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あのときの王子くん

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#内村鑑三

日蓮上人──仏教の僧 2   内村鑑三

日蓮上人──仏教の僧 2  内村鑑三

4 宣言

「預言者はおのが故郷において尊まるることなし」という。それにもかかわらず、予言者が常にその公生涯をその故郷で始めるというのはいたましい事実である。この世に枕する所のないのをおのが運命と知りつつも、なお故郷に引かれ、そこでどのように扱われるかを知り尽くしながらも、鹿が谷川を慕いあえぐようにそこに行き、そこで拒絶され、石で打たれ追い出される、それが予言者の運命である。蓮長の場合もまた例外で

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日蓮上人──仏教の僧 1  内村鑑三 

日蓮上人──仏教の僧 1  内村鑑三 

1 日本における仏教

 宗教は人間の最大の関心事である。本来の意味において宗教を持たない人間がいることは考えられない。われらの欲望ははるかにわれらの能力を超え、われらの願望は世界の総力をもってしても満たし得ないというこの不可思議な世においては、この不釣り合いを除くために何かをなさなくてはならぬ。行動でそれをすることは不可能であるとしても、少なくとも思考の中では何かをなさなくてはならぬ。

「自分

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中江藤樹──村の教師  内村鑑三

中江藤樹──村の教師  内村鑑三

一 日本の教育

 
《われわれ西洋人が君たちを救いに行く前、日本の学校教育はどんな形のものだったのですか。君たち日本人は異教徒の中では最も賢い国民であるように思われる。何らかの道徳的、知的の訓練を受けたればこそ、君たちは過去においてまた現在においてこれほどになり得たのだとわれわれは信じるのですがね》

故国を離れて初めて西洋人の間に立ち交じった日本人に対し、文化的な西洋人は往々にしてこんな調子の

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日蓮上人   内村鑑三

日蓮上人   内村鑑三



代表的日本人

日蓮上人──仏教の僧           内村鑑三著  内村美代子訳

1 日本における仏教

 宗教は人間の最大の関心事である。本来の意味において宗教を持たない人間がいることは考えられない。われらの欲望ははるかにわれらの能力を超え、われらの願望は世界の総力をもってしても満たし得ないというこの不可思議な世においては、この不釣り合いを

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中江藤樹──村の教師  内村鑑三

中江藤樹──村の教師  内村鑑三



中江藤樹──村の教師                             内村鑑三著  内村美代子訳

1 日本の教育 
《われわれ西洋人が君たちを救いに行く前、日本の学校教育はどんな形のものだったのですか。君たち日本人は異教徒の中では最も賢い国民であるように思われる。何らかの道徳的、知的の訓練を受けたればこそ、君たちは過去においてまた現在においてこれほどになり得たのだ

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西郷隆盛  内村鑑三

西郷隆盛  内村鑑三



代表的日本人西郷隆盛 新日本の建設 内村鑑三 内村美代子訳

1 一八六八年の日本革命

 天の命によって日本が初めて青海原の中から現われたとき、この国に与えられた命令はこれであった。
「日本よ、なんじの門の中にとどまれ。われがなんじを呼び出すまで世界と交わることなかれ」
 それゆえ日本は二千余年もの間、

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二宮尊徳   内村鑑三

二宮尊徳   内村鑑三



代表的日本人

二宮尊徳 農聖人  内村鑑三 内村美代子(訳)
1 十九世紀初頭の日本農業

「農業は国家存在の基礎である」という。これはわが国のように海運、貿易の面であらゆる利益を享受しているにもかかわらず、国民の主要な食料を自国の土に仰いでいる国では、ことに本質的にその通りである。そのうえ十五万平方マイルの国土のうちのわずか二割という狭い耕作地によって、四千八百万という莫大な数の人

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上杉鷹山 (下)  内村鑑三

上杉鷹山 (下)  内村鑑三



代表的日本人  上杉鷹山  内村鑑三著 内村美代子訳

5 社会と道徳との改革

 東洋的考えの一つの美しい特徴は、経済を道徳と切り雎して取り扱わなかった点である。東洋の哲学者にとって富は必ず徳の結果であり、富と徳との相互の関係は実と木との関係にひとしかった。木に肥料を施せば、努力せずに実を得ることができるように、人々に愛を施せば必ず富をなすことができる。それゆえ偉人は木を思って実を得るが、小

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上杉鷹山 (上)  内村鑑三

上杉鷹山 (上)  内村鑑三



代表的日本人・上杉鷹山 (上)   内村鑑三

1 封建政体

「神の国」の出現はこのみじめな地上ではついに望み得ぬことであろうか? 人類はこれを全く望みなきことにあらずとして切望して来たし、人類の歴史はそのそもそもの始めからそれと明らかに自覚はしないながらも、神の国をこの地上に実現しようという試みの連続であったように思われる。クリスチャンはヘブライの預言者の理想を受け継いで、十九世紀ものあい

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私たちは後世に何を残すべきか 上編 内村鑑三

私たちは後世に何を残すべきか 上編 内村鑑三



 序文
 
 この講演は明治二十七年、すなわち日消戦争のあった年、すなわち今より三十一年前、私がまだ三十三歳の壮年であったときに、海老名弾正君司会のもとに、箱根山上、蘆の湖の畔においてなしたものであります。
その年に私の娘のルツ子が生まれ、私は彼女を彼女の母とともに京都の寓居に残して箱根へ来て講演したのであります。その娘はすでに世を去り、またこの講演を一書となして初めて世に出した私の親友、京都

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私たちは後世に何を残すべきか 下編 内村鑑三

私たちは後世に何を残すべきか 下編 内村鑑三



 昨晩は後世へわれわれがのこして逝くべきものについて、まず第一に金のことの話をいたし、その次に事業のお話をいたしました、ところで金を貯める天才もなし、またそれを使う天才もなし、かつまた事業の天才もなし、また事業をなすための社会の位地もないときには、われわれがこの世において何をいたしたらよろしかろうか、事業をなすにはわれわれに神から受けた特別の天才がいるばかりでなく、また社会上の位地がいる、われ

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後世への最大遺物 4  内村鑑三

後世への最大遺物 4  内村鑑三



 さて、私のように金を貯めることの下手なもの、あるいは貯めてもそれが使えない人は、後世の遺物に何をのこそうか、私はとうてい金持ちになる望みはない、ゆえにほとんど十年前にその考えをば捨ててしまった、それでもし金をのこすことができませぬならば、何をのこそうかという実際問題が出てきます、それで私が金よりもよい遺物は何であるかと考えて見ますと、事業です、事業とはすなわち金を使うことです、金は労力を代表

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後世への最大遺物 3  内村鑑三

後世への最大遺物 3  内村鑑三



 また有名なる慈善家ピーボディーはいかにして彼の大業を成したかと申しまするに、彼が初めてベルモントの山から出るときには、ボストンに出て大金持ちになろうという希望を持っておったのでございます、彼は一文なしで故郷を出てきました、それでボストンまではその時分はもちろん汽車はありませんし、また馬車があってもただでは乗れませぬから、ある旅籠屋の亭主に向い、「私はボストンまで往かなければならぬ、しかしなが

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後世への最大遺物 2     内村鑑三

後世への最大遺物 2  内村鑑三



 しかるに今われわれは世界というこの学校を去りまするときに、われわれは何もここにのこさずに往くのでございますか、その点からいうと、やはり私には千載青史に列するを得んという望みがのこっている、私は何かこの地球に Memento を置いて逝きたい、私がこの地球を愛した証拠を置いて逝きたい、私が同胞を愛した記念碑を置いて逝きたい、それゆえにお互いにここに生まれてきた以上は、われわれが喜ばしい国に往く

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