短編小説 『ピエール=アルベール・マルケ「レ・サーブル・ドロンヌ」』
ピエール=アルベール・マルケ画「レ・サーブル・ドロンヌ」
(国立西洋美術館 常設)
——この灰がかった透明な海の色は、きっとマルケにしか出せない色であろう。
イヤホンから流れるガイド音声が、厳かにそう告げて、あとには静寂だけが残った。
平日の美術館、それも期間限定の特設展ならまだしも、常設展示に人は少ない。混んでいれば、ベルトコンベアよろしく、流れ作業で見ていくしかない絵画も、今日のような日に来れば何時間でも独り占めできる。百年も——あるいは数百年も前の時代に思い