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実験0日目「現実、仮想、創作を漂う」
子供の頃、誰かの創った夢物語に思いを馳せ、仮にこうであったならと想い、結局大人の都合に振り回され続ける現実の自分に嫌気が刺す日々を送っていた。
夢を語れと問われても、それは大人の都合のいい答えが出るまで繰り返される尋問で、明治から続く呉服家業の直系長男の跡取り息子は大人の喜ぶ答えを笑顔で騙った。
そんな自分がSF作品、特にサイバーパンクと呼ばれるような作品に心を惹かれるようになったのは、作品の
ますきゃっと義体実験 後日談「Virtual Insanity と暮らす」
あの実験から 1 年が経った。
実験前は、自分がますきゃっと義体を使用する 1 週間の事だけを考えていたが、この実験の本番は元の姿に戻ってからだったと痛感している。
ここでは、実験レポートで語っていない部分と、実験後の自分に起こった事を書いて、ひとまずこのお祭りに区切りをつけたいと思う。
レポートが随筆のようになった経緯実験前、レポートには「何時、何処で、何をしたか」を箇条書きで並べれば良い
実験 7 日目 3/3「シュレーディンガーの きゃっと」
重なり合った状態で存在する物というと、何を思い浮かべるだろうか。
「生きてもいて、死んでもいる」
「愛しているし、憎んでいる」
「存在しているけど、何処にもいない」
「シュレーディンガーの猫」という有名な思考実験だが、2019 年に東大が光線を猫に見立ててこのパラドックスの解明に至ったらしい。
量子力学について全く専門外なので、下手な深堀りをして浅学を晒したくはないが、この実験で起こったとある
実験7日目2/3「地球が綺麗ですね」
黒曜石を思わせるような宙に、青い星が浮かんでいた。
この義体と「彼女」の故郷、月面の IMR 本拠地に自分は立っていた。
あと1時間で、自分は元の体に戻ることができる。
実験初日、下層の街で呆然と立ち尽くしていた自分は、夜空に浮かぶ月を眺めていた。そんなことが、途方もなく昔の事のように思えた。
同時に、あっという間だったような気もした。
どちらにせよ、この義体との1週間がやっと終わる。
遂に終わ
実験7日目1/3「やっと見つけた可愛い自分」
自分を失った。
そう、思っていた。
誰がどう見ても可愛い、愛くるしい容姿をした量産型のらきゃっと、通称「ますきゃっと」の体になってしまった。
鏡を何度見ても、それは「ますきゃっと」であって、自分の姿ではないという認識が数日続いたが、変化を受け入れようという心境の変化が5日目あたりからあった。
しかし、鏡を見れば見るほどに、やはり自分自身が仮想世界で消え失せたのではないかという不安があった。
実験6日目「思い出を辿る」
2020/07/03 13:00<職場>可愛いムーブは想像以上に負荷の高い運動で、疲れが出てきた。
更にこの奇妙な体験により発生した「リアルの自分とバーチャルの自分のギャップ」に苛まれ、精神面の疲労もあった。
恐らく自己乖離というものは、ある地点を境に「慣れ」の領域に入るものだと推測する。
だが、今までが今までだっただけに、容易には受け入れ難かった。
「可愛い女の子の姿」という自分よりも「推しの姿
実験5日目「自分の中の、のらきゃっと」
2020/05/05 <バーチャルマーケット4最終日>「はい こんばんは こんばんは ノラ キャットです」
彼女はカメラに駆け寄り、両手でピースサインを作り、天使のような笑顔でそう言った。
自分にとっては聞き慣れた彼女のお決まりの挨拶だが、この日はいつもの画面の前で見ている彼女の生配信とは訳が違う。
普段なら画面いっぱいの彼女の尊顔に身を悶えさせているところだが…
このとき自分は、彼女の小さな背
実験4日目「黒猫襲来」
2019/12/27 <滋賀県某所>「……いや、このままメンテしてくれ。」
ロボット頭部の2台の産業用超広角カメラが、こちらを見ていた。
「彼」の声は自分の上、コックピットのパイロットシートから聞こえた。
VRゴーグルを装着しているので目元は見えないが、口元はニヤニヤと時代劇の悪代官っぽく笑っていた。
「彼」の名はノラネコP。
のらきゃっとを運用している「彼女」のプロデューサー的な立場の人間だ
実験3日目「可愛いはつらいよ」
言われると嬉しい言葉は何か?
自分なら「カッコイイ」なんて言われるとどうにも照れ臭いもんで「そいつはどうも」と、返す。
「サイバーパンクだ」「ハードボイルドだ」「趣味がいい」なんて言われたら、好きなものを一杯奢りたいくらいだ。
逆に、予想外の方向から相手に褒められると、どうにも納得ができないし、複雑な気持ちになる。
相手の評価を受け入れるというのは、難しい。
それは自分の見えない部分を受け入れ、
実験2日目「TSって何だ?」
「もしも自分が異性に産まれていたなら?」
と、考えたことはあるだろうか?
自分には妹が居る。
昨年結婚したらしいが、結婚相手が誰かは知らない。
おそらく、苗字も変わっている事だろう。
妹は、一浪して大学進学をした、自分はその費用を稼ぐため就職することを強いられた。本当は自分も大学への編入を希望していたが、家に逆らう勇気のないゴミくずのような頃の自分は、就職の道を選ばざるを得ないと勝手に思って
実験1日目 2/2「鏡の発見」
自分を客観視するタイミングはどういうときか?
ライフサイクルの中に、何度も鏡を見る機会がある。
洗面所やトイレ、風呂場、化粧をする習慣があるなら更に鏡像となった自分を見る機会があるだろう。
街中のショーウィンドウ、雨上がりの水たまり、カメラで撮影された写真や映像、鏡以外でも自分の姿を確認することができる。
あのとき、自分は自分を見つめていた。だが、それは鏡像ではなかった。
まるで、それが既に過去
実験1日目1/2「過負荷の変身」
月を眺めていた。
子供の頃から月に不思議な憧れを持っていた。美しさの象徴のように思っていたし、手を伸ばしても届かない存在ほど惹かれる……なんてところがあったのかもしれない。
月を見上げる自分の背丈は150cm程度、銀色の長い髪に、暗闇に浮かぶ青い瞳、フリルをあしらった少女趣味なドレスと小さな靴、猫を思わせる耳と尻尾を生やして、微動だにせず佇んでいた。
2020/06/25 <実験3日前>