モキュメンタリー 2

 娘は私にこう伝えた。母は去年あたりから物忘れが増えてきた。最初は弁当の箸がないとかだったから気にならなかったけど、弁当の中身が無かったり、弁当箱の代わりに小さな裁縫セットが入れてある時があったと言う。ただ毎日では無いそうだ、たまにそうなる。と娘は言っていた。
「分からないこともあるけど、とりあえずありがとう。助かったよ。明日仕事を休んでお母さんを病院に連れて行くよ。」
と私は言った。娘も(あたしも休む)と言ったけど、それは断った。私だって本音を言えば来て欲しい。一番さおりを見ていただろうし、俺よりしっかりしてる。ただそろそろ進路について考えなくてはいけない時期のこの子にはできる限り休んでほしく無かった。
「きっと1回の通院では終わらないと思う。だから次の通院では頼む。学校が休みの日に予約を入れるから。」
娘にはこれで納得してもらった。だが大変なのはこここらだ、さおりになんて伝えよう。(君の頭がおかしくなったから見てもらおう)なんてとてもじゃないが言えないし、騙して連れて行くのも気が引ける。そもそも何科に行けばいいかなんて私も娘もわからない。
「物忘れってことは記憶力の問題だから脳か?」
と私は言うと娘は
「今(物忘れ 病院)って調べたら、精神科の病院が出たよ。なんで読むんだろ、認めるに知るに症状の症って書く病気かも?って文章も出てるよ。」
と返した。娘が私に伝えたい病気はすぐに分かった。
「認知症か。でもそれは年寄りの病気だからな。とりあえず近くの精神科のある病院に電話してみよう。」
と私は娘に伝えた。娘はそれを聞くと黙って自室に向かった。私はそんな娘の背中を見て、申し訳なくなった。明らかに肩を落として歩くその背中は、まだ10代の子供がするには早すぎると思った。
「あっ急いで夕食作らなきゃ。」
とさおりは言った。
「私も手伝っていいかな?」
と私は言った。
その日娘は結局部屋から出てくることはなかった。