ある雑貨屋にて5


サラさんは立ち去り、私はその場で立ちすくむ。少し落ち着くと周りからの視線に気がついた。こんな駅前であれだけ大声で叫んだんだから当然だと思った。だが流石に恥ずかしくなりその場を後にした。駅から10分ほど歩くと仙台の牛タンを専門に取り扱っている飲食店があったのでそこに入った。どこかに入って状況を整理したいと思っていたし、知り合いから仙台牛タンは一度食べたほうがいいと言われてたので入ってみた。店内は白い壁に木目調の床というシンプルな作りだった。私は店員に誘導されるまま席につき、メニューを見て牛タンの定食を注文した。そして私は今までのことを振り返った。今が20年前であること。カバンに入っていた手紙を破れば元の時代に戻れること。そして気が済んだら戻らなくてはいけないことなどを思い返した。そうしてるうちに食事が配膳されてきた。分厚く切られた牛タンがとても美味しそうだった。
「いただきます。」
私は小声でそう言った。食事は30分くらいかけて食べ終わった。サラさんを探しに行きたかったので、すぐに会計をして店を出た。友達とご飯と言っていたから近くの店にいるのでは無いかと思ったからだ。ただその心配はいらなかった。店の扉を開けて外に出るとサラさんがいた。運命を感じた。出来すぎていると思った。まるで仕組まれてるみたいに感じた。それくらい奇跡的な事だった。私は思わず
「あっ!」
と言った。そうするとサラさんはこっちを向いて
「また会えたね。」と言った。私はこのチャンスを逃したくなかったのでサラさんに精一杯お願いした。プライドなんて投げ捨てて、お願いした。
サラさんはそれに負けたのか
「1度だけね。」
と言ってくれた。
「でも牛タン屋から出てきたけど、食べれるの?ちなみに私は食べれないよ。」
とサラさんは苦笑いしながら言ったが、私はすぐに
「なんとかします。」
と言った。
「なんとかって何?」
サラさんはそこで初めてクスッと笑った。
私たちはそこから少し歩き、とある梅園に着いた。時期になると、このあたり一面が梅の花で覆い尽くされるのだそうだ。その時の様子をサラさんは
(この辺りの空を、梅の花で飾っていくみたいに咲くのよ)
と楽しそうに話してくれた。その時の様子はなんとも非常に幼い表現というか、子供みたいな発想だなと思った。普段年上ということもあり、大人の女性という印象が強かったこともあり、サラさんの持っている子供のような側面には驚きを隠せなかった。だが
「すごく綺麗だ」
と思った。というか口に出てしまった。もちろん梅園に来て、楽しそうにしてるりささんを見て、綺麗だと思った。しかしサラさんはそうは捉えらなかったようだ。
「そうだよね。想像するだけで綺麗でしょ。でも実物は想像以上だよ。」
とサラさんは言った。
「その時期が来るのが楽しみです。」
と私はすぐに返した。梅が咲く季節まで私はここにいられるかはわからなかったが、とりあえずそう返しておいた。そして続けて
「このあとどうしましょう?よければ行ってみたいところがあるのですが一緒に・・・」
と私が言うとサラさんは
「その前に聞いていい?どこまで行くつもりで声かけてきたの?」
と私に問いを投げかけてきた。どこまで答えていいか分からず少し考えて
「分かりません。ただずっとあなたが好きでした。今のあなたに会うのは初めてですけど。あっ・・・いやあの」
と慌てて答えた。そのせいか言わなくても良いことまで言ってしまったみたいだ。ずっと好きと言っているのに、会うのは初めてなんて何を言ってるのか自分でもよく分からない。ただ事情を知らないサラさんの方はもっと分からないはずだ、だからなんとか説明しなくてはと思った。だがその説明が上手くまとまらなかった。その為しばらく両者の間に沈黙が流れた。その沈黙を破ったのはサラさんだった。
「よく分からないけど、あなた私のことが好きなんだよね。証明して。それならあなたとお友達になってもいいよ」