湯川真一

湯川真一

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わがまま(硬貨の使い道追加エピソード)

「面会が認められている時間は原則として30分です。それでは開始してください。」 刑務官の指示とともにある殺人者との面会はスタートした。その殺人者の名前はZ。彼は宮部さんの恋人だったはずの人だ。僕はインドに旅行に行っていた宮部さんと合流し数日共に過ごした。そして帰り際の空港で僕は宮部さんとある約束をしたのだった。 「僕も一緒に行くので、事件を起こしたあの男の人に会いに行きませんか?もちろん日本に戻って来てからの話です。」 僕はそういうと宮部さんは首を縦に振ってくれた。僕は宮部さ

    • 硬貨の使い道18 完

      旅行の準備を終え、予定を調整した僕は、再びあの教授の元を訪ねていた。 「お久しぶりです教授。出発の予定日が決まりましたので報告に参りました。」 僕はそう話した。すると教授は 「分かった。チケットを手配しておくよ。それと宮部くんに連絡はしたかい?してないならしてあげなさい。」 と答えてくれた。僕は 「お願いします。それと宮部さんには連絡しました。(預かった硬貨を使いに行きます。待っててください。)と。」 と答えると教授は嬉しそうに笑っていた。 「そうかじゃあ気をつけてね。空港で

      • 硬貨の使い道17

        「1ルピー硬貨が伝言なんですか?」 僕は教授にそう尋ねると、教授は首を縦に振った。そしてあまりにも煮詰まっている僕をみて、教授はヒントをくれた。 「夏目くん、硬貨はどう使うものかな?そしてそれはどこで使うものかな。」 教授のこの言葉を受けて、僕は一から考えてみた。 「硬貨何かを買ったりする時に使うよな。でもどこでってさっき教授が言ってたインドだよな。それが伝言?」 僕は一通り考えると一つの可能性が見えてきた。そしてその可能性を信じるためには教授に聞かなくてはいけないことがあっ

        • 硬貨の使い道 16

          手紙をくれた人は僕と宮部さんが在籍している大学の教授だった。宮部さんとは違う学部だったそうだが、大学1年生の頃からよく相談にのっていたそうだ。僕はその教授の研究室へと呼ばれることになった。大きな棚に丁寧に収納された本や新聞たちに囲まれた部屋は、なんとも言えない迫力に満ちた部屋だった。部屋は住人の心を表すというが、この部屋からは膨大な知識量と几帳面さが表されているようだった。 「よく来てくれたね。夏目くんだよね。座ってくれ、お茶でもだそう。」 僕は、その教授に言われるがまま近く

        わがまま(硬貨の使い道追加エピソード)

          硬貨の使い道 15

          宮部さんはすでに僕から少し離れた場所にいた。 「私のことが大切?そんなわけないでしょ。幼なじみで恋人の私を愛人にしたのに?首を絞めた行為なんて一度もされなかったのに?ふざけないでよ。」 と宮部さんは泣きながら僕にそう訴えた。ただそう反応するのは当然のことだと思った。普通に考えたらそうだ、でもあの人は、宮部さんに恋をして、愛情と狂気に苦しんでいるただの人だ。僕と同じように自分で自分を抑えられなかったんだ。 「あの人は宮部さんには一度も危ない行為はしなかったじゃない。人殺しの彼女

          硬貨の使い道 15

          硬貨の使い道 14

          (あの人は宮部さんに幸せになって欲しかったんだと思う。) そう思ったのは、宮部さんに飲みに誘われるより前のことだった。 (宮部さんは、僕を捕まったあの人への当てつけに選んだんだ。) その考えが浮かんでからは、僕は冷静に自分のことを見つめ直していた。オープンキャンパスで宮部さんに一目惚れして以来、僕は無我夢中で宮部さんだけを追い続けた。今考えるとかなり狂った行為だ。一目惚れした相手に会うために大学を受け、食堂で初対面なのに告白したのだから。ただ言い訳させてもらうなら、あの時は自

          硬貨の使い道 14

          硬貨の使い道 13

          「ごめんね。気を悪くしたでしょ。夏目くんの前ではカッコつけてたつもりだけど、多分バレちゃってたよね。」夏目さんはそういうとテーブルの上にあるタッチパネルからお会計という文字を触った。話し続けてお酒がまわったのか、宮部さんの足取りは少し拙くなっていた。 「タクシーで帰りましょう。家まで送りますよ」 僕はそういうと宮部さんは 「ちょっと待って最後にあそこだけ寄らせて」 と言って、前方にあったラブホテルを指差した。 「宮部さんいくらなんでも」 と僕はいうと宮部さんは無言で僕の手を引

          硬貨の使い道 13

          硬貨の使い道 12

          宮部さんは1杯目のレモンサワーに始まり色々な種類のお酒を飲んでいた。所謂ちゃんぽんという飲み方だと思う。しかもかなり強い様で全然様子が変わらなかった。 「私酔うまでの容量は大きいんだよね」 と宮部さんは言っていたが、大きすぎるだろというのが僕の素直な感想だった。何杯目かは分からないが、日本酒を飲み始めたあたりで宮部さんは話し始めた。 「あの人はさ小学校の頃からの幼なじみでね。家も近所で家族ぐるみの付き合いもあったんだ。あの人は特別カッコ良かったわけではないんだけど、一緒にいて

          硬貨の使い道 12

          硬貨の使い道 11

          僕は年齢的には20歳を超えてはいなかった。でも宮部さんの飲みの誘いを断るわけにはいかなかった。その理由は、好きな人からの誘いだからというのが一つ。それとは別の理由がもう一つ、宮部さんのことだから何か目的があっての誘いだと思ったからだ。宮部さんと僕との関係が、逮捕されたあの男への当てつけという予想を立てている以上、その予想は当然の様に僕の頭を支配した。 (考えすぎかな、それとも見当違いかな) たまにそう思うこともあった。だからこそ今回の飲みの誘いでそれをはっきりさせようとも思っ

          硬貨の使い道 11

          硬貨の使い道⑩

          そのニュースを聞いたのは、夏休み中に実家に帰っている日だった。家族揃って夕食を食べている時に見ていたニュース番組で流れていた。ニュースによると20代の男性が恋人を絞殺したというものだった。殺されたのは僕の通っている大学の隣町にあるラブホテルの一室だったそうだ。その時は何も思わなかったが、宮部さんからこの話を聞いた時はある疑問を抱いた。 (恋人?宮部さん生きてるのに。) 宮部さんからは彼氏が人を殺したと聞いていた。TVのニュース番組でも、宮部さんが見せてくれたニュース記事にも、

          硬貨の使い道⑩

          硬貨の使い道⑨

          「冷たい飲み物が飲みたいです」 僕はそう答えると宮部さんは 「あぁそれはそうね。それも大切だけどね。ちょっと分かりにくい質問だったかな。それなら何か聞きたいことある?それとも何か話したいことある?」 と言った。ちょうど店員さんが注文を聞きにきたので僕はアイスコーヒーとスパゲッティを、宮部さんはオレンヂジュースとサンドイッチを注文した。その後僕は宮部さんの方を見ると、宮部さんも僕の方を見ていたことに気がついた。 (質問の答えを待っている) すぐにそう思った。僕は何を聞いて良いの

          硬貨の使い道⑨

          硬貨の使い道⑧

          夏休み後半のある日、僕は宮部さんと、大学から少し歩いたとこにあるカフェで会うことになっていた。天気予報では今日と明日は猛暑日となるようだ。今日の予定は大学の正門前で待ち合わせ歩いて目的のカフェに行くというものになった。扇子で仰ぎながら大学の正門で待っていると、近くのバス停にバスが停まった。そして麦わら帽子を被った宮部さんが、バスから降りてきた。 「おまたせ。暑いね今日は。にしても夏目くん扇子持つと貫禄出てくるね。」 宮部さんはバスを降りてすぐ僕にそう言った。 「ありがとうござ

          硬貨の使い道⑧

          硬貨の使い道⑦

           宮部さんからの返信は次の日の夕方実家で夕食を食べている時に返ってきた。 (ごめんね。彼氏が捕まったから、警察から事情を聞かれたりして返信遅くなっちゃった。食事の件だけど良いよ。ただし少し落ち着いたらで良いかな?) 僕はロック画面越しにその文字を見て、食器を片付けた。返事はその日の深夜に送った。 (分かりました。宮部さんがよろしければお願いします。) その一言だけ送った。それしか送れなかった。僕は宮部さんを食事に誘ったことを後悔した。謝罪をして別の日にするべきだと思った。あれ

          硬貨の使い道⑦

          硬貨の使い道⑥

          友人たちとの食事会は実家に帰省して3日後のことだった。たくさん話したいことがあるからと、混雑するであろうお昼時を避けて集まることになった。話し合った結果14時に指定のファミレスの駐車場で集合することになった。僕はそこまで自転車で向かい集合時間の15分前に着いた。すると3人はすでに集まっていた。 「遅いよ夏目」 そう3人が声を揃えて言った。だから僕は 「いやいや3人がいつも早すぎるんだって」 と返した。4人で笑い合い、互いに友情は変わってないことを確認して店内に入った。ファミレ

          硬貨の使い道⑥

          硬貨の使い道⑤

          入学して3ヶ月が経ち、大学生活も慣れてきた。そんな夏の日、高校の時の友人達とご飯に行く時間を作れた。メンバーは、オープンキャンパスに一緒に行ったあの3人だ。それぞれ大学内でも友人を作ったり、サークルに入ったりと忙しく、すぐ集まる予定だったがここまで予定が合わなかった。友人Aが幹事を務め、地元のファミレスで集まることになった。大学も長めの休みだった為、その食事会に合わせて実家に帰った。大学の寮を出たのが午前10時だった。実家には電車を使って3時間くらいで着いた。最寄り駅に降り、

          硬貨の使い道⑤

          硬貨の使い道④

          大学に入学してからしばらくは日々の予定をこなすので精一杯だった。クラス制度のない授業、怒涛のサークルの勧誘、広すぎる大学の敷地など地方の高校に通ってた身としては信じられない生活だった。だからこそあの大学生宮部さんを見つけたのは奇跡としか言いようがない。大学の学食で1人でオムライスを食べていた宮部さんを見つけて、僕は嬉しさのあまり思わず声をかけた 「あっあのはじめまして。今年この大学に入学した夏目と言います。あの僕オープンキャンパスの時見かけたあなたに一目惚れしてしまいました。

          硬貨の使い道④