湯川真一

湯川真一

最近の記事

ある雑貨屋にて9

「うーん」 理趣経の店主は、唸りながら少し頭を抱える。すると常連客が来店した。 「あれ阿部さんどうしたの?」 常連客はそう店主に挨拶すると 「あっいらしゃいませ。いや最近来店するようになった新規のお客さんが、胡蝶門から出てこなくなっちゃったんだよ。」 と店主は返した。すると常連客は 「また中途半端にしか説明しなかったんでしょ。いい加減治しなよ。」 と答えた。 「それがなかなか治らないんですよね。それよりお代どうしましょう?まだもらってません。」 と店主が言うと常連客は 「薬の

    • ある雑貨屋にて8

      サラさんは差し出された指輪を見て 「うそ!指輪買ってきたの?何考えてんのいくらしたのよ。」 と言った。私は 「給料3ヶ月分?」 と答えるとサラさんは 「馬鹿真面目に本当にそんな金額の指輪買ってる人初めて会ったよ。でこれ私にくれるの。本当に?」 と言った。そして私は続けて自分の正体を告白した 「実は私、20年後からあなたに会いに来ました。今は信じてもらえないと思います。でもそれでいいとも思ってます。その指輪は20年後にある企業から発売される新作の指輪です。今は世界でこれ一つしか

      • ある雑貨屋にて7

        「☆♪○*×€÷〒-」 携帯のアラームが鳴り、私は目を覚ます。 (私への気持ちを証明して) 起きてすぐ20年前のサラさんからの言葉を思い出す。 「よし買いに行こう。」 今日は仕事が休みだから午前中に買い物をし、午後に20年前のサラさんに会いに行こうと決めていた。証明の仕方は決まっていた。まるで夢の中でも考え続けていたかのように、朝起きたらその答えが思いついた。私はすぐにシャワーを浴び、コーヒーだけ飲んで家を出た。最寄りの駅で電車に乗り、近くにデパートのある駅に降りる。駅構内に

        • ある雑貨屋にて6

          サラさんとはその後解散することになった。自宅の電話番号だけ教えてくれた。 「証明できたら電話して」 という言葉を残して、サラさんはその公園を後にした。 サラさんへの好意を証明する。そう言われて (わかった) と返事をしたけど、特に何か案があるわけでは無かった。ただそれよりも先に考えなくてはいけないことがあった。夜をどう過ごそう。この時代に使えるお金は貰っているけど、そこまで多くのお金をもらっているわけではない。だけど野宿をして風呂も入らず着替えもしないでサラさんに会うのは嫌だ

        ある雑貨屋にて9

          ある雑貨屋にて5

          サラさんは立ち去り、私はその場で立ちすくむ。少し落ち着くと周りからの視線に気がついた。こんな駅前であれだけ大声で叫んだんだから当然だと思った。だが流石に恥ずかしくなりその場を後にした。駅から10分ほど歩くと仙台の牛タンを専門に取り扱っている飲食店があったのでそこに入った。どこかに入って状況を整理したいと思っていたし、知り合いから仙台牛タンは一度食べたほうがいいと言われてたので入ってみた。店内は白い壁に木目調の床というシンプルな作りだった。私は店員に誘導されるまま席につき、メニ

          ある雑貨屋にて5

          ある雑貨屋にて4

          目が覚めると、とある駅の前にいた。知っている名前の駅だが、その周囲の様子は私が知っている風景とは違うものだった。 ポケットを探ると二つ折りの携帯電話と古いデザインの紙幣、それと手紙が入っていた。手紙はあの店主からのものだった。 (戻るときはこちらの手紙を破いて捨ててください。それまではこちらの手紙は大切に取っておいてください。あまり長いこといないようにしてください。その他の私への質問はカバンの中に入れてある携帯電話でお願いします。) 手紙にはそれだけが書かれていた。 「ここは

          ある雑貨屋にて4

          ある雑貨屋にて3

           その店は雑貨屋のようだった。自分の作品を販売しているのか、どの商品も個性的で歪な見た目のものが多かった。 「誰もいないのかな」 私はそう呟くと、奥から店員が出て来た。身長は私と同じくらいの30代くらいの男性の店員さんだ。 「いらっしゃいませ。こちらを利用されるのは初めてですか?」 とその店員さんは私に問いかけると私は静かに頷いた。そしてその店員さんはこの店の説明を始めた。 「この店は人の思いを肯定してくれる品物を販売しています。例えば、醜い見た目を変えれるドレッサーや、承認

          ある雑貨屋にて3

          ある雑貨屋にて2

          初めてサラさんにスーパーで会ってから、しばらく時は流れたそんなある日、私は初めてサラさんの旦那さんに会うことができた。いつものスーパーでサラさんの隣に立ち、カートを押すその人は背も高く、割と恰幅の良い人だった。私はサラさんにまず挨拶をすると、その次に旦那さんに挨拶をした。 「お疲れ様です。いつもサラさんにはお世話になってます。」 と私は言うと、旦那さんは 「いえいえこちらこそいつもありがとうございます。というか大丈夫ですか?うちの奥さんに虐められてませんか笑?」 と初対面の私

          ある雑貨屋にて2

          ある雑貨屋にて1

          25歳のある日、私は職場の女性に恋をした。仕事終わりに行った、地元のスーパーでのことだった。私はその人に挨拶をすると、その人は笑顔で 「湯川くんお疲れ様。マスクしてたのに、よく私だってわかったね。」 と私の顔を下から覗き込むようにして挨拶を返してくれた。目を合わせるのが苦手な私は、少し俯きながらその人の前に立っていた。だからこそ私の顔を下から覗き込んだのだろう。そしてその人が、なんの計算もなしにしたその仕草とその時の表情で、私は恋に落ちた。いやその女性の情報を整理すると、(落

          ある雑貨屋にて1

          わがまま(硬貨の使い道追加エピソード)

          「面会が認められている時間は原則として30分です。それでは開始してください。」 刑務官の指示とともにある殺人者との面会はスタートした。その殺人者の名前はZ。彼は宮部さんの恋人だったはずの人だ。僕はインドに旅行に行っていた宮部さんと合流し数日共に過ごした。そして帰り際の空港で僕は宮部さんとある約束をしたのだった。 「僕も一緒に行くので、事件を起こしたあの男の人に会いに行きませんか?もちろん日本に戻って来てからの話です。」 僕はそういうと宮部さんは首を縦に振ってくれた。僕は宮部さ

          わがまま(硬貨の使い道追加エピソード)

          硬貨の使い道18 完

          旅行の準備を終え、予定を調整した僕は、再びあの教授の元を訪ねていた。 「お久しぶりです教授。出発の予定日が決まりましたので報告に参りました。」 僕はそう話した。すると教授は 「分かった。チケットを手配しておくよ。それと宮部くんに連絡はしたかい?してないならしてあげなさい。」 と答えてくれた。僕は 「お願いします。それと宮部さんには連絡しました。(預かった硬貨を使いに行きます。待っててください。)と。」 と答えると教授は嬉しそうに笑っていた。 「そうかじゃあ気をつけてね。空港で

          硬貨の使い道18 完

          硬貨の使い道17

          「1ルピー硬貨が伝言なんですか?」 僕は教授にそう尋ねると、教授は首を縦に振った。そしてあまりにも煮詰まっている僕をみて、教授はヒントをくれた。 「夏目くん、硬貨はどう使うものかな?そしてそれはどこで使うものかな。」 教授のこの言葉を受けて、僕は一から考えてみた。 「硬貨何かを買ったりする時に使うよな。でもどこでってさっき教授が言ってたインドだよな。それが伝言?」 僕は一通り考えると一つの可能性が見えてきた。そしてその可能性を信じるためには教授に聞かなくてはいけないことがあっ

          硬貨の使い道17

          硬貨の使い道 16

          手紙をくれた人は僕と宮部さんが在籍している大学の教授だった。宮部さんとは違う学部だったそうだが、大学1年生の頃からよく相談にのっていたそうだ。僕はその教授の研究室へと呼ばれることになった。大きな棚に丁寧に収納された本や新聞たちに囲まれた部屋は、なんとも言えない迫力に満ちた部屋だった。部屋は住人の心を表すというが、この部屋からは膨大な知識量と几帳面さが表されているようだった。 「よく来てくれたね。夏目くんだよね。座ってくれ、お茶でもだそう。」 僕は、その教授に言われるがまま近く

          硬貨の使い道 16

          硬貨の使い道 15

          宮部さんはすでに僕から少し離れた場所にいた。 「私のことが大切?そんなわけないでしょ。幼なじみで恋人の私を愛人にしたのに?首を絞めた行為なんて一度もされなかったのに?ふざけないでよ。」 と宮部さんは泣きながら僕にそう訴えた。ただそう反応するのは当然のことだと思った。普通に考えたらそうだ、でもあの人は、宮部さんに恋をして、愛情と狂気に苦しんでいるただの人だ。僕と同じように自分で自分を抑えられなかったんだ。 「あの人は宮部さんには一度も危ない行為はしなかったじゃない。人殺しの彼女

          硬貨の使い道 15

          硬貨の使い道 14

          (あの人は宮部さんに幸せになって欲しかったんだと思う。) そう思ったのは、宮部さんに飲みに誘われるより前のことだった。 (宮部さんは、僕を捕まったあの人への当てつけに選んだんだ。) その考えが浮かんでからは、僕は冷静に自分のことを見つめ直していた。オープンキャンパスで宮部さんに一目惚れして以来、僕は無我夢中で宮部さんだけを追い続けた。今考えるとかなり狂った行為だ。一目惚れした相手に会うために大学を受け、食堂で初対面なのに告白したのだから。ただ言い訳させてもらうなら、あの時は自

          硬貨の使い道 14

          硬貨の使い道 13

          「ごめんね。気を悪くしたでしょ。夏目くんの前ではカッコつけてたつもりだけど、多分バレちゃってたよね。」夏目さんはそういうとテーブルの上にあるタッチパネルからお会計という文字を触った。話し続けてお酒がまわったのか、宮部さんの足取りは少し拙くなっていた。 「タクシーで帰りましょう。家まで送りますよ」 僕はそういうと宮部さんは 「ちょっと待って最後にあそこだけ寄らせて」 と言って、前方にあったラブホテルを指差した。 「宮部さんいくらなんでも」 と僕はいうと宮部さんは無言で僕の手を引

          硬貨の使い道 13