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短編集

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小説家になりたい夢__ ショート・ストーリーを中心とした物語です。
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#抒情詩

短編「桜の記憶」

短編「桜の記憶」

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当時、学生だった僕にとって
社会人として働いている彼女Sの存在は
まさに憧れのお姉さんであり
高嶺の花だった。

初めてデートの約束を取り付けて
憧れのSと念願のデートの行き先は
京都の清水寺に決まった。

向かう道中は産寧坂(三年坂)を登る。

冷たい風に入り交じる草木の爽やかな薫りは
桜の花びらを撫でるように
生命の息吹きが駆

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短編「夜明けのLukta-Gvendur」

短編「夜明けのLukta-Gvendur」

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カチンと
Zippoの金属音が響く。

暗がりのガレージでライターを灯し
すっかりと乗らなくなったオンボロ車のエンジンをかけてみる。

ようやくキー穴を探し
セルを何度か回してみたが
エンジンはかからない。

(ダメかな?)

諦めかけた時
ふいにカーステレオから懐かしいジャズが聴こえてきた。

(バッテリーは残っていたんだな。)

すっかり銀髪に

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短編「Swallow Tales」

短編「Swallow Tales」

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五月だというのに
季節外れの猛暑が到来した

まだ来ぬ梅雨を通り越して
湿り気のない暑さを凌いでいると
一羽のツバメが飛んで来た

わたしは恐る恐る
窓をほんの少しだけ開けてみる

彼は群れから離れて
一番乗りに飛来したけれど
この突然の暑さで
むしろ取り残された風に
目を円くしている姿に
愛らしさがあった

彼とははぐれ者同志と

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短編「職人気質」

短編「職人気質」

〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜°〜

入社して2年目
工業の業界で働き出して間もない頃のこと。

当時は腕一本で頑固一徹に働いてきた
戦前生まれの職人さんが多かった。

職場の課長は当時30代後半のいわゆる
団塊の世代であり
それよりもさらに上の世代となる熟練工の方は
既に50歳を過ぎており
歴戦を潜り抜けてチェスのポーンが
プロモーションしたような
《昇格:将棋の歩兵から"と金"に成

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