綴草子〜千夜一夜小噺集〜 ターニングポイント
#創作大賞2023
ある日。悟は、ぼんやりと世界遺産を眺めながら、歩いていた。
ふと気づくと、猫がいる。悟は、何の気なしに猫を撫で始めた。
「人懐っこい猫だなー……」
そうぼやきながら立ち上がると、目の前にニコニコと悟を見る男がいた。
どうやら海外から旅行に来た様子だが、それにしても、荷物が少ない。
「Are you on a trip?」
合っているかわからない英語で、おそるおそる聞いてみる悟。
「Yes! How about you?」
そこから、悟はスマートフォンで意味を調べつつ、わかる範囲の英語で彼と会話をし、SNSのアカウントを教え合った。
彼は、初めての外国籍の知人ができたことにドキドキしつつ、一緒に世界遺産を巡り、自身が知っている小話を教えた。
「アリガト!」
「You're welcome」
悟は、その男と別れ、帰宅しようと歩き出す。
のんびりゆっくり、今日の出来事を噛み締める。ふと、悟は思い出す。小学生の頃の夢を。
通訳ガイドに憧れた日々を。翻訳者に憧れた日々を。
「今日したことは、通訳ガイドみたいな感じだったな……」
悟にとって、とても楽しい時間だった。
悟は、なんとなく本屋へと向かった。語学の棚へとまっすぐ向かう。
「今からでも間に合うだろうか……?」
35才の自分に問いかける。
「今が一番若いもんな」
彼は、自身にそう言い聞かせ、一冊の本を手にレジへと向かう。
その姿は、男とおどおど話していた時とは違い、どこか自信の滲み出ている背中だった。
-次は、第十四話 海辺の不思議-
https://note.com/kuromayu_819/n/n4272f6445cd3
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