた。いつの間に終わったんだ…。早く見なくてはなあ。


「幽霊探しのそのさきは」を書き終わった。
書いてみて、改めてnoteで小説を書いている他の方の凄さが分かった。
そして自分にはむいていないことを思い知らされた。
この日記さえも文章が下手なのだから、当たり前なんだけど…。
森見登美彦さんのような文章を目指したのだが、書いているうちに小川洋子さんのようなしっとりもいいなと思い始め、結局中途半端でどっちつかずなものになってしまった。

書いているうちに自分でも何を書いているのかよく分からなくなって、進むにつれて矛盾が生まれて、これどうやって終わりに向かえばいいのかと苦悩した。そしてこれ面白いのだろうかという葛藤。
そもそも何故一番苦手分野である恋愛系にしたのだろう…。そもそもが間違いだった。
でも、書くのは結構楽しかった。おそらくもう創ることはないだろうけれど、いい経験になった気がする。(そう思いたい)

そういえば作中に、ある小説を潜ませたのだが、分かった人はいるのだろうか。(いや、実際あまり潜ませられてはいなかったけど)
本当は、ヘンリー・ジェームズ『ねじの回転』とか、賽助『君と夏が、鉄塔の上』も絡ませたかったけれど、技術が足りなかった…。
でも頑張れば、鉄塔の方は出来たかもな…。けど今更なぁ。もう直す気力もないなあ。

そういえば、note創作大賞の応募が終わっているようで。
自分はどう考えても規定の文字数にはいかないので断念したが(そもそも応募できるレベルではなかったけど)、応募させた皆様お疲れ様でした。
どれも素晴らしいから、全員が賞をとれるといいのだけれど。どちらにせよ、自分がぽちっとした人は、もれなく檸檬賞を押付け…差し上げます。(また言ってる。だから誰も欲しがらない)

後、応募は終わったけれど、また書いてくないかなあと密かに期待していたり。そわそわ。



7月22日(土)

本屋に行ったら渋谷龍太『吹けば飛ぶよな男だが』が売っていて、違う本を買いに行ったのに思わず買ってしまった。小さい本屋だから、まさか売ってるとは思わなかった。
表紙だけでは分からなかったが、周りがどピンクでびっくり。春千夜三途みが強いな。


『MONKEY』vol.9を読む。

温めたからって自分のものにはならない。猫への教訓。
(略)
猫曰く:爪をかけても所有していることにならないの?
一つの答え:完全に所有できるものなどないのです。よって、完全にあなたのものになるなど一つもありません。

アメリア・グレイ「AM/PMより」

頭の弱い自分には、全体的な内容は理解出来なかったけど、この部分は好き。
「一つの答え」というのがまた良い。


陰謀だ、陰謀論だと言う人がたまにいるけれど、そういう人が一番陰謀に踊らされている気がするなあ。
なんて、思ったり。



7月23日(日)


今年は人参が結構上手くいった。
今回初めてカラフル人参を作ったのだが、これが結構面白かった。
カラフルだけど、抜かないと何色が出てくるか分からないから、ゲームのようでわくわくした。
特に間引きの時、余分なものを抜くのだが、あまり黄色や紫は抜けて欲しくないから、出るな出るなというドキドキ感。

それにしても、採っても採っても、紫人参だけが未だに出ない。何故だろう。
結構採っているのだけれど…。1本もないということがあるのだろうか。不思議だ。いや、反対に凄い奇跡かもしれぬ。


嵐山光三郎『追悼の達人』を読む。
「岩野泡鳴」編を読み終わる。

んー、知らない。
相当な難者だった模様。そのためか、ざまあみろと思われていたらしく、追悼文もどうしようか迷う人が多かったのだとか。
ただ一定の読者はいたようで、故に48歳という歳での死はちょうどよい死に頃だと思われていたらしい。
嫌われ者で自分が蒔いた種なんだろうけど、少し切ないな。



んー、今週はあまり本を読めなかったなあ。
でも長くなってしまうのは何故だろう…不思議だ。

駄文ではあるけれど、結構頑張って書いたので、一応宣伝↓

気が向いたら読んで見て下さい。
けれど、これよりもっと素晴らしい作品はこちらになります↓

これぞ本を上手く絡ませた大人小説と、これぞしっとり大人恋愛小説です。
自分も本当はこんな風に書きたかった。
どちらも自分とは比べ物にならないほど、素晴らしい作品です。是非是非。


ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
まだまだ暑い日々が続きますが、皆様お体を大事になさってください。陰ながら健康を祈っております。
ではでは。

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