黒澤伊織@小説

短編小説・エッセイを主に書いています。ジャンルは、社会派・純文学。旧ペンネーム「山野ね…

黒澤伊織@小説

短編小説・エッセイを主に書いています。ジャンルは、社会派・純文学。旧ペンネーム「山野ねこ」名義の『夜鬼』がマンガボックスでコミカライズされています。また以前刊行した『ブラッドライン』が短編1編を加えて文庫化しました。よろしくお願いします。

マガジン

  • まくらのそうし

    日々の風景、周りの自然などを綴ったエッセイです。毎日更新。1話は原稿用紙1枚ほどです。田舎暮らしの風景をお届けします。

  • 短編小説集

    原稿用紙10枚から30枚の短編小説です。

  • ショートショート小説集

    原稿用紙10枚以下のショートショート小説集です。

  • 短編小説集『りんごのある風景』

    りんごをテーマにした短編小説集です。

  • 【小説】何が、彼女を殺したか

    長編小説『何が、彼女を殺したか』の各話をまとめたマガジンです。全21話です。

最近の記事

  • 固定された記事

note記事サイトマップ★全記事一覧表

noteに投稿している記事の一覧表。各作品へのリンクです。 ★『ショートショート小説』(原稿用紙10枚以下。1分ぐらいで読める小説です) 📙 月が綺麗ですね (文学) 📙 冷凍庫より愛を込めて (ホラー) 📙 こいのぼりさん (ファンタジー) 📙 女子高生のピタゴラス (コメディ) 📙 夏の果て (ヒューマンドラマ) 📙 僕の魔法の使い方 (ヒューマンドラマ) 📙 つまらない男 (ヒューマンドラマ) 📙 おかあさん (ヒューマンドラマ) 📙 再会 (ヒューマンドラマ) 📙

    • 【エッセイ】 冬支度

       秋は春と似たり、渡りの鳥のやってきて、あちこちさえずり、やかましい。  一体どこから来るものか、目的地はどこなのか、そこら中で鳴く虫は、さしずめ肉の焼ける音、鍋のぐつぐつ煮え立つ音に聞こえるか、これだけいれば食べ放題、ベジタリアン向けに木の実もあれば、山はビュッフェ会場というわけか。  夏の夜から毎夜来る、窓のカエルも寒さに震え、それでも冬眠前のエネルギー補給、動けなくなるそれまでは、灯りに集まる羽虫を食らい、甘藷の畑をイノシシが掘り起こす、稲刈り後にはシカが来る、各々

      • 【エッセイ】 ゴーヤの山

         夏野菜のキュウリやトマト、体を冷やすものならば、秋には扱いも困るものだが、その最たるものがゴーヤという、南の島のニガウリである。  ニガウリという名の通りのその苦味、暑い盛りには良いのだが、涼しくなれば体も欲さず、しかし間の悪いこと、盛夏に育つ株ならば、走りが出るのが八月終わり、どっさりその実がなる頃には、季節は秋、涼しさの増し、苦味など必要ない人の体、取れたゴーヤの山を前にして、お前はいつでも季節外れだと、文句も出ようものである。  ところで、このゴーヤのおいしい食べ

        • 【エッセイ】 網戸の小蜘蛛

           一センチにも満たない、コガネグモの幼体が小さな網を張っている。大人たちと同じように、きちんと足をバッテンの形に揃えて、仲良く二匹、並んでいるのだ。  これが馬鹿な二匹である。なぜなら、その巣は網戸に張られ、それもいつのまにその目をくぐり抜けたのか、網戸の内側にいるのである。ガラス戸と網戸に挟まれて、餌の虫など来るはずもない、その場所に。  一体、いつになったら気づくものやら、気づけばきっと出てくだろう、まぁ、気づかないままそこで死んでも、人には関わりのないことだ――と見

        • 固定された記事

        note記事サイトマップ★全記事一覧表

        マガジン

        • まくらのそうし
          210本
        • 短編小説集
          32本
        • ショートショート小説集
          32本
        • 短編小説集『りんごのある風景』
          32本
        • 【小説】何が、彼女を殺したか
          22本

        記事

          【エッセイ】 台風と夏の終わり

           台風が夏を連れ去ったようで、涼しさではない、寒さが山を覆う。  今年初、が多い今年という年ではあるが、この台風の威力もまた初めてのもの、風も雨も丸一日吹き荒れて、散歩道は落ちた木の枝葉に埋め尽くされる。そろそろ薪ストーブのシーズン、焚き付けを落としてくれたのか。  それにしても、木々の上には人の知らない世界があるようで、青く小さなアケビだの、椎の実だのが、枝葉と運命を共にする、そこへひらりと蝶が飛んできて、これが見たこともない渋い金の蝶、いや待て、これは風雨に洗われ、色

          【エッセイ】 台風と夏の終わり

          【エッセイ】 女郎蜘蛛の天下

           ジョロウグモばかりの年である。  こんな年は珍しく、例年、コガネグモの天下であるが、それがどういうわけか揺らいだらしい。一体、何が要因かなど、誰の興味も引かぬ故、誰も知らないままである。  短絡的に結びつければ、異常な暑さ、アブの発生、ジョロウグモの天下と、こうなるが、これも十数年で初めての出来事、再びその要因がまみえるが、十数年後のことであれば、人の命は短すぎ、やはりジョロウグモの天下の謎は、誰も知らないままである。  異常と言えば、昨夜の網戸、闇に活動しないはずの

          【エッセイ】 女郎蜘蛛の天下

          赤い人工物

           台風過ぎて、夏のものは終わりに近づく。  トマトなど、毎年のことながらてきめんで、一気に生命力を失って、あとは虫に食われるがまま、これが盛夏の頃はといえば、虫も寄せ付けぬ強さがあった、台風はその終わりを早めるようである。  そうなれば、株を抜き、片付けてしまえば良いものを、良くも悪くも踏ん切りがつかぬもので、だらだらと畑にある、割れた実、食われた実が腐り落ち、土に還ってゆくのを見ている。  これが物語ならば、翌春、トマトの芽が出でて、巡り巡るこの世の秩序を教えてくれる

          根を張って生きる

           橙の木の、それは接ぎ木苗であったのが、台木のほうが成長し、接がれたほうは滅んでしまう。  そもそも接ぎ木苗というやつは、病害虫に強い台木の上に、病害虫には弱いが、食味が良かったり、実のよく成る木を接いだもので、するとその木は台木と接ぎ木の特性を併せ持つ、人間に都合の良いものとなり、重宝されるものである。  人間で言えば、病弱な天才の首から上をちょん切って、アスリートの頑強な肉体に接いだというようなものか。  しかし、これが上手く行くと思いきや、アスリートの細胞が首から

          根を張って生きる

          公園にブルーベリーがあればいいのに、と思う

           グミやスモモは一気に成るが、ミニトマトやブルーベリーなど、ぼちぼち成って、毎日小鉢一杯分の楽しみとなる。  特に、今年は雨のないせいで、ブルーベリーの豊作で、ピカピカ光る黒い実を、ちまちま摘むのもとても楽しく、これだけ食べれば目も良くなるかと、あらぬ期待を抱きもする。  これだけ涼しい頃になれば、皮も幾分固くなり、黒くなるのに時間もかかるが、それだけ甘く充実した味、まだまだ小さな青い実あれば、九月いっぱい楽しめそうだ。  まったく都会の公園なども、毒木や毒草など植える

          公園にブルーベリーがあればいいのに、と思う

          アブとトンボと散歩道

           今年のアブは凄まじく、山だけでなく、町まで出るということで、まさにアブの当たり年、人は困ったものである。  かく言う山も、入るな危険、一歩木陰に踏み込めば、瞬く間にアブの十匹二十匹、とても歩けたものじゃない、散歩道も封鎖され、しばらく朝の楽しみはお預け、道中に成るまたたびの実も、指を咥えて見るしかない。  このアブが消えてしまうには、別の勢力が必要であり、それが我らが益虫・トンボ、いまもいるにはいるのだが、その二倍三倍羽化したところで、アブを捕まえ、食べてしまう、早くそ

          アブとトンボと散歩道

          【短編小説】 幸せなバッタは青空を登る

           ——私の愛する妻、美里ならびに、息子である信太郎へ。  この手紙を書き始めるに当たって、まず、少し恥ずかしいような思いがするのは、こんなフレーズから始めることしかできないからだ。けれど、どうか二人とも笑わずに、真剣に読んで欲しい。いいか、行くぞ。  この手紙をお前たちが読んでいるということは、私は既に、この世からいなくなっているということだろう。  ——どうだ、笑わずに読んでくれただろうか。まるで映画の主人公のような台詞を真面目に書くには、少しばかり勇気が要る。特にそ

          【短編小説】 幸せなバッタは青空を登る

          小さな尺取り虫

           小鉢に摘んだブルーベリーに、細い細い糸くずが、よく見れば懸命に尺を取っている、小さな尺取り虫である。  うっかり食べるところであった、これは放してやらなければと、摘まもうとするが、これが糸くずよりも細く短い、ころんとブルーベリーの間に落ちて行方知れず、仕方がないと水に浮かべ、洗って探すが、やはりこれが見つからない、恐らくブルーベリーにくっついて、再び鉢に入ったのだ。  仕方がないと、食べ始めながら、野いちごなり、木の実なり、虫が付くのは当たり前、つぶさに観察などせずに、

          小さな尺取り虫

          【短編小説】 ディストピアな僕ら

           世界は、透明なピアノ線が張り巡らされて、迂闊に動けば切り刻まれる。手足に、腹に、顔に、首に、傷を負ってきた僕たちは、だから姿勢を崩さず、生きている。自由? それは誰かの空想で、夢や希望と同じもの。現実にはない、そんなものを掴もうとすれば、待っているのは痛みだけ。再び切り刻まれて、苦しんで、結局元の場所へ戻るだけなら、初めから何もしないほうが賢いだろう。  思えば、親や学校の先生は、世間は、ずっとそう教えてくれていたのだ。こうしなければ傷つくと——例えば、勉強をして、いい成

          【短編小説】 ディストピアな僕ら

          暑さ寒さも彼岸まで

           暑さ寒さも彼岸までとは言うが、ここらで暑さはお盆まで、といったところ、そこを過ぎれば一抹の冷気が風に差し、秋の風が今年も吹いたと思えるようである。  とはいえ、今年の暑さは尋常でなく、三十度など超えたことのない山の暮らしも、へばるような暑気、これは盆を過ぎたとて、どうにもならぬのではないかと心配していたところ、やはりやってきた秋の風、ほっと安堵し、しばし涼む、とはいえ、夕方からの冷たい風には、体調管理が必要である、暑さに慣れた体なら、今度は寒さに慣れればならぬと、忙しいも

          暑さ寒さも彼岸まで

          【短編小説】 こどもの命は誰のもの?

          「『うちは選択子無しですから〜』って言う人、いるじゃない? 子供がいない人生を選びました、とか偉そうに言う人。あれ、変な話だなって思うんだよね。だって、子供がいる状態を経験したことがないんだから、選択できるわけがないじゃん。子供がいるって、生活に劇的な変化が起きるんだよ? それも分からないままに『選択した』って言い方がおかしいよ。そもそも、子供が欲しくても妊娠しない人もいるのにさ、『もちろん、子供がいる人生を選択することはできるんですけどね』みたいな感じも変だと思うし」  

          【短編小説】 こどもの命は誰のもの?

          【エッセイ】 白い梅干し

           今年も結局、白梅干し、天気も読めぬ山ならば、博打のように見繕い、太陽の下に梅を並べる。  天気予報はずっと雨、夏は夕立も多ければ、雨と言っときゃ文句はないだろうという精神か、カンカン照りも雨の日も、予報は雨と動かず、意味もなく、網に梅を並べながら滴る汗、酸っぱい香りが風に乗る。  梅をもぐのに、梅干し用には大きな良いものを、梅酒用には小さいものをと選んだおかげで、いつも以上に柔らかく、ふっくらとした梅の数々、気をつけなければ皮の破れ、保存が利かないようになる。  しか

          【エッセイ】 白い梅干し