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#短編小説
綴草子〜千夜一夜小噺集〜 精霊に魅入られし者
-あらすじ-
誰かの人生を垣間見ることができる物語集『綴草子〜千夜一夜物語集〜』。
ページを開くと誰かの不思議な話が顔を出す。時には、恋の話を。時には、ちょっと感動する小噺を。
これは、現実か夢か、はたまた幻想か。どこかで、聞いたことがあるかもしれないし、ないかもしれない。
さぁ、ページをめくってみてください。誰かの人生を覗き見てみましょう。
-総文字数-
約37305字
#創作大賞2
綴草子〜千夜一夜小噺集〜 不思議なきっかけ
私は、とある会社のOL。彼氏はいる、一応。
今日もパソコンに向かう。エクセルを、ようやく使いこなせるようになってきた。でも、完璧なブラインドタッチはまだできない。
派遣社員という立ち位置は、時に居心地良く、時に居心地悪い。派遣先にもよるのだろうが、私のいる会社は、残業がない。時給の低さに、ため息が出る。
「お先に失礼します」
いつもの挨拶をして、定時退社する。本来ならば、それが正しいはずな
綴草子〜千夜一夜小噺集〜 ボーダーライン
#創作大賞2023
ソファにかけていた。何もしたくない。食欲もない。なんなら、入浴などの清潔行動すらできない日もある。
出てくるのは、イメージのみ。とある男女の話、猫と女性の話……挙げだすとキリがない。
仕事に行かねばならぬとわかっていた。準備を整え、靴を履いた。なのに、そこから先が動かない。動けない。冷や汗が出る。時間は刻々と過ぎて、気付けば遅刻確定の時間だった。
一先ず休みを取った
綴草子〜千夜一夜小噺集〜 酸性雨
#創作大賞2023
カランと鐘の音と共に扉が開く。
「いらっしゃい」
渋い声が店内に広がる。
「開いてるかい?」
「あぁ……いらっしゃい。開いてますよ」
コートにハットを深めに被った男性が、ぬっと入店する。室内では、陽気なジャズが流れている。
客と思しき男性は、迷うことなく奥のカウンターへと向かう。
彼はハットを外して、腰を掛けた。
「今日は降りそうですぜ、マスター」
綴草子〜千夜一夜小噺集〜 前掛け
#創作大賞2023
さて、一つ不思議な話をしよう。
ある一人の女性がいた。彼女は、いつもの道でいつもの自転車に乗り、いつもの時間に家路へと向かっていた。
職場と家路のちょうど半分のあたりに、祠があった。その祠には、優しい笑顔を浮かべた地蔵が安置されていた。
真面目な彼女は、毎日そこを通るたびにお参りするようにしていた。彼女にとっての道祖神であった。
毎朝毎晩欠かさずお参りした。彼女は決
綴草子〜千夜一夜小噺集〜 月と星
#創作大賞2023
僕との出会いは、偶然だった。その時の僕たちは、月と太陽のような距離だった。
「すみません!」
「いえっ……」
僕は、雑踏の中にいた。感覚でいえば、雑踏の中に僕がいるのと同時に、僕の中に雑踏がいた。
僕の脳は、暑さでどうにかなりそうだった。
独り、雑踏の中を歩く。暑さで靄がかかったようなアスファルトを、人ごみの隙間から覗いていた。
「きゃっ……」
「あ、すみません
綴草子〜千夜一夜小噺集〜 レモンティー
#創作大賞2023
ある日のことだった。とある女性が雨宿りをしていた。彼女はびしょ濡れの子犬のように震えていた。
彼女の雨宿り場所に、一人の青年がやって来た。
彼女を見たその青年は、足を止めずにはいられなかった。何故なら、あまりにも彼女が震えていたから。
「あの……大丈夫ですか?」
青年が声をかける。彼女は、びくりと反応をし、彼の方へ視線を向けた。彼女は泣いていた。
「大……丈夫…
綴草子〜千夜一夜小噺集〜 自由への招待
#創作大賞2023
僕は夢を見た。不思議な夢だった。
彼女たちの頭には芽が出ていた。聞いた話によると、初潮を迎えた証らしい。
彼女たちの頭には花が咲いていた。聞いた話によると、初体験を迎えた証らしい。
彼女たちは、気付いている。その植物の存在に。でも、違和感はないのだと言う。気付いたら生えているらしい。
僕は、彼女たちを眺めている。まだ何も出ていない者。芽の出た者。花が咲いた者。彼女
綴草子〜千夜一夜小噺集〜 二人だけの千夜一夜物語
#創作大賞2023
彼にとって、冬から春は温かい季節だ。あの子がやってくるから。
空気が心持ち暖かくなりつつあるこの時期、あの子はやって来る。彼女は、早起きした春風に乗ってやって来る。
少年は、彼女に会いに森に行く。湖のほとりで彼女と会うのだ。
「久しぶりだね」
「ふふ、今年も会いに来たよ」
彼女はとても小さい。いつも、そっと木陰で、いつもこの時期を過ごす。
「今日から、またしばら
綴草子〜千夜一夜小噺集〜 コーヒーの苦味
#創作大賞2023
友が久々に会いに来る。私は、変わり果てた自分の体型を恨めしそうに眺めていた。
結婚して、子どもを産んで。気付くと、青春時代の面影は、遥か彼方に消え去っていた。
「こんな姿で引かれないかしら……」
仕事へ行く夫を見送り、子どもを両親に預け、いざ待ち合わせ場所へ。
彼女は、変わらずモデルのようなスタイルだった。
「久しぶり! 元気にしてた?」
彼女は、こんなにも
綴草子〜千夜一夜小噺集〜 優しさの積雪
#創作大賞2023
雪の降るある夜のことだった。私は、暖炉のそばで読書を満喫していた。
〝こんこん〟
窓の方から音がした。見ると、リスがこちらを覗き込んでいる。
僕は、窓をそっと開けて、その子を招き入れた。
「入れていただき、ありがとうございます」
リスは、丁寧にお辞儀をした。外はかなり寒かったのだろう。その子は震えていた。
「いや、構わないよ。寒かったろう? 暖炉のそばで暖ま
綴草子〜千夜一夜小噺集〜 これは夢のような現実の話
#創作大賞2023
これは、夢のような現実に起きた話だ
いつものように、一日を終えて、布団に潜り込む。布団の中で、僕は、元彼女となった女性との最後のやりとりを思い出していた。
「貴方は、誰にでも優しい。でもそれは、結果として優しさではないの」
僕の何がいけなかったのだろう? 僕は自問自答する。答えは出ない。
優しくする事が優しくないなんて、どうすれば良いんだろう?
僕は、彼女との
綴草子〜千夜一夜小噺集〜 遙かなる約束
#創作大賞2023
私は、この桜の木の下で約束した。今度こそ、あなたと添い遂げると。
私は、気怠さを体に纏いながら、体を起こした。
「ふぁーあ……。なんか、不思議な夢を見ていた気がするなぁ……」
午前七時。私は、洗顔を済ませ、トーストを焼く。そして、ラジオをつけて、コーヒーを淹れる。ラジオからは、珍しく私の好きなバンドの曲が流れていた。
トーストをかじりながら、ラジオを聴く。口の
綴草子〜千夜一夜小噺集〜 ターニングポイント
#創作大賞2023
ある日。悟は、ぼんやりと世界遺産を眺めながら、歩いていた。
ふと気づくと、猫がいる。悟は、何の気なしに猫を撫で始めた。
「人懐っこい猫だなー……」
そうぼやきながら立ち上がると、目の前にニコニコと悟を見る男がいた。
どうやら海外から旅行に来た様子だが、それにしても、荷物が少ない。
「Are you on a trip?」
合っているかわからない英語で、おそる