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#掌編小説
夕闇の本(掌篇小説)
ある人に一冊の本を手わたされた。ページをめくっても、すべて白紙だった。本を目から遠ざけたり近づけたりするように言われ、その通りにした。
次に彼人が本を持ち、開いたページを私に向けた。そして離れるように指示した。私は言われるがままに少しずつ後ずさっていった。すると、突然ピントが合い、ページに文字が現れた。さらに下がると文字は消えたので、戻って見える場所を調整した。だが本との距離があり過ぎたために
手の写真(掌篇小説)
大学構内のカフェテラス(無人販売)で、デジタル一眼レフカメラのディスプレイを確認していると、その人が私の横に立った。
そして「私の手の写真を撮ってくれない?」と言った。私はいささか困惑した。面識のない人に、いきなりそんなふうに要求されたら誰でも不審感をおぼえるに違いない。
その人物は――守基(まもき)さんという他学科の同級生であるのをあとで人づてに知った。たしかに目の前に差し出された彼女の手
文字の涙(掌篇小説)
あなたの目から数珠繋ぎの文字が流れる。あなたは目をしばたかせ、涙だと言った。しかしそれは勘違いらしく、右の涙腺から溢れているのはどうやら湿った文字のようだった。見慣れた平仮名や片仮名や漢字やアルファベットではなくて、見たこともない不思議な文字だった。
あなたはそれをつまんでするすると引き寄せる。すると途切れることなく一本の縄状の文字の集まりが現れた。
あなたはラプンツェルみたいだと言い、私に