ある雑貨屋にて4

目が覚めると、とある駅の前にいた。知っている名前の駅だが、その周囲の様子は私が知っている風景とは違うものだった。
ポケットを探ると二つ折りの携帯電話と古いデザインの紙幣、それと手紙が入っていた。手紙はあの店主からのものだった。
(戻るときはこちらの手紙を破いて捨ててください。それまではこちらの手紙は大切に取っておいてください。あまり長いこといないようにしてください。その他の私への質問はカバンの中に入れてある携帯電話でお願いします。)
手紙にはそれだけが書かれていた。
「ここはどこだろう。駅の名前は知っているけど、私が知っているのとは別の街みたいだ。全く風景がちがう。」
それが最初の一言だった。どうも私はあの店主に、どこかに連れてかれたみたいだ。サラさんへの思いを叶えるために、私はあの店主の問いかけに答えた。だがそれと今自分が置かれている状況の説明がつかない。
「何をするにも、まずは現在地を知らないと」
私はそう呟き、駅の周辺を見渡した。田舎にしては少し大きめの駅だったから、
 (駅周辺の地図がどこかにあるのでは?)
と思ったからだ。
「あった!」
地図はすぐ近くにあった。その地図には駅周辺の情報が大まかに記載されていた。
(うん。私が知ってる場所とそっくりだ)
私はそう思った。そしてその地図の上部には今日の年月日が記されていた。その年月日の月と日にちはおかしくなかった。ただし年がおかしかった。なぜなら年だけおよそ20年前の表記なっていたからだった。
子供の頃からSF作品は好きだった。その作品に触れながら、もしかしたらあるかもしれない過去や未来に胸を膨らませる。私に取ってはその時間が何よりも幸福なものだった。
 (この作品の中に登場人物として入れたらな)
と空想したことなんて数えきれなかった。だけど実際にそんな目に会ってみると、込み上げてくる感情は歓喜よりも不安だった。
(何が起こってるの?20年前?タイムスリップ?)
頭の中はそれらいくつかの単語が何度も駆け回り、理解する前にどこかへ行ってしまう。私は思わず座り込みその場でじっと固まってしまった。すると声をかけてくれた人がいた。とても聞き覚えのある声だった。
「ちょっとあなた大丈夫?」
その人はそう言うと私の顔を覗き込んだ。サラさんだった。服装も化粧も今とは少し雰囲気が違うが、その面影は十分にあった。
「大丈夫です。少し目眩がしただけです。」
そう言うと私はゆっくりと立ち上がった。
「目眩って感じには見えなかったけど、大丈夫そうだね。」
サラさんはそう言うとその場を立ち去ろうとした。
「ちょっと待って」
私は大声で叫んだ。なぜそんなことを言ったのかは、自分でもわからない。座り込んだ私に声をかけてくれただけの女性を呼び止める理由なんて思いつかない。ただ気がついたら叫んでいた。
「はい?」
とサラさんは振り向いた。私は何か言わなくてはと思った。そしてやっと一言絞り出した。
「ご飯行きませんか?」
「え。まさかナンパ。んー、今から友達とご飯に行くんだよね。だからまた会えたらね。」
サラさんはそう言って足早に立ち去っていった。突然のナンパに恥ずかしさを覚えつつ、私は少し安堵した。なぜなら
(サラさんを自分のものにしたい)
そういう自分の思いをまだ受け止めきれてはいなかったからだ。