無糖ラスク

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短編小説「雲とブルべ」

 草むらに飛び散った火の玉を写真に収める。仲の良い同級生と麦わら帽子に白いワンピース、手首の小さな時計とビーズのついた髪留め、最後にピースを目に翳せば、ほら、女…

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1か月前
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短編小説「新世界」

1  薄暗い地下の入り口では、正面から倒されたドミノのように、エスカレーターが下に流れていく。その流れに逆らって、ドブねずみは地上に出ようと足掻いていた。  地…

無糖ラスク
1か月前
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③「罪人の使徒~使徒の仕事は疲れたので神様殺すことにしました~」

第三章    夕食は地獄だった。担当のユダが悪いのではない。  黙々とスープを口に運ぶリリィの隣で、コゼットが物憂げな顔をしているからでもない(少しはそうかもし…

無糖ラスク
3か月前

②「罪人の使徒 ~使徒の仕事は疲れたので神様殺すことにしました~」

2章  森の中心、私たちが暮らす大きな木造りの家、アトリエに着くと、コゼットを含む数人の同僚が、私に声を掛けた。 「お帰り、ノクリア」 「ノクリアお姉ちゃんお帰…

無糖ラスク
4か月前

連作小説「罪人の使徒 ~使徒の仕事は疲れたので神様殺すことにしました~」

プロローグ   勇者が死んだ。  この知らせはまたたく間に町中へ広まった。  何者かに刺されたらしい。血を流して倒れている。  魔王を倒すことは名誉となる。この…

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4か月前

短編小説「レモン・ムーン・ナイト」~どうにもならない少女~

 その日の夜はものすごく体がよかったのでした。  快調と絶好調、凌駕するそれは この上ないほどの気分でした。  短気な私にとって始終堪忍袋は空気を入れたてたばかり…

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短編小説「雲とブルべ」

 草むらに飛び散った火の玉を写真に収める。仲の良い同級生と麦わら帽子に白いワンピース、手首の小さな時計とビーズのついた髪留め、最後にピースを目に翳せば、ほら、女の子らしい写真の完成だ。SNSのアプリを起動させ、 #夏の定番  とタイプして、みずみずしい写真を投稿する。仲の良い女子たちが囲んで線香花火を楽しんでいるような。こんな具合で瞬く間に二、三件のハートマーク。
 あなたは見てくれるだろうか? 見

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短編小説「新世界」

短編小説「新世界」



 薄暗い地下の入り口では、正面から倒されたドミノのように、エスカレーターが下に流れていく。その流れに逆らって、ドブねずみは地上に出ようと足掻いていた。

 地下に降りるエスカレーターは、焦ることも、休むこともせずに、ドブねずみが進むはずの反対方向に流れ続けていた。

 少年は両脛を、鉄パイプみたいに痩せた手で抱えて、腰を下ろし、沈んだ瞼でその小さな勇姿を見つめていた。

 彼のぼろぼろになっ

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③「罪人の使徒~使徒の仕事は疲れたので神様殺すことにしました~」

第三章

 
 夕食は地獄だった。担当のユダが悪いのではない。

 黙々とスープを口に運ぶリリィの隣で、コゼットが物憂げな顔をしているからでもない(少しはそうかもしれない)。

 私は殺していない。

 リザードマンを送った後の一連のできごと。決して誰かに話してはならない。
 侵入者がいたことも。

 誰かに話していないのに、どうしても周りを窺ってしまう。
 溺れた目がユカと八合わせる。彼女が意地

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②「罪人の使徒 ~使徒の仕事は疲れたので神様殺すことにしました~」

2章

 森の中心、私たちが暮らす大きな木造りの家、アトリエに着くと、コゼットを含む数人の同僚が、私に声を掛けた。

「お帰り、ノクリア」
「ノクリアお姉ちゃんお帰り」

 リリィの無気力な声に続いて、コゼットの明るいお帰りが聞こえた。

 コゼットの隣に座ったリリィは、何が楽しいのか薬草をいじっている。
 ウルフカットの彼女の髪の色は、ピンクに近い紫色だ。彼女の雰囲気は独特だが、寡黙だから私に害

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連作小説「罪人の使徒 ~使徒の仕事は疲れたので神様殺すことにしました~」

プロローグ 
 勇者が死んだ。

 この知らせはまたたく間に町中へ広まった。

 何者かに刺されたらしい。血を流して倒れている。

 魔王を倒すことは名誉となる。この世界の常識だ。

 そんな人物がまさか、自分が倒した相手と同じ殺され方をするなんて、思いもしなかっただろう。

 彼も、私たちも。

 血にまみれた人間を見て思う。

 いつになれば、何人救えば、私たちは救われるのだろう。

「大丈夫

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短編小説「レモン・ムーン・ナイト」~どうにもならない少女~

 その日の夜はものすごく体がよかったのでした。
 快調と絶好調、凌駕するそれは この上ないほどの気分でした。
 短気な私にとって始終堪忍袋は空気を入れたてたばかりの小さな風船のように破裂しやすいはずなのですが、なんといえばよろしいのか、その夜は些細な言葉さえも呑み込むことが出来たのです。
 たとえ下を向いただらしない姿勢を指摘されたとしても、私は言い返さずに済んだのでしょう。
 そういえば今彼女に

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