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実験0日目「現実、仮想、創作を漂う」

子供の頃、誰かの創った夢物語に思いを馳せ、仮にこうであったならと想い、結局大人の都合に振り回され続ける現実の自分に嫌気が刺す日々を送っていた。

夢を語れと問われても、それは大人の都合のいい答えが出るまで繰り返される尋問で、明治から続く呉服家業の直系長男の跡取り息子は大人の喜ぶ答えを笑顔で騙った。

そんな自分がSF作品、特にサイバーパンクと呼ばれるような作品に心を惹かれるようになったのは、作品の世界観やテーマが、大嫌いな自分と真逆で、自分の在りたい姿だったからだ。

ハイテク技術で作られたガジェットやサイバーな衣服に身を包む人々の姿が、体制側の力に抗う心が、少年の自分に勇気を与えてくれた。

DJ⑨として生きていく決意に満ちた自分は、実家に中指を立てて、自分の人生を改めて生きることにした。

さて、元・呉服店おぼっちゃまが、一匹狼気取りなサイバーパンク野郎となってから、自由を手にしてまずやったことといえば現実でサイバーパンクな服装を進んでやるようになったことだ。

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池内啓人氏のガジェット作品を装備するようになった自分は、サイバーパンクなファッションをますます好むようになった。

今度はサイバーパンクなファッションをフルでコーディネートしたいと思い、のむら氏の手掛けるTrial-Platform Maskをセミオーダーで購入した。ジャケットはヘリーハンセン、ナックル付きのグローブ、下半身はシンプルにした。白と黒と挿し色の赤、広がった襟、ベルト類が外にない引っかかりの少ない実用性を重視したスタイルは、正直気に入っている。

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現実の自分を少しづつ、在りたい形に変えていくことができた。

これが自分だと、やっと思えるようになった。

さて、サイバーパンクといえばネット空間へのダイブが定番である。現代においてはソーシャル系VRゲームがそれに限りなく近いものだと思っていて、サイバーパンク好きの自分は例外なく惹かれた。

このVR世界における肉体「アバター」を自分の在りたい姿で表現したいと考えたとき、美少女になるおじさんや、イケメンになるお姉さん、獣やロボ…何にでもなれるという例を山ほど見た。では、自分はどうか?

サイバーパンク作品では、幽体離脱のように現実の姿に近いまま、場合によってはそのままの姿でダイブしている描写が多い。実際に自分もそれに強く憧れていた。故に、答えは1つだった。

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浅草のリアルアバター制作にて、全身を撮影した。

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こうして2019年の12月からVRChatというVRソーシャルゲームの世界で、DJ-09として、この姿で暮らすようになった。

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仮想と現実をシームレスに行き来するようになった自分は、どんどん曖昧になっていくその境界にエモさを感じ、とても満足していた。

自分が好きなのか?と、疑問に思われるかもしれないが、そうではない。断じて。

「どうしようもないクソッタレな野郎だと誰よりも理解しているし、その上でどうにかして生きていくしかない。これが俺だ。」

と、面倒なものは仮面の内側に仕舞って生きている。若しくは、割と不器用な人間なので、自分というものを極力一本化しているところがある。

リアルアバターというコンテンツが、これ以上ない程に便利であることも欠かせない。現実でもオフでも同じ顔なんだから、信頼を得やすい。一方で、自分だと分かられたくなければ、その服装をしなければいい。リアルアバターというのはとにかく、自分の最大の武器であり、紛れもなくこの姿と、そしてこの仮面も含めて「俺の顔」なのだ。

新しい自分が定着すると今度は、創作とはとても言えないような妄想が捗るようになる。

元軍人の探偵サイボーグの俺が、その巻き込まれ体質から数々の事件と陰謀に飲まれ、足掻いていくハードボイルドな話とか(実は手術嫌いでサイボーグではないという設定なのが個人的にミソだと思っている)。美少女アンドロイドと、宇宙を股にかけるスペースオペラも悪くないと思った。

実家との軋轢から解放され、自分との付き合い方を覚えて、新しい世界でも楽しく暮らしていた。

……1週間のあの実験が、始まるその前までは。

1週間の人体実験、実際には人体ではなくアンドロイドボディを使った全身義体による…まぁそんなことは今はどうでもいい。黒猫の気紛れ、バーチャル美少女の見る夢、集団妄想、自己乖離、増殖するオリジナル不在のクローン…。

振り返っても何が何だか説明がうまくできそうにない、凶悪な人体実験が行われた。これは、紛れもなく仮想現実で実際に起きたことである。

これから少しづつ、この場で語って行こうと思う。

#ますきゃっと義体実験中 の、DJ-09視点のレポートを、ここにまとめる。



次回、実験1日目「過負荷の変身」

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