赤い人工物
台風過ぎて、夏のものは終わりに近づく。
トマトなど、毎年のことながらてきめんで、一気に生命力を失って、あとは虫に食われるがまま、これが盛夏の頃はといえば、虫も寄せ付けぬ強さがあった、台風はその終わりを早めるようである。
そうなれば、株を抜き、片付けてしまえば良いものを、良くも悪くも踏ん切りがつかぬもので、だらだらと畑にある、割れた実、食われた実が腐り落ち、土に還ってゆくのを見ている。
これが物語ならば、翌春、トマトの芽が出でて、巡り巡るこの世の秩序を教えてくれるものではあるが、残念ながらこれは現実、トマトの権利も奪われた、一世代限りのF1種なら、芽吹きはしても実は成らぬもの、金によって歪められた、自然の皮をかぶっただけの、赤い人工物である。
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